第二部
第二部01
私達は船を乗り継ぎ、東京にある国立機械人形研究所へとやってきていた。何も成果が得られない中での到着だったため、てっきり立ち入り禁止などの厳しい処罰が命じられるものだと思っていたが、案外あっさり中に入ることが出来た。
やはり、これも日本特有の『お家柄』という奴なのだろう。外には優しく、中には厳しく。本来ならば我々だけならば厳しく取り締まるところを、同盟国の大英帝国からの客人ともなれば、恭しくせざるを得ないというのが現状なのだ。
「何というか、腐ってるな。我が国は」
「何か言ったかしら、
「ここじゃ誰しも同じ大日本帝国人ですよ。……ところで、その袋は」
袋一杯には大量の飴細工が入っている。壊れないものかと思っていたが、案外壊れにくく出来ているらしく、大量に積み上げられていても問題ないようだった。
「この写真に写っている人物が誰であるか、ということを聞きたい訳だね?」
柊木は、そう言って私達の顔を見やる。
リリィキスカ、アネモネ、ガウェイン、松木竜一、そして、私。
異なる場所からやってきた五人の人間が、今一つの目的の為に集まって、この場所に立っている。
それを考えるととても面白く、それでいて不思議だ。そんなことが有り得ない、という訳ではないのだが、如何せん、それが正しいことであると認識するまでに時間がかかるということもまた事実。どちらにせよ、私達が生きていくこと、私達がやっていくこと、私達がしなくてはならないこと、その全てが『日本』に詰まっていると考えると、それは奇妙な巡り合わせだと思った。
「……それにしても、奇妙な巡り合わせだとは思わないかね」
柊木も告げた。
それは彼も思っていることのようだった。
「私もまさか、
「だろうね。分かっていたらわざわざ君を派遣させることはないし、大英帝国から監査団がやってきていたはずだろうからね」
「という訳で、ミスター柊木。彼が誰であるか教えて貰うことは出来ますか」
「……私の息子だ。柊木栄吉。軍の少将を務めていた」
「務めていた、とは?」
「肺結核で亡くなったよ、一年前のことになるがね」
「亡くなった……?」
「ああ、そうだよ。まさかあいつがマーティンと出会っているとは知らなかったがね。二十歳で家から家出したからな。殆ど連絡もしていない」
「では、亡くなったことをどうして知っているのですか」
「病院から手紙が届いてね。身元引受人になって貰えないか、ということだった。勿論引き受けたよ。あんな扱いをしてしまったとはいえ子供は子供だ。……だが、それにしても、機械人形の祖、マーティン・アポカリプトに出逢っていたとは思わなかった。いったいどういう関係性だったのか」
「それを私達も知りたいと思っているのです」
言ったのはアネモネだった。
「マーティン・アポカリプトは写真を撮りたがらない人間でした。写真に魂を吸い取られるかもしれないから、と言っていたからです。今思えば、阿呆らしい発言ですよ。けれども、今ならその発言の真意が分かるような気がします」
「ふむ。聞かせて貰えないかな」
「マーティンは痕跡を残したくなかったんだと思います。自分がそこに居るという痕跡を。自分がそこに居たという痕跡を。自分が誰かと出会ったという痕跡を。自分が誰かに遭遇したという痕跡を。絶対に、確実に、完璧に。残しておきたくなかった。だから、写真を」
「だから、写真という媒体すらも嫌っていたというのかね。馬鹿馬鹿しい。……いや、でも確かにマーティンは肖像画すら残っていない、奇妙な人間だったか」
「ご理解いただけましたか」
「……ああ、分かったよ。しかしだね、マーティンの『これ』が本物だという証拠はあるのかね」
「それは私が断言出来ます」
言ったのはリリィキスカだった。
確かにリリィキスカは、メリドキシアに住む唯一の人間だった。そして彼女の談によれば、リリィキスカはマーティンの秘書をしていたと言う。それに、リリィキスカなる人物がマーティンとともに居たという事実も入っている。ともなれば、リリィキスカ自身が、マーティンのことを知っているというのは火を見るよりも明らかだろう。
リリィキスカの話は続く。
「私は、マーティンの秘書を務めていました。ですから、マーティンの顔は知っています。ですが、彼との出会いは私が知っている記憶の中にはありませんでした。もしかしたら、私が病気で休んでいるタイミングで日本に向かっていたのかもしれませんが」
「病気、ですか」
「はい。ひどい病気ではありませんでしたが、大事を持って一年ほどお休みを頂きました。そして、その間はマーティンが秘書業務を兼ねていました」
「ということは、その間に日本に行って、柊木栄吉少将と出会ったということになるのでしょうか」
「そういうことになると思います。彼は機械人形を伝える為に様々な場所を巡ったと聞いていますから」
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