紙とペンと贈り物

けんはる

紙とペンと贈り物

私は今

実家に帰る為に新幹線に乗っている

なぜなら

昨日、父親が心筋梗塞で亡くなったからだ

それを聞いた時

私は悲しいという気持ちにはならなかった

私は父親とは仲良くはなかった

私が家に居たときはいつも口喧嘩をしていた

時には殴りあい喧嘩になるときもなかった

だから

父親が亡くなって

ホッとしている私がいる

そんな私はやっぱり酷いのだろうか?


「ただいま」

「おかえり、寒かったでしょ?」

喪服を着た母親が出迎えてくれた

「ううん、そんなことなかったよ」

「そう、部屋に喪服出しといておいたから、着替えてきなさい」

「わかった、ありがとう」

私は自分の部屋へと向かった

「変わってないな」

私の部屋は出ていった時のままだった

「この壁もへこんだままだし」

この壁の傷は

私が父親にムカついた時に殴った時の後だ

「早く着替えて、母さんの手伝いをしないと」

私は喪服に着替えて

母親の手伝いをするために台所に向かった

「母さん、手伝うよ」

「ありがとう、じゃあ野菜を切ってくれる?」

「わかった」

私は野菜を切り始めた

「そういえば、壁直してなかったね」

「あぁ、あれね、父さんが別に直さなくていいって言ったから、そのままにしてたんだよ」

「ふーん、そうなんだ、切り終わったよ」

「ありがとう、ここはもういいから、父さんに挨拶してきなさい」

「わかった」

私は父親がいる仏間へと向かった

仏間に入ると

父親はただ眠っているようだった

「ただいま、父さん」

私は父親の横に座った

「久しぶりだね、年取ったね、白髪も増えて」

私は父親の髪を撫でた

父親は当たり前だが返事は返ってこなかった

こんな時でも私は涙が一粒も出てこなかった

やっぱり私は酷いのかな

そう思っていると

母親が入ってきた

「挨拶はできたかい?」

母親は私の隣に座った

「うん、出来たよ」

「そうかい、それは良かった、仕事の方はどう?」

「ちょっと大変だけどやりがいのあるよ」

「そうかい、それは良かった、父さんも心配してたんだよ」

「父さんが?」

私は驚いて父親の顔を見た

「そうだよ、病気になっていないかとか物凄い心配していたよ」

「そうなんだ、父さんが」

「そういえば、まだ小説を書いているの?」

「うん、書いているよ」

私は本当は小説家になりたくて都会へと出たが

夢は叶わず

私はその時にお世話になった出版社で働いている

「そう、それは良かった」

母親は立ち上がり

タンスから何かを取り出し戻ってきた

「はい、これ」

「これは?」

母親から渡されたのは作文用紙に包まれたものだった

「開けてみなさい」

「うん」

私は頷き、丁寧に作文用紙をめくると

白い箱が現れた

箱を開けるとそこには

「万年筆?」

「そう、父さんからの贈り物だよ」

「えっなんで?」

「なんでって?小説家になるなら万年筆が必要だろうって、それとついでに作文用紙もね」

「嘘、だってあんなに小説家になることを反対してたのに」

「口ではあぁ言っていたけど本当は応援してたのよ」

「そんなの知らなかった」

「当たり前よ、父さんから口止めをされていたからね」

私は父さんの方を向き

「父さん、今さらこんなことしないでよ」

私は涙が溢れてきた

「なにもお返しなんかできないじゃない」

涙がポツリポツリと万年筆と作文用紙に落ちた




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