第13話 王国でのクエスト
さーて、今日はクエスト受けて稼がねーとな!
昨日はドロップと防具買ったから残金もほとんど残ってないし、がっぽり稼いで懐事情を安心させたい。
そんなわけでクエストボードの前に立っているのだがなかなか決まらない。
クエストがたくさんあり過ぎて選ぶに選べないのだ。
ナスカ達は今日のクエスト選びをオレがするもんだと思ってるらしくて全然協力的じゃない。
そもそもここは王国であってデンゼルじゃないって事は、そのクエストの目的地までの距離も全くわからないわけだ。
クエストの報酬だけ考えたら高難易度を受ければいいんだけど、少し難易度を下げて魔石の個数で稼いだ方が儲かる場合もある。
うーん、悩むなーと思っていたらそれが目に付いた。
【カトブレパスパイダー討伐】?
カトブレパスってオレ達の食用になってるあの魔獣だろ?
それにパイダー?
いや、スパイダーか。
なんだこのふざけたネーミングセンスは!
よし、これにする!
というわけで本日のクエストを受注した。
クエスト内容:カトブレパスパイダー討伐
場所:クイースト王国南山中
報酬:一体につき1,000,000リラ
注意事項:クリスタルスパイダー亜種
報告手段:魔石を回収
難易度:9
クエストの受注の際に一応文句を言ってみたところ、受付の女性が資料を持ち出してカトブレパスパイダーについての説明をしてくれた。
カトブレパスパイダーとは、カトブレパスの魔石を偶然にも食べてしまった、クリスタルスパイダーという巨大な蜘蛛が亜種として進化した魔獣との事。
亜種は通常の魔獣より遥かに強く、取り込んだ魔石の能力を継承しているそうだ。
因みにこの亜種が発生した原因は人間にあるらしい。
冒険者がカトブレパス捕獲クエストの際に誤って食用部分を傷つけてしまったものを魔石に還し、魔石は報告しても価値がないからとそのまま放置したものをクリスタルスパイダーが飲み込んでしまった事で進化し、亜種として存在するのだという。
元々亜種に関してはほとんど知られておらず、好んで魔石を口に入れる魔獣は存在しない。
クリスタルスパイダーが光る物を好んで口にする習性があったせいで発生したそうだ。
現在は食肉加工業者には魔石の回収も徹底されている為、カトブレパスパイダーから産まれた個体意外は存在しないそうだ。
まぁ産まれるって事は複数いるんだよな?
結構稼げそうで楽しみになってきた!
弁当と飲み物を買ってクイースト王国の南外区へと向かって、王国の街並みを楽しみながら進んで行く。
目的地は街からも見える二つの高い山の中央、窪地になっているあたりと説明を受けているけど…… 山の麓まで目算で大体二時間はかかりそうだな。
王国の周辺の今歩いているこの平野は魔獣がほとんどいないようで、背の低い草が生えているところに小型の魔獣がチラホラと見える程度だ。
やはり王国だけあって周辺の魔獣処理は徹底しているのかもしれない。
魔獣に襲われる事なく山の麓まで到着したけどどれくらいかかったんだろうな。
まぁこっからが本番だし気合い入れて行くか!
「勇飛、弁当はどうする? 魔獣がいる山の中で食べるか?」
「あー、それはやだな。今食おう」
昼食を摂ってから山登りだな。
場所によってはくっせー森だったりするし、見晴らしのいい空気の綺麗なここで食った方が絶対にいい。
昼食後は一休みせずにすぐに山を登る事にした。
まだ昼前だとしても山登ってすぐに出会すとは限らないしな。
山に入ってすぐにわかったけど血の匂いがかなりキツい。
やっぱ飯食って正解だったと言いたいとこだけど、逆にちょっと吐きそう。
でもな、こんな時便利なアイテムが雑貨屋に売ってたんだよ。
【防臭マスク】
マスクに臭いを遮断する呪文が書き込まれてるらしくて顔に着けると魔力で発動するって書いてある。
全員に渡して息を吸ってみるとあら不思議。
すげぇ! 本当に臭いが消えたわ。
「勇飛ったら気が効くじゃない! 昨日といい今日といいどうしたの? 私の気を引きたいの?」
「なっ!? そうなのか!?」
「何言ってんだエレナ。ナスカが真に受けるから変な事言うな」
「ん? あれ? って事は勇飛はナスカが好意を持ってるってわかってるんだよね?」
この血生臭い山の中で突然恋愛トークになったんだけど……
「さすがにわかるだろ。あからさまだし」
ナスカはこの状態で戦えんのか?
顔真っ赤にしてこっち見てんだけど。
「じゃあ付き合ったりしないの?」
「今はそういう気持ちにはならないな。オレ達はパーティーだし恋愛が絡めばいろいろとめんどくさい事も出てくる。仮に今のオレが付き合ったとして別れてみろ、パーティー解散なんて事もあり得る。それだけは絶対嫌だしな」
ナスカの気持ちもあるし真面目に答えてみた。
「なるほど。勇飛もちゃんと考えてるのね。脳みそまで筋肉かと思ってたのに」
「お前は一言余計だ」
「だってさ。勇飛も考えてるみたいだからナスカも元気出しなよ」
「えー、でも……」
うーん。
がっかりしたような、安心したような微妙な表情してんな。
もじもじしてるのも珍しいけどまぁいいか。
恋愛トークを終え、ナスカからは気まずい空気が流れつつも山の獣道を進んで行く。
しかしここの木はなんの木だろうな、めっちゃなが……
「いたーーー!!」
木の上を指差してカトブレパスパイダーの位置を知らせて、カインが弓を引いてスパイダー目掛けて炎の矢を放つ。
「勇飛! 皆んなの背中に糸が付いてるわ!」
言われた瞬間オレのとカインのを爆破で糸を切った。
エレナも自分のを切って間に合ったが離れていたナスカが吊り上げられてしまった。
ナスカが吊り上げられると同時に三体の蜘蛛が着地。
斜面の為重さに負けて一体は転がっていったが。
「カイン! エレナ! こいつら任せる!」
「「了解!!」」
難易度9ってくらいだから任せたくはないけどまずはナスカだ。
一気に引き上げられて蜘蛛の巣にくっ付いてるみたいだけどすぐ側にはもう一体。
足裏の爆破で木を蹴って一気に登る。
やばい、間に合わない!
「ナスカ! 蜘蛛の巣燃やせ!!」
両手から炎を出してナスカは蜘蛛の巣を切り、そして支えのなくなった体は落下するわけで……
うわぁ、嬉しそうな表情で落ちて来んなぁ……
まぁ落ちたら怪我するし受け止めるんだけどな。
「ぐうぇっ!!」「うぐぉっ!?」
う、受け止めるつもりが激突……
まぁキャッチしたから後はまた木を蹴りながら減速して着地。
ナスカは……
「勇飛、回復してくれ。身体中が痛い」
「オレも痛てーわ。とりあえず離れろ」
しぶしぶといった感じで離れたがオレの何がそんなに良いのかね?
回復魔法をかけながらカイン達の様子を見る。
まだ三体残ってるしかなり苦戦中。
「よし、ナスカはカインとエレナを頼む。オレは上の奴をやる」
「任せてくれ!」
また木を蹴って蜘蛛の巣の上にいるカトブレパスパイダーに向かう。
ナスカが開けた穴から巣の上に飛び出してっと、縦糸に乗る。
うん、くっ付かない。
っつかすげーなここ、木の上側は全部蜘蛛の巣じゃん。
ある意味絶景? 実際は絶叫もんか。
さーて、やりますか!
カトブレパスパイダーはスパイダー亜種ってよりどっちもくっ付けたような魔獣だな。
しかもコイツ下の奴よりでけーし。
カトブレパスの体に八本足とケツの方も蜘蛛。
要はカトブレパスの硬度を持ったクリスタルスパイダーだろ?
ぶん殴れば倒せるよな。
様子を伺ってたカトブレパスパイダーも少しずつ近付いて来たし、脚から順番に破壊してくかな。
突き出してきた右前脚を躱して関節を爆破。
やっぱこういう部分は脆いな。
続く左前脚が頭上から突き刺してくるのも躱して関節を爆破。
と思ったら口から糸を吐いてきた。
うわぁ…… 新装備がベトベト……
こんな時は全身から魔力を放出して範囲爆破で綺麗さっぱり蜘蛛の糸は取れるだろ。
と、うっかりしてた。
ここは蜘蛛の巣の上だった。
また地面に向かって落ちていく。
同じようにして着地して上を見ると、蜘蛛も糸を使って降りて来た。
ナスカ達は…… 一体倒してる。
やっぱナスカが入った三人は強えな。
こっちも早いとこ終わらせてやるか!
地面に降りきる前に駆け寄って、背中側から右回し蹴りに爆破を乗せる。
体重が重いせいかあまり飛んで行かなかったけど思った以上に硬い。
追い討ちに頭も全力の爆破で殴ったけどまだ倒せない。
確かに亜種ってのは元の個体より強いらしいな。
ナスカ達はどうやって倒したんだろ。
まぁいいや。
オレのやり方でやるまでだ!!
ってなわけで死ぬまで爆破してやりました。
ナスカ達もあと一体を倒せそうだし魔石に還して終わろっと。
数分で倒し終わった三人に労いの言葉ををかけつつ回復魔法をかけてやる。
思いの外怪我をしてるけど毒のない魔獣で助かったな。
毒なんて持ってたら間違いなく勝ち目はなかった。
今度合同でやろうとしてるコカトリスとか危ねーかもな。
解毒薬も一応用意しておこ。
それから下山して二時間かけて王国に戻るんだけど、魔石が他のと違ってデカイし歪だしすげー運びにくかった。
まぁ役所で報告して400万リラ受け取ったらこの努力も報われたと思うよな。
疲れたからこの日の観光はなし。
宿に帰って風呂で疲れを取ろう!
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