第14話 ミッキー

 朝、宿の食堂で朝食を食ってたら役所の職員がやって来た。


「おはようございます。【月華の竜】の方々とお見受けしますがよろしいですか?」


 そう、オレ達のパーティー名は月華の竜って名前で、オレが入る前からこの名前で通っているらしい。

 そこそこ有名だって事だからそのまま使ってるんだけどちょっと恥ずかしい気もしなくもない。


「ああ。役所からの伝言か?」


「はい、私は役所の職員でトルメアと申します。シルバーランクパーティーの【ミッキー】から伝言を預かって参りました」


 ミッキーとはミッシェルのところのパーティー名とナスカ達から聞いている。

 ミッキーについてオレは全く知らないのでナスカとエレナに任せよう。


「ミッキーは何て言ってたの?」


「今後受注するつもりだったコカトリス討伐クエストなのですが、月華の竜に応援要請をしたいとの事でした。本日の九時に役所でお会いできればと申していましたのでいかがでしょうか」


「勇飛、いいわよね?」


 もちろんオレはオーケーだ。

 頷くとトルメアも安心したように笑顔を見せる。


「ではもうすぐですが、本日九時に役所の方へお願い致します。では私はこれで」


 トルメアが去り、オレ達も朝食を食い終えて準備をする。

 準備と言っても武器持ったり鞄背負うだけなんだけど。




 役所に着いてすぐに向こうから手を振られたのですぐにわかった。

 ミッキーのメンバーの四人だろう、全員女性のパーティーのようだ。


「久し振りね! 皆んな元気してた!?」


「ミッシェル達は毒にやられたってもう大丈夫なのか?」


「あっはっはっ、私達全員死にかけたわよ! 今度はほんと気をつけないと」


「毒は危険よね! でも今回は最強のヒーラーが居るから大丈夫よ!」


 とエレナに前に押し出されたけど、オレは初顔合わせなんだけど。

 とりあえず挨拶しとくか。


「月華のリーダー、鈴谷勇飛だ。エレナの言うようにオレはヒーラーなんだがよろしく頼む」


「リーダー? ヒーラー!? ナスカがリーダーじゃないの?」


「勇飛が入る時にリーダーを交代したんだ。ウチの自慢のリーダーだぞ!」


 なんかナスカに自慢されたけど、エレナやカインも頷いてるからオレがリーダーでも納得してくれてるんだろうな。


「そうなの。私はミッシェル。ミッキーのリーダーよ。あとこっちがキーファで、私と二人で立ち上げたパーティーだからミッシェルとキーファでミッキーってわけ。あとはその後仲間になったフレデリカとヘンリエッタ。皆んな頼りになる私の仲間よ」


 淡いピンク色の髪をしたミッシェルは片手剣とバックラー装備。

 いかにも前衛職って装備だけどキメラ武器と鋼鉄製のバックラーのようだ。

 防具も耐火装備と鋼鉄製装備の普通の冒険者の装いだ。


 キーファはミスリル製の杖と耐火素材のローブを着た後衛職。

 淡い緑色の髪を肩で切り揃え、薄緑の魔女のような帽子がよく似合う。


 フレデリカは両手剣を持ったアタッカー。

 青白い髪を長く伸ばした女性で、鋼鉄製の胸当てと耐火素材の装備という身軽そうな装い。


 ヘンリエッタはうちのカインと同じように弓使い。

 以前のカインのように木製の弓を使い、矢はミスリル製の鏃がついた物と通常の矢を使い分けているようだ。

 淡い黄色の髪を頭頂部で結んだ目鼻立ちのはっきりとした綺麗な女性だ。


 見事にパステルカラーなパーティーだが、皆んなドロップ愛用者のようだな。

 こっちも買い揃えていて良かった。


「話ってコカトリスの件だとは思うけどどうするの? 応援要請なら受けるわよ」


「話が早いわね。ヒーラーをパーティーに入れてるのはどうかと思うけど今回に限っては助かるわ」


 やっぱヒーラー冒険者は歓迎されないのか。

 攻撃魔法使えないとしても鍛えりゃ並みの冒険者より遥かに強くなると思うけどな。

 強化はできるみたいだしオレは爆破が無くてもナスカやエレナより強い自信はある。

 舐められっぱなしも面白くねーけど今回は応援だし黙ってよ。


「準備はできてるの?」


「解毒剤と回復薬は必要以上に買ってある。いつでも行けるわよ」


 っつーわけでコカトリス討伐クエストを受注して、初の合同パーティーでのクエストだ。

 取り分は人数割りでどちらも四人だから半分ずつ。

 コカトリスも何体かいるって事だから全部倒せばそこそこな報酬にはなるだろう。




 クエスト内容:コカトリス討伐

 場所:レズモンド伯爵領北部

 報酬:一体につき900,000リラ

 注意事項:毒を吐く

 報告手段:魔石を回収

 難易度:9




 レズモンド伯爵領ってどこだろう。

 って思ってたら王国を西に抜けて、森林に囲まれた道を半日ほども歩いた場所にあるらしい。

 貴族領は他にもたくさんあるらしいけどどこも行った事ねーな。

 ん? 半日も歩くって事は泊まりか?


「なぁ、宿に何も言ってないけどいいのか?」


「私達が泊まり掛けのクエストだってわかるから連絡してくれるはずだ。宿代は少し取られるけどな」


 なるほど。

 役所に宿泊先を提示してるとなかなか便利なんだな。


「でも伯爵領に行ったら宿あるのか?」


「宿の心配は要らないぞ。伯爵邸に行けば伯爵の経営する高級宿に泊めてくれるからな」


「詳細を聞いてないだろうから説明しておくわ。伯爵領の農村地にコカトリスが縄張りを張ったらしくてその地域には入れなくなってるの。被害はその農地の農民と討伐に向かった冒険者数十名。下手に手を出さなければ被害はないけど今後コカトリスが増えれば縄張りの拡大が予想されるわ」


「前回私達は一体を倒したところで毒を浴びてしまったの。仲間ごと私達に攻撃してくると思わなかったものね」


 一体倒せたんならまぁそれ程脅威ではないな。

 何体いるか知らないけど他のコカトリスに人数を割り振れば勝てるだろ。

 ナスカ達は三人で連携取れるだろうしオレはいつも通り単独でいいや。

 ミッキーも一体受け持てば三体同時に来ても何とかなる。




 しかし歩きで半日って事は四時間の計算だよな?

 15キロくらい歩くのか…… 遠いな……


 まぁ森林の道だし魔獣モンスターは出る。

 ミッキーの実力も一応見ておくか。


 前方に出てきたゴブリン十一体。

 ヘンリエッタが弓を射って即座に三体を倒し、駆け込んだフレデリカが二体同時に左薙ぎに切り裂いた。

 キーファが魔力を練って魔法を発動。

 炎がゴブリンの群れを中心に燃え上がり、火炙りになった魔獣は苦しみながら息耐えた。


 初めて杖を使った魔法使いを見たけど威力高けーな。

 ミッシェルは待機したままだけど連携も悪くないしいいパーティーだと思う。




 魔石を回収してまた歩き出したけどすぐに魔獣が現れた。

 さっきと同じくゴブリンだけど数は八体。

 今度はこっちがやるべきだろう、と思ったらナスカがオレを前に出した。


「ん? オレがやればいいのか?」


「ミッシェル達が勇飛を見縊みくびっているのが気に入らない。実力を見せてやってくれ!」


 魔獣が集まって来ても困るしな、爆破無しでやるか。


 一気に間合いを詰めてぶん殴る!

 そして蹴る!

 一撃の元に叩き伏せる。


 オレもこの数ヶ月で学習してるからな。

 実は爆破使わなくても戦う事ができるんだ。

 オレのこのガントレットとレガースに流した魔力を操れる。

 地属性魔法の応用らしいんだけど、物質操作グランドって言って自分の魔力を流し込んだ物を動かす事ができるんだ。

 地属性魔法では石とか浮かせる事が出来るんだけどオレはできない。

 オレの魔力では魔法として発動できないみたいだ。

 でもミスリルのガントレットやレガースは流し込んだ魔力を操作可能だった。

 おかげで殴るのも蹴るのもめちゃくちゃ速い。

 岩だって粉砕できるくらいの威力がある。

 ゴブリン程度じゃ殴れば頭ごと破壊できるし蹴れば体ごと引き裂けるだけの威力だ。

 これがオレの爆破無しでも戦える理由なんだなー。


 ゴブリン八体もせいぜい五秒もあれば倒せるし、ナスカの言う実力を見せる事は充分できるだろう。


「…… ヒーラー、よね?」


「ん? ああ」


「ヒーラーって戦えないんじゃなかったの!?」


「誰が決めたんだ?」


「だって…… 瞬殺だったわよ!?」


「ふっ。うちのリーダーはまだまだ本気じゃないぞ」


 なんかナスカが得意気だな。

 嬉しそうだしいいけどね。




 その後もゴブリンやワーウルフなんかも出て来たけど全員容赦なく返り討ち。

 小遣い稼ぎ程度にはなったと思う。


 この道は行商人の竜車も通るんだけど、魔獣が出るから冒険者の護衛付きだ。

 弱い魔獣しか出て来ないから低ランク冒険者のクエストなんだろうなとは思うけど、一般人にとってはゴブリンさえ脅威だ。

 力はそれ程強くないけどそれでも大人に負けないだけの腕力がある。

 それに武器も使うし容赦なく噛み付いてくる。

 それが集団で襲ってくると考えれば戦う術のない一般人では確実に殺される。

 低ランク冒険者でさえ囲まれれば命はないだろう。

 魔獣と遭遇したら逃すなんて事はせずに容赦なく狩る。

 冒険者の常識だ。






 十五時には伯爵領に到着したけど結構広い領地のようだ。

 田畑地帯が広がっていて、その中央には街と大きな邸が建っている。

 街だって数千人規模と思われる大きな街だ。


 まずは到着した事を知らせないといけないし伯爵邸に向かう。

 これまで貴族街にも行った事はないし比べたりする事は出来ないが、伯爵の邸はものすごいデカさだ。

 金属の塀に囲まれた広大な土地に、学校かと思えるくらいの大きさの建物が建っている。

 門の側には守衛が立っており、話しかけると取り次いでもらえた。


 戻って来た守衛に促され、伯爵と会う事はできないが伯爵領兵長のバルドの邸へと案内される事となった。

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