第22話 親子
相変わらずレムイーターは倒れる気配を見せなかった。それどころか疲れた気配も見せやしない。ダメージが入っているのかどうかもわからなかった。
「クソッ……! このままじゃ……! ……そうだ!」
そうだ、三人の炎魔法の力を合わせたらどうだ……!? 一人一人がダメでも、三人の力が合わされば、やつを倒すことができるかもしれない……!
しかしここは森の中。強力な炎魔法なんて使ったらあっという間に燃え広がっちまう。せいぜいシノンちゃんが使っていたファイアボールくらいの大きさが限度だろう。だがその程度じゃやつは倒せない。せめてもう少し広い場所に行かなければ……。
――悩んでいても仕方がない。探してこよう。このままここにいたって仕方がない。俺が見守っていると戦況が良くなるんだったらいくらでも見守ってやる。だが今は違う。俺はいなくていい存在だ。ならば俺にできることをやってやる……!
草むらから飛び出し、レムイーターとは反対へと駆けだす。どこかにないか!? 魔法が使えるような広いスペースは!? 炎が燃え広がらないような広いスペースはないのか!?
クソッ、見つからねえ! これだけ広い森なのにどこかにないのかよ!
こうなったら炎魔法でやつを倒してから、燃え広がった火を水魔法で消してもらうか……? いや、やつがなかなか倒れなかったらどうする!? それに、三人がどれだけの水魔法を使えるのか俺は知らない。火を消すほどの水が供給できない場合どうしようもない……!
……ダメだ! やはり、少しでも周りに火が燃え広がりにくい場所に移動して、そこで三人の炎魔法で一気にやつを倒す……! これが一番だ……!
俺は広いスペースを探しつつ、急いで三人の元へと戻った。三人は変わらずレムイーターと戦っている。偶然近くにいたシャルの顔にも若干の疲れが見える。
「お、カイトちゃんおかえり、どこ行ってたのさ。何かいい考えは思いついた?」
「ああ、一か八かだけどな」
俺はシャルに簡単に作戦を説明した。
「ほうほう。危ないかもしれないけど、それしかないかもねえ」
「ってなわけで、今から移動するぞ」
俺はセリカとシノンちゃんを手招きして招き寄せ、作戦を説明した。
二人は納得すると、俺たちはすぐさま目的の場所へと走り出した。
「へへ、やっぱりついて来たな」
レムイーターはまさしくゴリラのように後ろを追ってきた。もしそのままの勢いぶつかられたら吹っ飛ばされてしまいそうだ。その前に先ほど見つけた場所に辿り着かなければ……!
俺たちは目の前から流れてくる樹木を華麗にかわしつつ、なんとか先ほど見つけた攻撃ポイントへと到着することができた。
三人は再びバラバラに散らばり、俺は近くの草むらの中に身を隠した。レムイーターも遅れてその場にやってくる。運が良かったのは、やつは臭いで俺たちのことを探知できないことだった。おかげでジッと身を潜めていれば襲われる心配はほとんどない。
やつが三人の真ん中に来たタイミングで、一斉に炎魔法を使う――それが俺たちの考えた作戦だ。そしてそのタイミングを知らせるのは俺の役目。言うまでもなく責任重大だ。
三人はもう配置についている。さあ早く来い。その時がお前の最後だ。
レムイーターは辺りの様子を伺いながらゆっくりと、ゆっくりと歩みを進めている。
一歩……また一歩……。
あと少し……!
あと少しだ……!
落ち着け……三人が一番狙いやすい場所に来たタイミングで……!
「今だ!」
三人の真ん中にいるレムイーターに向かい、それぞれから強力な炎魔法が放たれる。これで倒せないともう倒す方法が思いつかないんだ。いい加減、さっさと倒れてくれ……!
突然のことに驚いたのか、レムイーターは腕を振り回して暴れている。だが炎が濃いからか、どこから攻撃されているのかわかっていない様子だ。
「いいぞ、このままいけば倒せるかもしれない……!」
だが辺りの草木に僅かだが炎が燃え移り始めている。早いとこ決着をつけないと、どんどん火が燃え広がってしまう。頼むから早く倒れてくれ……! いくらなんでも、ちょっとしぶとすぎるだろ……!
みんなの表情も苦しそうだ。少し離れている俺の場所まで熱が届いているくらいだから、俺より近くにいる三人にはまさに灼熱のようだろう。
「あ! 動きが……」
気づけばレムイーターの足の動きが鈍くなっていた。よし……このままいけば倒せるかもしれない。
「あと少し……あと少しだ! いけ! 押し切れ!」
願いが通じたのか、気づけばレムイーターの動きは完全に止まり、顔面から地面へと倒れこんだ。それと同時に三人もすぐさま魔法を止め、急いで辺りに燃え広がった火を水魔法で消化した。
「大丈夫か! 燃え広がってないか!」
「うん、なんとか大丈夫みたい」
「こっちも大丈夫みたいです……!」
「私のほうも問題ありません」
思わず安堵の溜め息が零れた。よかった。森が無事だったのはもちろんだが、三人が無事だったことに一安心だ。
「……ご苦労様。みんな、ケガはしてないか」
「わ、わたしは大丈夫です……!」
「おいらも平気よ~」
「私も同じく」
「よかった。にしてもこいつ、とんでもない耐久力があったな……」
「ね! さすがのおいらもちょっとビビっちゃったよ」
あれだけの攻撃をたった一匹で耐え続けたんだからな……ある意味恐怖すら覚えちまうぜ。
「これ、実は生きてるなんてこと、ありませんよね!?」
「怖いこと言うなよ……でも、一応確認してみるか」
「心配無用です。私がすでに確認しています」
「そうか、なんとか一安心だな」
「でも、これだけ大きいと持ち運ぶのは無理ですよね。依頼人にはここまで確認に来てもらうしかないかなあ?」
「それしかないね~。そんじゃ、さっさと戻るとしま……しょ……」
歩き出したシャルがいきなり動きを止めたので、俺はシャルの背中にぶつかってしまった。
「いてっ、おいシャル? どうした?」
「あ、あれ……!」
怯えたようなシャルの表情の先――そこには――。
高さ五メートルはありそうなほどのレムイーターがこちらに向かってやって来ていた――。
俺たちは一目散に木々の陰に身を潜め、レムイーターの視界に入らないようにした。さすがに今のこの状況でやつに見つかったら、今度こそケガどころの話じゃ済まなくなっちまう……!
「あの白ゴリラ野郎……! 一匹じゃなかったのかよ……!」
「しかも見たところ、我々が倒したレムイーターは子供だったようです。今現れたのが大人でしょう。そしてさらに運が悪ければ――」
レムイーターは横たわっている亡骸を見て、島全体に響き渡るような大きな叫び声を上げた。
「このレムイーターは、我々が倒した個体の親である可能性があります」
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