第9話 ナミ
「おいセリカ、何事もなかったような顔してるけどな、お前ちょっと強すぎないか?」
澄まし顔をしているセリカに俺は問いかけた。
「そうですか? カイトさんが弱すぎるんじゃないでしょうか」
「確かにそうかもしれないけどさ。それにしてもセリカが武闘派だったとは驚きだよ。俺はてっきり、セリカは戦闘なんて一切しないタイプかと勝手に思ってたからな」
「あたしも。その体つきであんなに強いなんて思わなかった」
「……おいちょっと待て。お前はいつまでついてくる気だ」
俺は背後の少女――いつまでもついて来る、セリカによって救われたナンパ少女に向けて言った。
「いいじゃない。あたし、二人に興味あるのよ」
なんの興味だ。
「最強の魔法使いと最強の格闘家がどうして一緒に行動しているのかってこと!」
ふむ、どうでもいいな。
俺は少女を無視して歩いていると、
「そういえばさっき、あたしが『魔法を倒せ』って言ったとき『できたら苦労しない』って言ってたけど、あれどういう意味? 昨日、すごい魔法使ってたじゃない」
「ああ、えっと、あれは、なんて言うか、その……」
返答に窮していると前を歩いていたセリカが、
「いいタイミングですし、カイトさんの練習を見てもらうのはいかがでしょう。そうしたら納得していただけると思います。ちょうど私たちも今から行くところでしたし、問題ないでしょう」
「……マジかよ」
あまり見られるのは好きじゃないんだが……まあセリカが言うなら仕方ないか。大人しく従うことにしよう。
「はあ、わかったよ。それじゃあ行くぞ。理由が知りたいならお前も来い。知りたくないなら来なくてもいいぞ」
「え? どこに行くの――って、待って! 行くから待ってー!」
少女はどこに行くのかいまいち腑に落ちてない様子のまま、俺たちの後ろを小走りでついて来た。
「それじゃあいくぞ」
昨日と同様に、俺は魔法を解き放った。
猛烈な炎が手のひらから溢れ出す。ここまではいい。あとは威力の調整なのだが――。
「全ッ然弱くならないんだけど! どうすりゃいい!?」
「何か違うことを考えてみてはいかがでしょう」
「わかったやってみる!」
魔法よ止まれ! 止まれ! 止まれ! ストップ! ダメ! やめろ! セリカの膝枕!
……ダメだ! 何を考えても威力は変わらない。膝枕でもダメとなると、もうどうしようもないんじゃないか……?
結局、三十秒ほどして体力を使い切ったのか、魔法は消えた。俺はまたしても疲労で立っていられなくなり、尻もちを付いてしまった。
「ダメだ。どんだけ『止まれ』っつっても止まらん。威力も変わらん」
「厄介ですね……このままでは魔力が無駄になってしまいます。せっかくゴミに金棒だったのに」
なにそのことわざ!?
まあ確かに今の俺はその状態かもしれないけどさ……って誰がゴミだ。
「話を聞いてると、カイトさんは魔力の調整ができないの?」
セリカの隣でこちらを眺めていた少女が言った。
「お前まだいたのか」
「うわひどい! ずっといたわよ! そういえば自己紹介がまだだったわね。あたし、ナミっていいます。どうぞよろしく」
ナミはご自慢のポニーテールの頭を下げた。
「よろしくな。で、ナミの言っていた通り、俺は魔力の調整方法がわからないんだ。ついでに言うと、一度魔法を使うと全て出し切るまで止まらない」
「ふーん。トイレみたいね」
「ト、トイレ?」
「うん、一度出すと簡単には止まらない感じが」
まさか魔法の悩みをトイレに例えられるとは思わなかった。一度出すと出し切るまで止まらない――確かにそうかもしれない。にしてもトイレ……トイレか……。
俺は、もっといい例えはないものかと一人頭を悩ませていると、
「でもわかったわ。こういうのは考え方次第なのよ」
「……ほう? 聞かせてもらおう」
「カイトさんは魔法を何度も連射するものとして考えてるでしょ? そうじゃなくて、トドメの一撃として――それこそ超必殺技的な感じで使えば悩みは全て解決じゃない! あたしってやっぱ天才! どう!? 完璧な作戦でしょ!」
「どこが完璧なんだよ。問題から目を逸らしただけじゃねえか」
「そうかしら。あたしはいいと思うけど。トドメの一撃ってカッコいいじゃない! でも、そのためには先鋒のセリカさんがカギになりそうね。いかに雑魚を蹴散らしてからカイトさんにバトンタッチするかが肝ね」
なんか勝手に作戦を練り始めてるんですけどー。
おいセリカ、お前勝手に先鋒にされてるけどいいのか? 呑気に髪の毛いじってるけどさ。
俺が止めなければいつまでも一人で作戦を練り続けてそうなナミを制し、
「わかったわかった。けど、俺の役割はもう少し練習してから決めるよ。それでもどうしようもなかったら……その時はナミの言う通り、俺はトドメの一撃要因として腰を据えることになるかもな。それでいいだろ?」
「そうね、それがいいわ!」ナミは自身の作戦が採用されて嬉しそうに笑った。「あ! もうこんな時間! それじゃあ私は帰るわね! さよならー!」
ナミはご自慢のポニーテールを揺らし、風のように去って行った。
まったく。
風と言うか、嵐のように、という表現がぴったりな女だったな。散々俺たちをかき回していった挙句、あっという間に帰って行くんだから。ナミじゃなくてツナミに名前を変えるべきだ。
「……俺たちも帰るか」
「はい」
俺は昨日より少しだけ濃くなった壁の焦げ跡を見てからセリカの後を追った。
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