第15話 コカトリスをぶん殴れ
伯爵領兵長バルドの邸へと到着し、コカトリスの被害状況、生息数について確認する。
「現在確認されているコカトリスの数は四体。食料を求めて田畑を荒らしながら行動範囲を広げている。人的被害は最初の農家の五人のみで近隣の住民には避難してもらっている状況だ。だが農民達にとっては死活問題だろうな。田畑は食い荒らされ仕事も出来ないとあっては生活していく事ができん」
「あれから二体も増えたのか…… こちらも合同パーティーで挑むとしてもキツイな」
「一体ずつのところを狙って倒すしかなさそうね」
「いつも通り連携をとって倒せば大丈夫だろう。前回のように一体を倒したところを狙われなければなんとかなるはずだ」
「私達が一体目と戦っている間、他のコカトリスが襲って来ないようナスカ達には警戒してもらわないとね」
「一緒に倒さないのか?」
「うちと月華では連携も取れないし他のコカトリスを警戒してもらっていた方が安心だ。もし全てのコカトリスに囲まれたら勝ち目はないからな」
合同パーティーでの討伐だが、一体を全員で狩る事はしないようだ。
もし同時に狙われたらとりあえず引きつけとけばいいのか?
ミッキーで一体目を討伐している間に他のコカトリスを警戒、二体目と月華が戦っている間に魔力や体力の回復を待つのと三体目の警戒って作戦だろう。
体力だけならオレが回復してやるんだけどな。
その後宿に案内してもらったが結構立派な宿に無料で泊めてくれるそうだ。
残念ながら風呂はないがシャワールームは結構広い。
宿の中に酒場もあるし今夜は夕食を食べながら酒盛りだな。
ここアースガルドでは十五歳で成人って事だしオレが酒を呑んでも問題はない。
時々クエストで儲けがデカい時なんかは皆んなで飲みに行ったりもしてるけど、甘口の酒じゃないと美味いと思わないのは飲み慣れないせいかもしれない。
すでに十六時半も回ってるし討伐は明日だ。
明日に備えて今日はゆっくり休もう。
部屋でしばらくくつろいでシャワーを浴びたら夕食だ。
宿の料理はがっつり肉料理。
焼いた肉や煮込んだ肉、高級宿なだけあって味も美味いがご飯が欲しいところだ。
注文したらあったので焼いた肉でご飯を食べると超美味い。
焼肉のタレみたいなものは無いけど、塩と胡椒に似た薬味で味付けされた肉はなかなかに美味い。
煮込んだ肉はピリ辛でこれもまた美味い。
ご飯をおかわりして腹一杯に食べた。
一応酒も注文したけど定番の酒、エールは苦くてちょっとした炭酸の常温のもの。
めっちゃ不味い。
他の客は当たり前のように飲んでるけどオレには無理。
冷えてたらそこそこ飲めるかもしれないけどそれでも不味いと思う。
エールはやめて果実酒をもらって飲む事にした。
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翌朝もいつものように早起きだ。
六時には目が覚めて二日酔いなども全くない。
体調も万全だしコカトリス討伐も余裕だろ。
朝食はパンと野菜のサラダ、肉入りのスープとベーコンみたいな加工肉を焼いた物。
塩加減が強めなベーコンが食欲をそそり、サラダもスープも結構美味い。
パンも焼きたてでふんわりしてて美味しいし、今までこの世界で食った中でも一番美味いパンだ。
帰りのおやつにもらってこう。
「じゃあこれからコカトリス討伐に向かう。一体ずつ狙って倒すからナスカ達は二体目の警戒を頼んだぞ」
「任せろ。ミッシェル達は油断するなよ?」
コカトリスがいる田畑まで歩いて向かう。
領地の外縁側にある田畑でちょっと遠いけど歩いて十五分程度の距離だ。
今は避難して誰もいなくなった農村の家の陰からコカトリスを探す。
思ったよりすぐに見つかったけどコカトリスって結構デカい。
高さ5メートル以上あるんじゃないか?
あれが毒を吐いてくるとなると確かに強敵だと思うし囲まれたらキツそう。
こっから見えるのは二体いるし他のを狙うべきだろう。
場所を変えて農村の反対側へと向かうと一体だけのコカトリスが畑の野菜を食ってる。
狙うとしたらアイツだな。
「よし、私達があのコカトリスを倒すから周りの警戒を頼む。皆んな、行くぞ!」
「「「おう!」」」
キーファが魔力を練りながら魔法を錬成し、ヘンリエッタは弓を引き絞り、まだ気付かないコカトリスの目を狙って矢を射る。
ヘンリエッタの腕は確かなもので、30メートル以上も離れた位置からコカトリスの目を潰す事に成功した。
直後にキーファが駆け込むとともに火属性魔法を放ち、コカトリスは炎に包まれて悲鳴のような鳴き声をあげる。
続けて駆け込んだミッシェルとフレデリカの炎の斬撃によってコカトリスの足が切られ、転がるように倒れ込んで炎を消す。
さらに追い討ちを仕掛けるミッキーパーティー。
ヘンリエッタはミスリルの矢に炎を纏わせて射ち、キーファも再びコカトリスを中心に炎を放つ。
苦しみながら悶えるコカトリスにミッシェルとフレデリカの追撃で一気に畳み込む。
数分間の連続した攻撃の甲斐あってコカトリスを討伐する事に成功した。
「はぁ…… はぁ…… よし、まずは一体」
「これならいけそうね」
「少し魔力を回復させないと次が倒せないわよ」
「ぜぇ…… ぜぇ…… 前回はここで襲われたからね……」
「全員集まれ。体力だけ回復する」
ミッシェル達を周りに集めて範囲の回復魔法をかけてやる。
ついでに魔力回復薬でも飲んどけば大丈夫だろう。
「ありがとう勇飛。一瞬で疲れが取れたぞ」
「ほんと、回復速度が早いね。魔法医より早いんじゃない?」
「まぁ戦闘中は常時自己回復してるからな。回復も早くなるだろ」
たぶんオレの回復速度が早いのはそれが理由だろう。
常に体力の回復と怪我をしても即回復。
爆破魔法を使いながらも当たり前のように回復してるからな。
その辺の魔法医に負けない自信もある。
ミッシェル達の回復が終わって次のコカトリスを探す。
最初の二体は後回しにしてもう一体が単体でいるはずだ。
農村の中央側に戻りながら探すと、一体でいるコカトリスを発見。
「よし、行くか!」
「「「おう!」」」
とりあえずナスカ達に任せて苦戦するようならオレがとどめを刺すか。
カインが弓を引き絞り、サラマンダーを顕現させて炎の矢を射る。
一気に駆け寄るナスカとエレナ。
オレはとりあえず歩いて向かう。
と、思ったら後方から悲鳴があがる。
「うわぁぁあ!! コカトリスが二体近付いて来る!」
「ちょっと! 三体相手は無理! どうするミッシェル!?」
「ナスカ達があの一体を倒したら逃げるぞ!!」
ん? 逃げる?
「ちょっと待て! オレが一体受け持つからお前ら残りの一体をやれ! カイン! そっちは任せるぞ!」
「任せてよ勇飛!」
カイン達なら連携とれば余裕で倒せる。
あとはオレが一体をぶん殴ればいいし、ミッシェル達も魔力は回復してなくてもギリギリ勝てるだろ。
「何を言ってる! 勇飛が一人で一体を受け持つだと!? やめろ、自殺行為だ!」
んー、別にそんな強そうには見えないけどな。
毒吐く前に倒せばいいんだろ?
「まぁ見てろって」
最初に駆け寄って来るコカトリスに向かって走り出し、距離をある程度詰めたら足裏を爆破して一瞬で間合いを詰める。
そんで全力の魔力を込めた爆破でぶん殴る!!
あら、硬い。
嘴にヒビが入ったけど一撃で砕けないって石より硬いみたいだ。
あー、でも魔力で強化されてるから硬いのか。
でも一撃で砕けないなら砕けるまで殴るだけだ。
とりあえずひたすら爆破の連打で死ぬまで殴ってやった。
悲鳴もあげる暇もなかっただろ。
これで毒も吐かれないしな。
ナスカ達は…… 毒のブレスも炎で対処してるし、ん? 違うな、なんか毒のブレスに対処する訓練してんのか?
あいつら余裕あるな…… 任せておいてもいいだろ。
あと残るは一体か。
「ミッシェル! 何呆けてるんだ? 残り一体こっち来たぞ!」
「あ、ああ! 行くぞ皆んな!」
「ちょっと待って! コカトリスを正面からは危険だよ!」
ヘンリエッタの忠告を聞かずにコカトリスに向かって走り出すミッシェルとフレデリカ。
あれ大丈夫なのか?
ヘンリエッタも急いで矢を射ったけど嘴で弾かれたし、キーファの火属性魔法もブレスで相殺された。
やばくね?
今度はフレデリカが嘴で弾き飛ばされたし、ミッシェルは顔に切り込んだけどそれ程ダメージは無さそう。
二射目のヘンリエッタの矢が左目を貫いた。
けどキーファの二発目の魔法がまだだ。
目に矢が刺さって苦しむコカトリスにミッシェルがまた切り込んだけど足で蹴られた。
フレデリカが左足に切り込んでバランスを崩したところで、コカトリスも毒のブレスを吐く。
フレデリカに直撃したな。
確かコカトリスの毒は五分程度で死に至る危険な毒って言ってた。
ついでに言うとすげー苦しいらしい。
パーティーで倒すって話だけど助けた方がいいんだよな?
とりあえずフレデリカに近付いて解毒魔法だ。
安全な場所まで……
「邪魔だ!!」
フレデリカを移動しようとしたらコカトリスが襲い掛かってきた。
ぶん殴ったけどミッシェル達の獲物を殴っても良かったのかは知らない。
あとは任せよう。
フレデリカを安全な場所まで運びながらも解毒魔法をかける。
唸ってるし体も熱い。
相当苦しそうだな。
ところでブレスの場合はどっから毒を出すんだ?
吸い込んだんだろうし口から出せばいいのかな?
まあ試してみよう。
またも人体実験になるがやらなきゃ死ぬしたぶん回復できると思う。
地面に寝かせてフレデリカの体内をオレの魔力を満たす。
うん、コカトリスの毒魔力が口と鼻から出てきたな。
フレデリカもすげー顔してるけどまあ仕方ないだろう。
もう毒は残ってなさそうだしあとは意識の回復を待つだけだ。
さて、戦況はどうだろう。
ナスカ達は余裕をもってとどめを刺したみたいだ。
魔石に還してミッシェル達を見てる。
ミッシェル達はかなり苦戦してるけどコカトリスももう動きが悪いな。
フラフラになってるしもうすぐ倒せるだろ。
あの嘴が割れてるのはオレが殴ったやつかな?
文句言われなきゃいいけど……
それから十分程して最後のコカトリスも倒れた。
ミッシェル達は立ってもいられない程疲弊してるし回復してやろう。
フレデリカはもう大丈夫だし離れても問題ないしな。
「お疲れ。大丈夫か?」
範囲の回復魔法で全員同時に回復だ。
「フレデリカは!? フレデリカは大丈夫なのか!?」
「ああ。解毒魔法も済んだから意識が戻れば大丈夫なはずだ」
「良かった……」
「ありがとう。勇飛のおかげで助かった……」
まぁ焦り過ぎだよな。
落ち着いて対処すれば普通に倒せただろうに。
ナスカ達もフレデリカの心配をしていたがオレが解毒魔法をかけたと言ったら安心しきっていた。
そんなに信用されても後遺症とかまでは保証できないんだけどな。
…… 大丈夫だと思いたい。
一時間程して目を覚ましたフレデリカ。
やはり毒から回復すると頭が回らないようだ。
集中力を高める魔法をかけてフレデリカの意識もはっきりとさせてやった。
「私…… ブレスを浴びて……」
「おう。解毒したからもう大丈夫だぞ」
「勇飛様……」
「さま!?」
おいおい、泣き出しちゃったよ。
そんなに苦しかったのか?
まあ五分で死ぬ毒だしそりゃ苦しいか。
回復したなら良かったなと。
「よーし、あとはバルドさんとこで報告してクイーストに帰ろうぜー」
「も、もう少し休ませて!」
討伐は午前中に終わったけど一時間くらい休憩した。
その後兵長のバルドに報告してクエストは達成。
昼飯食ってクイースト王国に帰る事にした。
帰り道にミッシェル達からミッキーに来ないかと誘われたけど断った。
四人にめっちゃくっ付かれてナスカに睨まれたけどオレは悪くない。
何もしてないしな。
それに今の月華はオレの居場所だし抜けるつもりもない。
自分がリーダーで好き勝手やらせてもらってるけど結構いいパーティーだとは思う。
このパーティーならゴールドもそう遠くないはずだしな。
今後もオレの我儘に付き合って欲しいものだ。
クイーストの役所に着いたらすでに十八時を過ぎていたけど報告だけは済ませる事ができた。
報酬は200万リラずつと、途中で狩った魔獣はそれぞれの取り分となった。
「それじゃまた何かあったら応援要請してくれ。手伝いに来る」
「今回はありがとな、また頼むよ」
「勇飛様、ありがとうございました! またお会い出来る日を楽しみにしています!」
フレデリカはキャラが変わったな……
「おう。怪我には気をつけろよ。じゃあまたなー」
簡単に別れの挨拶を告げて宿に戻った。
宿で早速風呂に入って疲れをとり、美味い夕食を食って今日もおしまい。
結構稼げたしいいクエストだったな。
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