第2話

「由香里、マジで大丈夫か? 保健室行くか?」

そう俺が言うと由香里は観念したように

「すごい海翔心配してくれているみたいだけど、大丈夫。熱でも病気でもない」

本人がそういうなら信じよう。でも。それでも疑問は残る。

「じゃあなんで今日、なんか態度がおかしいんだ?」

すると、なぜか分からないが見る間に由香里の顔は赤みを帯びていく。

そんな由香里の顔を見たのはどれだけ久しぶりだろう。

そして由香里は観念した果のように口を開ける。

「あのさ、高校生になると人が増えるじゃん」

「ああ」

「だから悩みも増えると思うの」

「そうだな」

「だから、私が海翔に正直だったら海翔も私に相談しやすいんじゃないかなぁって思って。」

なるほどね。

やっぱり由香里は俺が知ってる由香里だった。何も変わっちゃいなかった。

俺は顔が赤くなりそうだったので後ろを向いてこういった。

「お前って、そういうところ変わらないよな」

後ろを向いてても由香里が笑ったのが分かった。

「そうかもね」

「わかった」

俺は由香里の方を向いてそういった。

「気ィ使ってくれてさんきゅな」

ふと時計を見たとき、もう9時になりそうな所だった。

なのに昇降口には誰もいない。

「なぁ、由香里。」

「ん」

「今日って学校か?」

「あ、あれぇ? 今日なはずなんだけどなぁ」

今の由香里のこの発言は嘘ではないだろう。さっきあんなに顔を赤くしてまであんな事言ったんだから。

「教室とかも電気ついてないぞ。上級生なら俺らよりはやくくるはずだろ」

「ちがったかもしれないね」

その後で知ったことなのだが、俺らが家を出て学校に向かっているときに、小学校から各家庭に連絡があったらしい。

『本日、青葉高校の校長先生が急に熱で具合が悪くなられたので、入学式は延期となります』────。

いや普通それくらいで中止にしないだろと思ったけれど、校長先生のお話とかがあるからまあ妥当な判断なのかな。

もう1個疑問に思ったのは、中止になるなら何でクラス分けの紙が貼ってあったのかな、ってこと。

なぜかそのことについては親と保護者の会(別名、PTA)の親に話しても分からなかった。

「帰るか?」

「そうだね」

俺らは疑問を残しつつ家の方へと足を向けた。

「そういえば今まで聞いたことなかったけどさ、海翔ってアニメとか見るの?」

「なんだよいきなり、まぁ、みるけどさ」

すると、由香里は嬉しそうに

「私、最近アニメとマンガにすごいハマってるんだぁ。海翔ってアニメとかマンガとかに手ぇ出さない人かと思ってた」

「そんなことねえよ」

まあ、最近読んだり見たりし始めただけだけど。

「俺の部屋結構マンガあるぞ。BOOK-OFFですごい大量に買いあさったから」

「へぇ、そうだったんだ。今度見てみたいなぁ」

「じゃあ明日俺ん家くるか?」

「いくいく」

にしてもなぁ、由香里がそこまでにやさしい奴だなんて思ってもいなかった。

──高校も何とか楽しくやっていけそうだな。

俺はそう思いながら由香里と色々な話をして帰った。


俺は家についたら面倒だなと思いながら手洗いとうがいをする。

「つめてえ」

4月とは言え、まだ少し肌寒い。

それから俺は2階にある、自分の部屋へと向かう。

階段は少し急でたまにつまずく。

部屋につくと、俺はノートPCをあけ、電源スイッチを押す。OSの起動画面が出てくる。

そのまま待っているのも暇なので、1階にジュースをとりに行く。

冷蔵庫からパックのオレンジジュースを取り出し、コップに注ぐ。母さんがいないから、冷蔵庫のドアは開けっ放し。

そして自分の部屋へと戻る。

PCはとっくに起動しており、ログイン画面が表示されている。パスワードを打ち込み矢印をクリックするとデスクトップが表示されるから、俺はブラウザを起動させる。

検索窓に「高校生 女子」と打ち込みエンターを押す。

画面がすぐに切り替わり検索結果が表示される。

──やっぱり光は速いぜ!

と、家のネット回線をほめつつ、検索結果をスクロールさせる、と。

「って、どれもエロサイトだなおい!」

というか、これって児童ポルノ法違反じゃね?

俺は、高学生になったら女の子は心境変化があるのかを調べたかっただけなんですが!

しかし、俺の家のWi-Fiにはプロキシが設定されていて、何調べたかとか、あと履歴とかが親に伝わっちゃうからこれ以上調べるのもやめた。

ちなみに、履歴が検閲されちゃうとアニメのニコ生とかが(恥ずかしくて)見ることができないから、俺はそういう時にはセブンイレブンのトイレにこもって、こっそり見るだとか、友達にキャプチャしてもらってさらにUSBに転送してもらってそれを見るとかの処置をとっている。

ノートPCを閉じてどかしてから俺はノートを机の上に置く。

実は俺、詩を書いているのだ。

どうしていつもこんなことになっちゃうんだろう、とか愚痴とか。

この事が知られたら何て言われるか分からないし、そのことが噂されたら恥ずかしくて死んでしまう自信がある。

だからこれは今までに誰にも言ったことがない趣味になっている。

今日は何を書こうかな、なんて思っていたらどんどん目がしょぼしょぼしてきてしまった。


目が覚めると俺は机に突っ伏していた。

どうやら、詩を書こうとしたところで寝てしまったようだ。

俺はゆっくりと顔をあげようとする。

すると、首が音をたてる。

「っ」

俺は言葉にならないような小さな声をたて、スマホを取り出す。

ちなみに、俺のパスコード(この呼び方だから分かる人もいるだろうけど、俺のスマホはiPhone)は4桁じゃなくて長い文章にしてある。これは、昔友人にパスコードを解読されたためである。

「うわ、むっちゃLINE来てるじゃん」

と、俺はホームのLINEアイコンの右上の赤い丸に23と書かれている表示を見て言う。

俺はアイコンをタップし、LINEを開く。

するとすぐに分かった。

──由香里どんだけ暇なんだよ。

来ていた通知のすべては由香里からで、その内容は、「明日は学校だよ」とか、「9時にマンション下来て」だとか、色々な文が並んでいる。

「本人見てねぇにここまで連続でLINEするかよ、普通」

と言いながら、俺は着たまんまだった制服を1回脱ぎ、シワを伸ばしてからもう1度着た。

ふと、脇にある時計を見ると8時半を指していた。

「どんだけ寝たんだよ、俺」

そして、俺は勢いよくドアを開けて由香里のマンション下まで向かう。

途中、まだ開いていない小学校の隣にある図書館のブックポストに本を返す。

そして急な坂(理不尽過ぎるくらいむっちゃ急)を降りる。

そして、ついたのは8時40分くらい。

間もなく由香里が降りてきて俺の顔を見るなり、

「ちぇっ、今日も負けちゃった」

と言った。

いや、そもそも勝負してねーし、と思いながらも

「そうだったな」

と言ってやった。

「今日は本当に入学式なんだろうな」

「海翔のお母さんがそう言ってたらそうなんじゃない?」

「そうだな」

そして俺らは昨日と同じように学校に向かった。

「♪」

由香里は鼻歌を歌っている。

「何かいいことあったのか?」

すると、由香里は、え? といった顔で俺にこういった。

「今日海翔の家行くって言ったから楽しみなだけ」

あ、あぁ。そういえばそんな話もあったっけ。

「もう、海翔。しっかりしてよ」

「お、おう」

いや、だから覚えてたって。

「入学式ってさ、1人ずつ名前呼ばれるんだろ」

「? 多分ね」

「小学校みたいでだるっ」

「あれじゃない?『校長である私はあなたたち1年生の名前を把握しましたからね! 下手なことしたらすぐとんでいきますよ!』っていうやつ」

「どんだけ意地悪なんだよその校長、あはは」

「我ながらにおもしろかった、ははは」

俺たちは学校がそろそろ見え始めたというところで笑いあう。

「そういえば部活もあんのか」

「高校だから当たり前でしょ」

「なにはいんだ?」

「まだきめてない」

だよなぁ。

実は俺もまだ決めていない。あいにく俺は体育系じゃないし。

ちなみに中学校の時、俺と由香里は理由こそなかったが部活には入っていなかった。

「海翔は?」

由香里にそう聞かれた俺は右手の人差し指を反りぎみに口に当て、

「ないしょ」

といった。

「誰の真似よ、それ。ばっかだぁ海翔はホントに」

「そんなことないぞ? 少なくともお前よりは」

「なんで比較対象が私なの!」

「どうでもいいだろ、だいたいなんでそんなこと聞くんだよ」

すると、由香里はさっきの俺のように反らせた右手の人差し指を口につけ、

「えへへ、ないしょ。」

といいやがった。

「お。出た本家」

「ちょ、私の真似!?」

「それ以外に誰がいんだよ」

由香里が必死に人の名前を出そうとすると、俺と由香里は後ろから肩を叩かれる。反射的に後ろを向く、と。

「あっれぇー? 朝から、入学式の日かららぶらぶしてるのかなぁ?」

声をかけてきたのは俺と由香里が4年生のときに引っ越してきた女の子、本田雅美だ。

俺たちとは違って運動神経がよくて、頭もいい。

人見知りじゃなかった本田は俺たちが話してるところに声を掛けにきて仲良くなった、というかんじかな。

「おー、本田。そんなんじゃないぞー。残念だったな。」

「雅美ちゃん、いつからそこにいたの!?」

「えーっとねー、ゆかりんが『ちぇっ、今日も負けちゃった』ってふてくされて言ってたところから」

ということは…。

「お前! 最初からずっといただろ!」

「あ。そこって最初だったんだー」

「ったく、いたなら声掛けろよなー」

「だってぇー、2人がすごいらぶらぶいちゃいちゃしてたんだもん」

誰がそんなことしてたんだよ!?

「そ、海翔と私はそんなんじゃないから」

「ごもっとも」

「でもでもー、海翔くんいじめすぎはよくないよ?」

「いじめてねーよ」

何のことを言っているんだかさっぱりわからん。

「ほらっ、ゆかりんからもいいなよ」

「海翔、いじめないで」

「だからいじめてねぇっつーの!」

俺は朝から大きな声で叫んでいた。

「朝から何かしら? 高校生?」

どうやらご近所の人に聞こえていたようだ。

「あーあ」

本田がそれだけ言う。

「いやー。いじめてないっていいたかったなーって。」

小声で同じ内容のことをもう1度言う。

「ふーん」

ようやく由香里も静かになった。

そして本田は耳打ちしてくる。

「らぶらぶしているところ邪魔しちゃってごめんね?」

って、誰がらぶらぶしてたんだよ!?

でも、いちいち反論するのがつかれるので、

「そうですか」

と返しておく。

すると、本田は由香里の方に行き、また耳打ちをし始めた。何やってんだ? と思っていると由香里の顔は見る間に赤くなっていき静かにこう言った。

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