第7話 街

「はい? 何を言っているんですか?」

 どうしてそんな「こいつ頭大丈夫かよ」って顔で俺を見る? そんなおかしなこと言ってないんだが。


 風呂から出た俺は、セリカがいつまでもこの家にいることを疑問に思い、自宅に帰らなくていいのかと尋ねたんだ。その返事がさっきの「何言ってんだこいつ」だった。


「私もこの家に住むつもりだったのですが……ダメなのでしょうか」

「……はい?」

「もしや頭だけでなく耳まで悪くなってしまったのですか? 私もこの家に住むつもりだと――」

「いや聞こえてる。ちょっと驚いただけだ」俺は気を取り直して言った。「えっと、この家に住むの?」

「はい、いけませんか」

 いけませんかって……まあ家も広いし別に構わないけど……。

「まああなたが夜遅くに女の子を一人で屋外に放り出すような外道なのでしたら諦めますが」

「そんな外道ではないから安心してくれ。わかった、住んでいいよ。というかそもそもここはセリカが用意してくれた家だしな。むしろ泊まらせてもらうのは俺のほうだ」

「そうですね。ここは私の家です。ですので出ていってください」

「なんで!? このままお互い納得する雰囲気だったじゃん!」


 そんなこんなで俺は二階で眠ることになり、俺の新世界生活、怒涛の一日目が終わりを告げた。




 翌日、俺はセリカにソランの街を案内してもらっていた。というのも、俺はこの街について何も知らないからだ。セリカが言うには、ここには人間以外にも様々な種族が住んでいるらしいが、俺はまだ人間にしか遭遇したことがないので今日のお出かけは他種族の観察も兼ねていた。


「それにしても、すれ違うのは人間ばかりだな」

「それぞれの種族はそれぞれまとまった地域に住んでいることが多いですから。私たちの周りに住んでいるのが人間ばかりなように、この辺りはまだ人間が多い地域です。ちなみに言っておくと、カイトさんの自宅を獣人たちの中に放り込んでも面白そうだったのですが、私も付き添わなければならないのでやめておきました」

 やめてくれて正解だよ。普通に生活させてくれ。


 まず俺たちがやって来たのは観光地になっているという噴水だった。だが見たところ、特に変わったものはない。あるのは噴水の中央に像が置かれているくらいだが……。

「あの像を目当てに観光客はやって来ます。ですが近年では噴水も含めて観光名所になっているようです。あ! カイトさん! 噴水の水は飲まないでください! 汚いです!」

「飲まねーよ! 何もしてないだろが! お前には何が見えてるんだよ!」

「いえ、あらかじめ言っておかないとやらかしそうだなって」

 やらねーよ。俺をなんだと思ってやがる。


「あ。カイトさんカイトさん、猫耳さんがいましたよ。かわいいですね。彼女らはその見た目の通り耳がいいです。カイトさんとは大違いですね」

 別に俺限定じゃないだろ。人間はみんな同じようなもんだ。お前だってそうだろ。


 セリカの言うことは放っておいて、セリカの指し示す方向を見てみると確かにそこには見慣れぬ容姿の人物がいた。頭からは耳が生えていて……まるで人間みたいだった。

「なんつーか、耳がある以外は普通だな」

「そうですね。ちなみに犬耳族や狐耳族もいますよ。彼らも似たような特徴を持っています。ですが、その二種はどちらも見た目が酷似しているので慣れないと判別がつきにくいです。ですので気にしなくていいです。彼らも慣れていますので」

 慣れてるのか。苦労しているんだな。


「ちなみにどうしてここが観光名所になってるんだ? 俺は特にあの像には魅力を感じないんだが」

 お互い見つめ合っている男女の像を指さして、俺は言った。

 するとセリカは映画に出てくる外国人のように小さく肩をすくめて、

「さあ」と興味なさげに言い放ち、「一説によるとあの像を見たら結ばれるとか聞いたことがありますが、逆にあの像を見ないと結ばれない程度の関係性しか築いていない男女がこの先うまくやっていけるのかどうか、私は疑問です」

「お、おう、そうだな」

 セリカの言うことはもっともかもしれないが、だからと言ってここまで辛辣にならなくてもいいだろうに。少なくともメイド服の女が言うセリフじゃないことだけは確かだ。

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