Time of growth

深山大輔

第1話

家を出ると、春の暖かさが俺の体を包む。

俺は菊地海翔。今日から高校1年生だ。運動神経も頭脳も良くも悪くもない、普通の男子「高校生」だ。

「今日から『男子高校生』、かー」

小説とかで出てくるあの『男子高校生』になるなんて。とてもワクワクしている。

その浮き足立った俺の足は、マンションの目の前で止まる。

待つこと数分。

「おはよ」

「おはよー、海翔。今日も負けちゃった」

朝から勝ちだの負けだの話してるこいつは、大山由香里。俺の幼なじみで、いつも元気な奴だ。

仲がいいこともあって同じ学校受けようとか言っていたときに、すぐ近くで偏差値もそこそこある青葉高校がいいんじゃないかって話になって、それで一緒に受けたら両方受かったって具合だ。

全く、こいつがいるから明るくやってこれてんだろーなー、っていつも思う。癒しになるよ、もちろん恋愛感情とか抜きにな。

「今日から高校生になるんだね」

「そうだな」

やはり由香里も嬉しいのだろう。

「どう?」

「何が」

「むーっ、なんで分からないの。この鈍感男っ!」

「誰がだよ」

「海翔」

全く。どれだけワクワクしてるんだこいつは。

まぁ、俺もワクワクしてるから人のこと言えないけど。

「私の制服姿がどうかって聞いてたのにー」

「おうよ」

面倒くさいので俺は軽く済まそうと1言だけ言ってやった。

いや、中学生の時も制服でしたよねあなた?

が、俺よりも浮き足立った由香里には通じないようだ。

「もうっ! 海翔! 答えになってない!」

「ああ、似合うんじゃね」

すると由香里はニコニコしながら、

「そう?」

といいやがった。

お世辞だっつーの! そういわないとまたお前が『いつも海翔は私の事そうやっていう』とか言うと思ったからわざわざ言ってやったんだよ!

そうとは口に出さず、

「そうだな」

といってやった。

「ははーん。入学式の日だからってワクワクしてる私を落とそうったって無駄よ」

こいつテンション高すぎだよ。

だいたい、由香里が話振ってきたんじゃなかったっけ!?

俺がドMだったら喜んだだろう。

あいにく俺はドMじゃなかったので、反撃してやった。

「お世辞だっつーの! そういわないとまたお前が『いつも海翔は私の事そうやっていう』とか言うと思ったからわざわざ言ってやったんだよ!」

「あーっ! 海翔って女の子にそういうこというんだー!」

「そうですぅー、俺が由香里に恋をしたみたいに言われたからぁー、さっきから思ってたことをそのまま口にしましたぁー」

思い切り嫌味口調で言ってやった。そうしたら由香里の奴、

「そうですかぁー、私は元々ぉー、落とすなんてぇー、海翔が言うようなぁー、恋愛的な意味でぇー、言ってませんでしたぁー。何勘違いしちゃってるんですかぁー? 海翔くん?」

はぁ、これだからこいつは。こいつのことを好きになる男子共に見せてやりたい。この反撃っぷりを。嫌味口調って、やっぱり女の子が使うと違うな。

「そうですかぁー」

「海翔何むきになっちゃってんの、かっわいいー」

「誰が!」

「だから海翔って言ってるじゃん」

ウザいけどこれはこれで幸せだよなー、って思いながら俺はフッ、っと笑う。

すると、由香里は怪訝そうな顔になる。

「? なに?」

「いやー。おまえってさ、変わったよな」

すると、由香里は顔を真っ赤にしてこう言った。

「そんなことない!」

「そういうところだよ、あはは」

そう。こいつ昔はそこまで元気な奴じゃなかったのだ。

どちらかといえば静かだった。

でも、何があったのか、徐々に表情が顔に出るようになって、喋るようになって。

「もう、女の子の顔ばっか見てるなんて。ばか、へんたい」

「んなことねえよ。ほら、もう学校だぞ」

「…ふーん」

「ほら、そんな顔すんな。俺が悪かった」

「そうだよ、海翔がわるかった」

「へいへい、俺が悪うございました」

「何か気にくわないなぁ」

「ほら、学校ついたぞ」

学校の門の前は人がたくさん──いない。

「あれ? 海翔、どうしたんだろうね」

そういえば、学校にくるまで誰もいなかったよな…。

そして、門の時計と1週間前の記憶を照らし合わせた俺は気づいた。

「おい、由香里。やっぱり今日って9時登校だったのか?」

「さ、さぁ? なんのことだかさっぱり…」

「確かLINEで俺が『明日って8時と9時どっちだ?』って聞いたのを『何いってんの』『8時でしょばか』ってかえしたばかがいたから俺は今ここにいるはずなんだが」

「だ、誰だろーね。そのおばかさんは」

「俺的にはLINEの相手の名前が書いてあるところに『Yukari☺』って書いてあったから、多分お前じゃないかと思うんだけどなぁ、、、っておい! どうした?」

そこにはまたとぼけるはずだと思っていた由香里がしょぼーんとしていた。

「だ、だって! 海翔と話したかったんだもん」

え? 今なんつったこいつ「海翔と話したかったんだもん」とかいってなかったか!?

その時俺はどきっとした。

今目の前にいる人を「幼なじみ」としてじゃなくて「女の子」としてみてしまったから。

こ、こいつってこんな可愛かったか?

「今、『由香里がこんな性格なわけない』って思ったでしょ」

は、はぁ?

訳流れが分からん。

読者の皆さんよ、申し訳ない。俺はこいつがこんな態度をしたのを初めて見たから、この状況を上手く説明できない。

そして、由香里は唐突に

「どっきり大成功! 全部嘘でした!」

と言いやがった。

「いや、なんでわざわざ嘘ついたんだよ」

「……」

なんで無言なんだ?

「どこからが嘘だ」

俺は敢えてクエスチョンマークなしで聞く。

「ん、最初から」

「どこが最初だ」

すると、由香里はニコッと笑って、

「LINEから」

となんでもないような口調で行った。

「お、っおま」

前言撤回!!

こいつ可愛くともなんともねぇな!

だれだ、こんな女好きになる奴は!

可哀想すぎる!!

「でもね、話したかったってのは嘘じゃない」

うん、これも嘘だ。それでもって、このあと『うわー、また騙されちゃって。ほら、帰るよ』とかいうんだこいつ。

世の中の男子供よ。女の子の態度に騙されるのではないぞ! 女の子の中には笑顔で嘘をつく奴もいるからな!

「そうなんだ」

冷たく突き放すように言ってやった

「うん」

え? 今なんて言いましたあなた?

「ほらっ、クラス分け見に行こ」

「あ、ああ」

うわ、こいつマジか。マジならこいつを本気で病院やら保健室やらに連れていかねば… と考えつつも俺は由香里に引っ張られ、昇降口まで来ていた。

「わぁー、おなじくらすだよっ! ほら!」

確かに3組と書いてあるところに俺たちの名前がある。

──いやいや、そうじゃなくて。

こいつ正気か?

「由香里、マジで大丈夫か? 保健室行くか?」

そう俺が言うと由香里は観念したように口を開いた。

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