第11話 花畑

 いつも魔法を練習している広場を超え、俺たちは自然公園へと到着した。自然公園というだけあって緑が多く、家族連れのような連中も多くいた。なんとも微笑ましい光景だ。

 ナミ曰く、花畑は公園の奥の階段を上った所にあるらしい。その道中にはところどころにお店があり、それらは花畑を見に来た観光客をカモにしているのだろうと想像に難くなかった。


 その露店街を抜け、短い階段を上る。すると――。


「じゃーん! とうちゃーく!」

 目の前に広がったのはまさにインスタ映えという言葉が最適な花畑だった。

 広大な土地に満遍なく花が植えられている。それぞれ一色ずつ植えられている場所やさまざまな色が混ざり合っている場所、花のトンネルのようになっている場所など様々だ。


「こりゃまたすごい光景だな。こりゃあ人気があるのも頷ける」

 花の香りが鼻孔をくすぐる。服に匂いが染みついてしまうのではないかと心配に思ってしまうほどだった。


「でしょでしょ! 特にこのベランダーの花が素敵なの。いろいろな色の花が咲いてるけど、このコーナーに咲いてるのは全部ベランダーの花なのよ」

「全部? そりゃあすごい」

 ベランダーという名前は気になるが、気にしない。改めて言う。気になるが、気にしない。


「で、盗まれてるのはこっちなんだけど――」

 そう言うとナミは、メインディッシュの横にぽつりと添えられた野菜みたいな細道を進んで行く。その後ろをしばらくついて行くと、どうやら違う種類の花が植えられている場所に出たらしい。先ほどまでとは植えられてる花の種類が違っている。


「あの辺りを見て」

 一目瞭然だった。花が植えられている部分の他に、地面が剥き出しになっている場所がチラホラ見える。なるほど、どうやらそこが被害に遭った場所のようだ。

 せっかくゆるやかな傾斜を利用して綺麗に魅せているのに、その傾斜のせいで剥き出しの地面が見えやすくなってしまっている。これではインスタ映えとは少々言い難い。


「せっかくの風景が台無しですね」

「そうなのよ。だからぜひとも犯人を捕まえてほしいんだけど……」

「ですが、これは厄介かもしれません」

「ん、どうしてだ?」

「犯人は人じゃないかもしれないからです」

 人じゃない?


「これを見てください」

 そう言うとセリカは足元で萎れていた花を一つ手に取った。

「食べられたような跡があります。きっと野生動物の仕業でしょう。疎らに食べているところを見てもその可能性は高いかと」

「なんだ。だったら俺の魔法は使い道なさそうだな」

「犯人が人だったら使うつもりだったのかしら……」

「それに、こんな場所で魔法を使ったらどうなるか、いくらバカなカイトさんと言えど、それくらいはわかりますよね」

「わかってるって。冗談だよ冗談」

 俺を睨んでいたセリカの顔は元の可愛らしい顔に戻り、

「ならいいです。とにかくまずは犯人を特定するところから始めるべきですね。ナミさん、いつも被害に気づくのはいつ頃でしょうか」

「夜明けよ。多分、夜のうちにやられてるんだと思う」

 夜明けですか……とセリカは何やら考え始めた。そして何かを決心したかのように顔を上げた。

「それでしたら、カイトさんと私で夜通し見張りましょう。いいですよね、ナミさん」

 ナミに許可を求める前に俺に同意を求めてほしいんだけど。まあ別にいいけどさ。

「お願いしていいかしら。ちなみにちゃんと園長の許可ももらってるから安心して」


 ということで俺たちは日が落ちるまで自宅で待機することにした。俺は今、セリカが入れてくれたカメムシ草で淹れた茶を飲んでいる。ちなみにナミは明日も早いということで、もう自宅に戻ってもらっている。

 初仕事ということで、俺の体は遠足前の小学生のように高まっていた。休むつもりで帰ってきたが、今のままでは到底休めそうにない。


 このまま時間を無為にするのもどうかと思い、俺はセリカに尋ねた。

「セリカ、犯人の目星は付いてるか?」

「はい。まあ、なんとなくですが」

「さすがセリカだ。よければ教えてくれ」

 するとセリカは座布団の上に正座をし、メトロノームのように淡々と話し始めた。

「一つ目の可能性はラビ。小型の小動物です。ペットとしても飼われているのですが、捨てる人が多く、問題となっています。草食なので、あの花畑は格好の餌場でしょう」

 捨てたペットが問題になってるのか。日本でも似たようなもんだったな。


「二つ目はモゲラ。地面の中を移動して進む厄介なやつです。ただ、モゲラが動き回ると地面がモコモコ動くので、それがモゲラがいる合図です。もしモゲラが地上に出ていたら、それは捕まえるチャンスです。やつら、穴を掘り始めるのは遅いので」

 ここまでくると、もうモグラでいいんじゃないかなとは思うが、あえてツッコむ必要もあるまい。


「餌でおびき寄せるとかはできないのか」

「どちらも草食なので難しいでしょう」

 となると、やはり待ち伏せするしかないか。真っ暗な中、実行犯が現れるまで待機というのもなかなか大変そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る