第27話 クリムゾン月華部隊

 千尋達を回復して二日後の午前中。


 オレ達は何かあった時の為にって事で朱王さんの邸に泊まらせてもらってる。

 まぁ魔力の欠乏のせいで起きねーんだろうから放っといても大丈夫だと思うんだけどな。

 何かあればすぐ呼ぶからって事でオレ達は邸で遊んでた。

 朱王さんの精霊である朱雀も元気だし、一緒にプールで遊んだりしてるしな。

 カミンさんは朱王さんに付きっきりで、マーリンさんとメイサさんがオレ達の世話をしてくれてる。




 まず最初にリゼとアイリが起きてきたけどフラッフラだったな。

 まだ魔力が回復してねーっぽいから食事を摂るよう言っといた。

 その後は蒼真、ミリーが起きてきて二人も飯食って魔力の回復を早めてもらう。

 たぶんミリーとかほとんど回復してねーかもな。

 魔力が尽きた状態で自動回復を掛けてたって事は、昔オレがギガンテス倒した時と同じだろ?

 魔力が全然回復しなくなるから、オレは五日間寝てようやく回復できたしな。

 それを一日半で目覚めたって事は二割も回復してねーんじゃねーかな。

 そんな状態で起きんなよな……




 んでその後に千尋が起きてきて飯食ってから話を聞かせてもらった。

 ああ、オレ達の他にもクリムゾン幹部連中とヴォッヂさんが来てて話を一緒に聞いた。

 昨日も午前中は邸にいて、午後には仕事に戻ってったんだけど。


 千尋達が今回討伐に向かったのは、このクイースト王国で伝説として語られてるデーモンの討伐だ。

 半年くらい前だったかな、王国の上空でデーモンの存在を確認したって噂も流れたんだよ。

 あの時はキマイラって魔獣が大量に王国になだれ込んで来た事件があって、それを聖騎士と魔術師団、王国冒険者達で殲滅したんだけどその事件を引き起こしたのがデーモンじゃねーかって話だ。

 キマイラはデーモンに追われて王国に入ったのかもしれねーってのが調査団の見解だったな。


 んでデーモンって魔獣は元々は普通の魔獣らしいんだけど、なんかの拍子に精霊を食った場合にデーモンになるらしい。

 精霊を取り込むと半精霊状態になるって事で、扱いとしてはドラゴンとかそんなのと同列にされるって話だが…… ドラゴンは見た事ねーな。

 精霊を食ったデーモンは何百年も生きるうえに魔力の消費を抑える為に眷属を作るらしいんだけど、その眷属ってのも全部がS級魔獣って事だから化け物じゃねーか。

 その眷属を全部倒すとデーモンの本体、デモンロードが眷属の死体を取り込んで本来の姿に戻るんだと。

 それをデヴィル化って呼ぶらしいんだけど、蒼真とアイリの二人掛かりで勝てなかったっつーからな。

 とんでもねー化け物だよ。

 それを朱王さんは圧倒してたとか……


 でも千尋達がデーモン倒して、朱王さんがデヴィル化したロードと戦ってたらしいんだけど途中邪魔が入ったそうだ。

 それで朱王さんは全身に怪我を負ったわけだけど、相手は噂に聞いてた魔族の、それも魔貴族っつートップクラスの魔族にやられたらしい。


 その魔貴族とその部下九人、あとデヴィル相手に五人で戦ってボロ負けしたみてーだ。

 蒼真とアイリが二人でデヴィルと魔族三人を相手にして、リゼも一人で三人、千尋は二人。

 数の不利はあるけど千尋はそんなの無視できるはずなのに倒せなかった。

 そう考えれば部下の奴にさえオレは確実に負ける。

 ミリーが魔貴族と戦ったって事だけど、パーティー内で一番攻撃力の高いミリーでさえ打ち合うのがやっとって事だしな。

 自動回復も追いつかねーくらい魔貴族の威力も高いそうだ。


 強くなろうって決めたんだけど目標が遠過ぎて笑えるな。

 こいつら人間側の最強メンバーだぞ?

 それが勝てたとはいえ満身創痍。

 もし今魔族側から攻め込まれたら確実に終わっちまう。


 あとは伝説の魔獣デーモン、まあデヴィルか。

 蒼真の話じゃ拳の一撃で前回戦ったワイバーンを倒せるだろうって事だ。

 蒼真が倒したワイバーンは限りなくS級に近いA級魔獣。

 それが一撃?

 蒼真も正面から食らってるからマジなんだろうな。

 上級精霊ジンの魔法防御を貫いて一撃で沈められたって事だし。

 アイリの全力の雷撃でさえ一瞬の麻痺しか与えらんねーとかどーなってんだろな。

 普段から訓練で一緒してるヴォッヂさんが蒼真とアイリの話聞いて頭抱えてたけどわからんでもない。


 そうそう、そのデヴィルを倒したのは千尋の進化した精霊って話だから驚いた。

 上級精霊ベヒモスと深淵の魔龍バハムート?

 ゲームで聞いた事はあるけどこの世界にも同じ名前のもんがあるんだなーとか思ったけど、オレのサラマンダーも同じ事だった。

 とりあえず千尋がブチギレた時に顕現したらしい。

 蒼真達もその戦い見てたらしいんだけど、デヴィル以上に戦闘能力が高いって話だ。


 まあ魔力切れ起こして魔貴族と部下三人残して終わっちまったらしいんだけどな。

 最終的には朱王さんが幻術解いて魔貴族共に挑んだらしい。

 幻術って……

 この人なんでもありだなーとは思ってたけどやり過ぎじゃね?

 んでこの時点でオレが回復する前の状態だったわけなんだけど、よくあれで戦えたな……

 余裕を見せながら勝ったって言うけど、余裕なんて全然ねーだろ。

 死んでてもおかしくねー傷なんだし。




 しかしまあ話を聞いて困ったよな。

 朱王さんの背中を守るとか言ってはみたけど遠過ぎね?

 オレは本当にそんなレベルまで強くなれんのか?

 でもアースガルドに来てまだ半年ちょっとの千尋達でさえここまで強くなってんだ。

 オレもどうにか強くなる事は出来るはずだろ……




 飯を食い終えたミリーがテーブルを叩いて立ち上がった。


「よし! 朱王の部屋に行きましょう! 私が回復します!」


 とは言うけど傷は全部塞いで臓器も修復されてるんだけどな。

 ミリーが言うには傷を消すまで回復するって事だ。

 ある程度の傷までならオレでも消せるんだけど、深い傷、それも高い魔力で付けられた傷は消せねーんだよ。

 ミリーがオレの回復魔法を再練成するって事だから手伝うけど、オレがやってる回復ブーストをミリーも出来るんだろな。




 朱王さんの体にはオレが回復したとはいえデケー傷跡が残ってる。

 この傷跡だけでもなんで生きてんのか不思議なくらいだ。

 これをオレの回復魔法を再練成しただけで消せるとは思えねーけどな。

 ミリーがやるってんだから全力で協力はする。


 ミリーの肩に手を置いてオレの発動できる最大量で回復魔法を流し込む。

 朱王さん達から武器を加工してもらってオレの魔力は緑色になってるんだけど、ミリーに流し込んだところから七色に変化してるから再練成されてるんだろ。

 その七色の魔力が朱王さんの傷口に注がれてる。

 そんなミリーの回復魔法にははっきり言ってびびった。

 オレの回復より全然精度がたけーし。

 王国の最高位の回復医六人分の魔力を再練成してもそこまでしか回復しなかったんだぞ?

 それをオレ一人分の魔力を再練成しただけで、見てわかるくらいに傷口が修復されていく。

 修復じゃねーな、復元か?


 つってもオレも全力で回復魔法を発動してるわけだから、ぶっ倒れそうなくらいしんどい。

 かといってオレが魔力量を変化させたらミリーの再練成にも影響が出るだろうしぶっ通しで発動し続ける。




 およそ三十分ってとこか……

 朱王さんの表面の傷は十分程度で無くなってたんだけど、あとは内臓の傷を復元してたんだろう。

 朱王さんは目を覚ましてミリーに鼻血出てるって指摘してた。

 オレはそれ見て安心したと思ったら目の前が暗転。

 意識が遠退いてぶっ倒れた。




 その後は全員で飯食って魔力の回復を促した。

 オレもこの回復魔法だけで半分持ってかれたからな……

 普段戦闘でもこんなに魔力消費する事ねーのに。




 ま、みんな目を覚ましてくれて良かった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 その夜オレは朱王さんの部屋に話をしに行った。


「朱王さん。頼みがある。オレ達もクリムゾンに入れてくんねーかな」


 あの後も必死こいて考えたんだけど、オレ達はパーティーで朱王さんの部下になる事を決意した。


「勇飛君達は友人じゃあダメなの?」


「…… クリムゾンでテレビ局を作ったんだろ? オレ達もこの世界で面白いもん作りたいからな。協力させて欲しい」


 これはオレの苦しい逃げのセリフだ。

 言った後で後悔したけど、オレの今の実力じゃ朱王さんの背中を守らせてくれなんて言えねーよ。


「なるほど、そういう事なら君達には各国を回って欲しいかな。他の国を知らない人達が多いんだし、絶景スポット特集なんかやったら他国との交流も増えて楽しそうじゃない?」


 ちょっと間を置いてオレ達の話を飲んでくれた。

 オレ達は今後いろんな街を旅して世界を見て回るつもりだしな。

 絶景スポット巡りもいいかもしんない。

 って思ってたら上位魔獣のワイバーン討伐報酬の3億リラをもらった。

 3億リラをもらったんだよ。


 …… 


 3億!?

 アホか!?

 千尋達も別にいいよとか言ってるしなんなんだこいつら。

 金ってすげー大事なもんなんじゃねーのか!?

 さすがに受け取った時は手が震えたわ!




 とりあえずオレ達はこの日からクリムゾン隊員になった。

 どこの国に所属するわけでもねー月華部隊。

 オレ達のパーティー名も【月華】に変更。

 竜はなんとなく強そうだって付けただけらしいから、ナスカ達も外してもいいって事だ。


 朱王さんの部屋を出てすぐにリルフォンにメールが来た。


 朱王[ありがとう。待ってるよ]


 …… あれ、バレてる?

 ナスカ達は反応してねーからオレだけにメール来たのか。


 朱王[バレてるよ(笑)]


 バレてた!!

 これなら本音を言うべきだった……

 くっそ恥ずかしいな。

 っつか心を読むな!!


 朱王[勇飛君も顔に出やすいからね]


 …… 顔かよ。

 前にナスカ達にも言われたな。

 今後は気をつけよう。


 朱王[ミリーを変な目で見ないでね]


 …… そこもバレてた!?

 だって好みなんだし仕方ねーじゃん!


 朱王[今度可愛い子紹介するから!]


 是非お願いします!!

 ってオレの心と会話すんな!!


 朱王[まあそれは冗談だけどね]


 冗談だったのか……


 朱王[君は強くなる。ただ無理はしないでね]


 勇飛[朱王さんこそ無理すんなよ。今回は本当に死ぬとこだったんだからな!]


 朱王[気を付ける。私を助けてくれてありがとう]


 あんたは死んじゃいけねーよ。

 だからオレは宣言しとく。


 勇飛[オレは必ず強くなる。いずれ朱王さんの背中はオレが守ってみせるよ]


 どうせなら口で言うべきだったけどまあいいや。

 オレの本音だ。


 朱王[期待してる]


 オレの決意はメールでだけど伝えられた。

 もう後には引けねえ。




 オレは…… オレ達は強くなる!!

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