第12話 ドロップ購入
今日から王国での生活を楽しもう。
まずは役所に行って宿泊先を報告しないとなんだけど、今夜はもう少し中央にある宿に泊まるつもりだから宿を決めてから役所だな。
その後はエレナが楽しみにしてるわけだしドロップを買いに行こう。
髪色に合わせて装備も見直すつもりだから防具屋にも行かないとな。
考えるだけでも楽しみになってきた。
「よーし、飯は食ったな。じゃあ今日の予定を発表する。まずはドロップを買いに行く」
「やったーーー!! 勇飛最高! かっこいい!! 今だけ褒めてあげるっ!!」
今だけかよ…… まぁ嬉しそうだからいいや。
「次に皆んなの髪色に合わせて防具を新調する。今ある貯金分は使い切ってもいいから欲しいやつ買おう」
「いいの!? 僕も前から欲しかった防具があるんだよね! 結構高いんだけど大丈夫かな!?」
「足りなきゃまた明日稼ぐまでだ」
「だがまずは勇飛の防具から最初に決めるんだぞ! 順番は守ってもらう!」
「あー、はいはい」
ナスカはそういうとこ固いんだよな。
全員分の武器を揃えた後はオレの防具とは確かに言ったけど。
まぁオレ好みな派手な装備があれば買う事にしよう。
朝食も食ったんだけど市民街にある出店で買い食いしながら中区へ向かう。
外区でも人が多いと思ったけど中区はそれよりずっと多くて少し人酔いしそうだ。
クイースト王国は東西南と中区、外区と区分けされており、オレ達が宿を探すのは東中区を予定している。
一応シルバーランクの冒険者だし? 調子に乗って高級宿でもとってみようかなと考え中。
いくつか宿を見て回り、一部屋一泊4万リラのなかなかの高級宿を選択した。
この宿を選んだ理由はやはり風呂。
地球、しかも日本のように大きな湯船とはいかないが木で作られた立派な湯船があるのだ。
カイン達は不思議そうな表情をしていたが、オレにとって、日本人にとって風呂は大事なもの。
シャワーなんて汚れは落ちても疲れは取れないしな。
うちのパーティーにも風呂の良さを是非知ってもらいたいものだ。
宿が決まったので続いて役所に向かった。
高ランク冒険者は自分の住んでいるところを報告する義務がある為だ。
東中区の高級宿屋に宿泊中の報告をし、ついでにハーピーの討伐報告もしたら驚かれた。
やはり難易度8の魔獣を二十六体ってのは多いんだろうな。
今日受けるつもりはないけど、念の為クエストを確認したんだがさすがは王都。
デンゼルとは比べものにならない程のクエストが貼り出されていた。
高難易度クエストも複数あり、これまで見た事がなかった難易度10のものまである。
「なになに? 難易度10はグレンデル討伐? で、報酬はと…… いやいやいや、なにこれ。書き間違いか?」
「ん? 報酬が一体につき250万リラなら間違いないよ。僕達もまだこんな強敵とは戦った事ないけどとんでもない強さらしいからね」
「言っとくが勇飛。私達はまだシルバーランクの冒険者だ。難易度10は受けられないからな!」
「難易度9までだっけ? それすらまだやった事ないもんな」
高難易度の魔獣とか気になるよなー。
たぶん強えだろうし金も稼げるだろ。
知らないふりしてブン殴って倒しちまえばゴールドにもなれるじゃん。
って思ってたらナスカに睨まれてた。
「昨日話したコカトリス討伐クエストなら難易度9だったはずよ? まだ発注されてるみたいだけど…… もしかしたらミッシェル達がまだ狙っているかもしれないわね」
「それなら受付に確認してみればわかるんじゃないか? まだ復帰してから慣らし中って事だったし」
ナスカとエレナで受付に確認してもらう間、高難易度クエストを覚えておこう。
お、コカトリスも90万リラって結構いい額稼げるな!
受付で確認して来たナスカ達。
ミッシェルパーティーはやはりコカトリスへのリベンジを予定してるらしく、今後他のパーティーと合同で挑むつもりらしい。
それならうちのパーティーでもいいだろうと伝言を頼んだそうだ。
ミッシェルから応援要請があれば役所の職員が宿へ連絡を取ってくれるとの事。
とりあえず明日以降だろうし今日は買い物だ。
「じゃあ次はヒザキ宝石店に行くぞ」
「やった! 早く行きましょう!!」
エレナはほんと嬉しそうだな。
でもそうだよな、自分の髪色が変えられるってのはすごい事だ。
見た感じどんな色でも変えられるんだろ?
しかも色褪せたり染め直したりする必要がないんだから最高じゃねーか。
髪の色と目の色だけでそいつの印象は大きく変わるしな。
オレは最近この装備の色が定着しつつあるから緑系にするつもりだけど、濃度だって違うみたいだし結構悩みそう。
エレナが駆け出したので仕方ない、一緒に走って向かう事にした。
市民街のヒザキ宝石店は東中区と西中区にあるらしく、ここから近い東中区に向かっている。
貴族街店もあるらしいけど、貴族とかよくわかんないし市民街でいいや。
東中区市民街ヒザキ宝石店。
看板にドデカく【緋咲】って漢字で書かれてる。
ルビは振られているけど思いっきり日本人じゃねーか。
その緋咲って人はこの国にいるのかな?
もしいたら話してみたいけど店員に聞いてみよ!
店内に入ると市民街の店とは思えない程綺麗な作りだ。
アースガルドに来る前にも入った事はないけど、地球にあった宝石店を思わせるような作りで、自分達の服装との違和感がすごい。
「いらっしゃいませ。緋咲宝石店へようこそお出くださいました。当店は初めてですか?」
「は、はい! ドロップが欲しくて買いに来ましたっ!」
エレナが緊張気味に答えた。
「ではドロップについて説明させて頂きますのでこちらはどうぞ」
案内されたテーブル席に座り、お茶とお菓子を出されて説明を受けた。
ドロップは鋼鉄製のペンダントトップに上下に魔石を二つセットする事ができ、上が髪色、下が目の色を変化させる事が出来るそうだ。
目と髪の色を別々に変える事が出来るのもやっぱ嬉しいよな。
そして魔石をセットして首に下げる事で魔法が発動し、およそ一ヶ月はその魔法の効果が得られるそうだ。
首に下げ続けていればそのまま色が戻る事はなく、効果が切れる際にまた新たに魔法がかかるのだとか。
今後色を変える場合には魔法の効果が切れるまで首から外しておき、色が元に戻ったら魔石を変えて別の色にする事が出来るそうだ。
魔石の効果が切れるまでの時間はその時々でランダムらしく、犯罪防止の意味もあるのだとか。
因みにドロップの魔石が発動中は他の人が使用しても機能しないそうだ。
ドロップはメッキで着色された綺麗なアクセサリーで、装飾の種類や色も豊富にあるので魔石だけでなく全ての組み合わせを考えて欲しいとの事。
それなら髪色を考えてからドロップ選びの方がいいよな。
「以上となりますが質問はありますか?」
「ドロップについてはよくわかった。それよりここの店の名前が緋咲っていうのが気になってさぁ。オレも迷い人なんだけどここのオーナーもそうなんじゃないか?」
「お客様も迷い人なんですか!? それでしたら先月来て頂きたかったです…… 朱王様も同じ世界のお客様にお会いしたかったと思います」
「そのスオウさんって人はどこに行ったんだ?」
「クイースト王国の奴隷制度を撤廃してから施設を作ったりいろいろと仕事をしていたのですが、先月ゼス王国に戻られました。今後はノーリス王国やウェストラル王国、ザウス王国にも向かうと仰ってましたのでお会いするのは難しいかと思います」
奴隷制度撤廃したのってその人かよ……
オレがナスカ達のパーティーに入った頃に王国から発表があったんだよな。
奴隷として働いている者は役所に来るように言われてたし。
他の国では奴隷は十五歳までって事だけど、クイースト王国は二十歳まで
オレの中ではクイースト王国は他の国より酷いなと思ったんだけど実際はそうじゃないらしい。
奴隷だと仕事も食事も与えられるけど、家を持たない人間は冒険者になるしかないそうだ。
戦う術のない人間が冒険者になるなんて死ねと言われているようなもの。
仲間を集めようにも戦えない人間をパーティーに入れるお人好しなんてそうそういるもんじゃない。
そんな戦えない人間は遠くないうちに犯罪者となって捕まり、危険な場所での強制労働が強いられるか死罪となるらしい。
強制労働なら奴隷とそれ程違いはない気もするが、命の保証は一切ないのだそうだ。
あとは奴隷を解放したわけだから子供達の受け入れ先として外区に学校と宿泊施設を作ったらしい。
クイースト王国では二十歳までって事で、十六歳以上の奴隷は役所預かりという事で住居の保証をし、今後三年問題なく生活を送れるようであれば住居付きの身分を与えられるそうだ。
やっぱその朱王って人に会ってみたいな。
忙しそうだからしばらくは会えないだろうけど、同じ地球人として是非とも会いたい。
よし、いろいろ聞けたしそろそろドロップ選ぶかな。
エレナをあまり待たせても可哀想だし。
説明してくれたお礼を言って、店内でドロップと魔石選びをした。
三人とも色は決めていたようでナスカは鮮やかな赤に紫色の眼を選択。
色の濃度も選べるのでやはり迷っていたが。
エレナは元々がハニーブラウンの髪色なのだが、はっきりとした綺麗な黄色を選び、眼の色は緑色にした。
カインは空色の髪に碧眼を選択し、オレは淡い緑色に
金色の眼にした。
カインが選んだ淡い色に惹かれて選んだのだが、オレは肌が白い方だしおかしくはないだろ。
ドロップの本体は皆んな好みの物を選ぶつもりだったが、同じパーティーだし統一したいという事で装飾を同じにして色だけ変える事にした。
デザインはこれまでずっと我慢していたエレナに選ばせたんだけど、あれもいいこれもいいとなかなか決まらなかった。
ドロップと魔石を購入して支払いを済ませたが、思ってたより安くて驚いた。
ドロップ本体が5万リラ。
魔石が一つ3万リラ。
ドロップ本体に魔石二つの三点セットで10万リラとちょっとだけお得。
今後色を変えるとしても安いものだ。
購入して鏡の前でドロップを首に下げ、魔法が発動して頭から光を放つ。
そして光が収まると鏡に映されるのは髪や眼の色が変わった自分の姿。
やはり見慣れない自分の色に違和感を覚えながらも、変化した自分の姿に大喜び。
エレナなんかはこれまでより明るい色になったので、眉毛が薄く見える事に焦っていた。
まぁ眉毛は髪より少しトーンを落とした色味となっているのでそれ程気にはならないが。
オレとカインもお互いに見合ってちょっと苦笑い。
濃いめの色を選択した女性二人に対し、淡い色を選んだオレ達男二人。
これまでと全然違う色味に苦笑いするしかないな。
そのうち見慣れるだろうから気にしない事にしよう。
髪色も変わった事だし防具屋で装備を新調しよう。
各々好きな防具を選んで持ち寄り、全員で似合うかどうかを吟味する。
オレは別に今のままでもいいけど上衣にミスリルウェアというミスリル繊維を編み込んだ装備を購入した。
これまでと同じ真っ黒な上衣にミスリルのウォーマーも付属する。
一着で100万リラという高級装備だがまぁいいだろう。
ついでに防御力が全く上がらないのだが、装飾品の気に入った物を複数購入。
総額134万リラと結構な金額となった。
次に欲しい防具があったと言うカイン。
あれ? こいつ何気に自分大好きか? って思うくらいに纏まっている。
藍色と白の耐火素材の上下服に、銀色のミスリル製の胸当てを装備する。
同色のマントも購入してお値段640万リラ。
確かに言っていた通りに高い買い物だ。
ミスリル製の胸当ては薄くて高強度だし、値段が高くなるのは仕方ないけどな。
次にエレナの装備だが、全体的に真っ白だ。
ぱっと見ウェディングドレスのような装備だが、そんなので戦えるのか?
試着させたら足回りが邪魔になるという事で却下。
色味を白をベースにして金の装飾が施された耐火装備を購入し、胸当てや小手、脛当てなどはこれまで使っていた物をそのまま使用。
安上がりとなったが耐火装備のみで38万リラ。
最初のウェディングドレスを思わせるようなフワッとしたデザインの装備を選んだので、そこそこに満足そうだ。
ナスカは上半身はこれまでの赤い耐火服に白い胸当てのままとし、黒いショートパンツとニーソックス、赤い耐火素材の腰布を購入。
新しくブーツを購入するついでに鋼鉄製の白い脛当ても追加して総額36万リラ。
全員合わせて848万リラとなるが手持ちは足りている。
装備も購入できたし残りの時間は市民街での観光をする。
多くの人々が賑わうこの街の雰囲気を楽しみながら歩き回り、夕食は宿で摂る事にした。
さすが高級宿と言えるだけの豪華な料理に舌鼓を打つ。
その辺で食べる料理のように簡素な味付けではなく、しっかりとした味付けや風味、旨味を存分に楽しんだ。
そして夜はお風呂!
ついに湯船に浸かれるんだ!
ヒートの魔石をミスリル皿に乗せて、蛇口を掴んで水を出す。
加熱された水が湯気をあげ、湯船にお湯が溜められていく。
シャワーを浴びて体を洗っていざ入浴。
「っっっくうぅぅぅう!! さいっっっこうっ!!」
やっぱ湯船はいい!
日頃の疲れっつかなんだ? なんて言うか体の悪い部分が出ていく感じ?
今頃あいつらも風呂を楽しんでるだろ!
もうここに住んでもいいってくらい気持ちいい!
ちょっと宿泊費が高いけどこの風呂があるだけで充分満足できるな。
あー。
うん、よし、王国いる間はずっとここに泊まろっと!
※今後は毎週日曜日の投稿となります。
本編【器用さんと頑張り屋さんは異世界へ〜魔剣の正しい作り方〜】も読んでみてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます