第11話 勇飛パーティー王国へ
全員分の武器を購入してから三カ月が過ぎた。
エレナの直剣のローンも支払いは完済し、次は防具でも買おうか悩んでいるところ。
「おっと、そうだ。そろそろ王国に行ってみないか? ドロップって髪色変えるアイテムも欲しいしな」
「ドロップ買うの!? 行く!!」
エレナが立ち上がって食いついた。
以前から欲しい欲しいと言い続けてたんだが王国まではちょっと遠いから我慢させてた。
ある程度金もあるし、役所のクエストも目星いものがないのでいい機会だ。
王国に行って荒稼ぎしつつ観光でもして来よう。
「っつーわけでサーシャ! オレ達王国に行ってくるから手続き頼む。どれくらいの期間になるかわかんねーけど…… 寂しくないか?」
「寂しくなんかないですよ! なーに言ってるんですか! 後ろで睨んでる人がいますよ!」
ん? んー、ナスカの事か。
なんでこいつは睨んでるんだろうな。
「ナスカは置いて行かれたら寂しいか?」
「寂しい!!」
あ、ちょっと可愛い。
キリッとしてていい女風なのにセリフはバカっぽい。
まぁナスカはちょっと変な奴だから普通は寂しいとか言わないのもしれない。
って事はサーシャは素直じゃないから寂しいと言えないんだな、うん。
納得したところでそろそろ行くか!
「弁当買って王国行くぞー。カインは忘れ物すんなよ」
「この前フォークを忘れたのは勇飛だろ!?」
そうでした。
クエスト行って弁当食おうとしたらフォークが無くて食えなかったんだよ。
まぁいいや、弁当買いに行こう。
広場のすぐ側にある食堂のおばちゃんに頼んで弁当を作ってもらう。
安くて味もいいから弁当はいつもここ。
でも王国行ったらしばらくは食えないよな。
「おばちゃん、今日は全員分大盛りで頼むよ」
「あいよー」とおばちゃんは弁当箱いっぱいに詰めてくれた。
宿を引き払って街を出る。
クエストに行く以外で街を出るのは初めてだな。
デンゼルからノーリス王国までは歩きで丸一日かかるらしい。
だいたい八時間として歩き通しで十八時には着ける予定だ。
距離にしておよそ40キロってところか。
一日中ただ歩くとかめんどくさいけど移動手段がないから仕方ないよな。
そこそこに交通があるからデンゼルから王国までは道が整えられている。
道から外れても短めの草が生えてるだけだしそこそこ見通しはいい。
遠くから魔獣が襲って来てもすぐにわかるから問題ないだろう。
「王国ってどんなとこだろうな。お前らは行った事はあるのか?」
「勇飛と出会う前は時々行ってたよ。私達に応援要請も来るしな」
「ふーん。今までそんなのなかったけど」
「よく僕達に応援要請してくれてたパーティーが怪我でしばらく休んでたからね。最近復帰して軽めのクエストから体を慣らしてるんだって」
「コカトリス討伐で毒にやられたらしいわ。致死性の毒だから解毒剤とヒーラーの解毒魔法でもしばらく治らなかったそうよ。勇飛なら…… なんとなく耐えれそうよね」
「どうだろう。毒なんて浴びたくねーしその前に倒す方法を考えるかな」
話しをしながら進んで行くと、右前方に魔獣が見えてきた。
カトブレパスみたいだけど運べないしな。
食肉としては高いけど魔石としてはあまり価値はないし、とりあえず放置しよ。
途中で弁当を食ってたら上空から魔獣に襲われた。
カインのサラマンダーが気付いて教えてくれたからダメージはない。
まぁ食い終わるところだったからいいんだけど、ご飯はゆっくり食いたいなっと!
オレに足爪を突き立てようとしたところで足を掴んで顔をぶん殴ってやった。
「ハーピーだ!! 風魔法を使うから気をつけろ!」
「やばいわね…… 難易度8の魔獣じゃない」
「僕は相性最悪の敵なんだけど……」
難易度8か。
もしかして報酬額も期待できるんじゃないか?
「あれ一体につきいくらだ?」
「少なくとも10万リラはもらえる!」
「よし! 全部狩るぞ!」
「ええ!? 二十体以上いるわよ!?」
空中浮揚していたハーピーが一斉に襲いかかって来た。
ナスカとエレナ、カインは背中を向けあって視覚を無くして迎え撃つ。
そうなれば真っ先に狙われるのはオレ一人。
全身から魔力を放出してハーピーを引き付けて一気に爆破する。
倒せる程の威力はないが衝撃で打ち落とす事ができるからな。
あとは地面に落ちて隙だらけのハーピー共を片っ端からぶん殴る!
同じように地面に落ちたハーピーにとどめを刺すナスカ達。
これでまずは半分ってとこか。
上空で待機してるハーピーに魔力が集中したと思ったら風のブレスを吐いてきた。
渦巻き状のブレスだけど威力はわからない。
とりあえず避けたら倒したばかりのハーピーの死骸がミンチになった。
「あれ食らったら痛そうだな」
「痛いどころじゃないわよ!」
しかし空にいる魔獣相手にどう戦えばいいんだ?
ハーピーは一度ブレスを吐くと連発できないのか、こっちを見ながら待機してる。
「カイン。ハーピーがブレス吐いた後に試しに矢を射ってみてくれ。あとブレス回避直後にナスカとエレナはカインが狙ったハーピーに向かって走れ」
「勇飛は何をする気だ!?」
「ジャンプして打ち落とす」
「「はぁ!?」」
しばらく上空で待機していたハーピーがまた魔力を集中し始めた。
所詮は魔獣だし頭はそんなに良くないからな。
こっちが纏まってるからここに真っ直ぐブレスを吐いてくるだろうし避けるのは簡単だ。
あとはカインが一体射って油断させれば何とかなるだろう。
人間並みの体の大きさなのに翼はそれ程大きくないって事は、空を飛ぶのに風魔法ありきって事だろ。
その証拠にブレスの後は羽ばたきまくってるしな。
ハーピーから渦巻き状の風のブレスが吐き出され、一斉に自分の向いている方向に走って回避。
次にカインが弓を構えてハーピーの一体目掛けて炎の矢を放つ。
同時にオレはそのハーピーに向かって駆け出し、足裏から放出した魔力で爆破とジャンプ。
…… あら? 飛び過ぎた。
まぁハーピーがうまく飛べないのはわかったし、爆破を利用して方向を合わせてー、殴り落とす!
よし、うまくいった!
エレナとナスカも走り込んで落ちたハーピーにとどめを刺した。
どうやらオレの方を見てハーピーが油断したんだろうな。
カインが炎の矢で三体立て続けに貫いた。
「よし、あいつらまともに飛べないから一気に片付けるぞ!」
「了解!」
「私も風魔法で打ち落とすわ!」
「むぅ、じゃあ私は落ちたのをやる」
エレナは風魔法を広範囲に発動し、ハーピーの空中浮揚を妨げる。
まともに飛んでいられないハーピーは地面へと降りて魔力の回復を待つのだが、走り込んだナスカがハーピーを斬りつけて倒し、炎を放って撹乱する。
自分達の戦いができないハーピーは空へと飛び上がろうとするが、やはり風が乱されて逃げる事は叶わない。
戸惑うハーピーに向けてカインが炎の矢を放ってその数を減らしていき、オレも片っ端から叩き伏せていく。
数分程度で全てを倒して魔石に還し、ハーピーとの戦闘も終了。
魔石を回収してまた歩き出す。
ハーピーの魔石の数は二十六個とそこそこ稼げたと思う。
その後もゴブリンだったりワーウルフだったりと魔獣に何度か遭遇したが、何の苦もなく返り討ち。
十八時前には王国領内に入り、田畑や農村を見渡しながら市民街へとたどり着いた。
今夜は市民街外区のそこそこな宿に泊まる事にして酒場で夕食を摂る。
宿屋の夕食でもよかったが、せっかくなので王国の市民街の雰囲気を楽しみたい。
外区とはいえさすがは王国と思えるのは人の数。
デンゼルではこれ程多くの人は見た事がない。
やっぱ人が多いとこは活気があっていいなって思う。
それなりに美味い飯を食って周りの客と酒盛りをして王国初日の夜を楽しんだ。
せっかく王国に来たんだし楽しまないとな。
※今日明日投稿後は毎週日曜日の投稿となります。
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