第18話 あの店を探すのも良いかもしれない

「ちょっ、ちょっと勝手に入られては困ります!」


 騎士団らしき集団の周りでは、数人の職員らしき人たちが歩みを止めようと声をかけているけど、まるで効果がないみたいだ。


 そうこうしている間にも、集団の先頭に立つ男性はどんどんとこちらへと近づいて来る。


 団長も苦虫を噛み潰したような顔をしているので、止められはしないけど招かれざる客ってことは間違いないと思う。


 集団の視線は団長へと向いているためグレイスさんのほうが聞きやすいかと思い、集団に気が付かれないように小さな声で問いかけた。


「グレイスさん、あの人たちはいったい?」

「……彼らは第二騎士団の者たちです。団員を引き連れた先頭の方が第二騎士団団長であるザナルギース様です。詳しい説明はできませんが、なるべく視線は避けないことをおすすめします」


 そう説明するグレイスさんの声は若干震えているように感じた。それだけの人物ってことなんだろう。実を言えば、グレイスさんに促されるまでもなく先頭の男性からは目が離せないでいたので、その気持ちはよく分かる。


 威圧感といえばいいだろうか、他の団員よりも頭一つ高い身長に鎧で隠されてはいるけど、間違いなくかなりの筋肉質な体躯から伝わってくるプレッシャーがすごい。


 炎を思わせるような紅の髪と瞳。眉間には深いシワが刻まれていて歴戦の勇を感じさせる。


「くそっ、騒ぎを嗅ぎつけて出張ってきたか。おい、勝手に入ってくるんじゃない!」

「これだけの騒ぎだ、そういうわけにはいかん」

「騒いでいようがお前たちには関係ないだろう。ここは我々第三騎士団の敷地だぞ」


 団長の言葉尻からは、さっさと帰ってもらいたいという思いがありありと伝わってくる。


 それが伝わったであろう上で、ザナルギース団長は視線を特殊訓練場へと向けた。


「それで、この建物は一体何だ? 詳しく説明をしてもらおうか。我々第二騎士団の役目を忘れたわけではあるまい?」

「くっ……、もちろんだ。もちろんだが、これは……この場では説明しづらい。詳しい事は中で話す。それでいいだろう?」


 団長が嫌々ながらも拒否できない役目ってなんだろうか?


 いや、俺がそんなことを気にしても意味がない、か。


「まあ、いいだろう」


 団長が渋々ながらも説明を約束したことで、ザナルギース団長の表情が幾分か柔らかくなった。眉間のシワもほんの少しだけ浅くなったような気もする。


「グレイスくん、私はちょっとザナルギースと話してくる。団員の救出は君が指揮をとってくれ」

「はい、わかりました。しかし、説明に同行する必要はありませんでしょうか?」

「必要ない」


 そう言った直後に小さな声で、口裏を合わせるのが面倒だって聞こえたのは忘れよう。これはしっかりと説明する気無いんだろうな。


「人手が必要ならうちの団員も手伝わせよう。マークス」

「はっ!」


 マークスと呼ばれた男性は背筋を伸ばして直立に敬礼をした。そしてそのまま他の団員を引き連れて行動を開始する。


「あ、俺も手伝いを――」

「お前は何者だ? その身なりは正式な団員に見えないが?」


 俺の言葉を遮るように、ザナルギース団長が問うてくる。視線だけをこちらに向けて、顔も身体もこちらには向いていない。


 特に責められているわけでもないのに、つい背筋がピンと伸びてしまう。ちょっと怖い。


「はっ、私は本日から見習いとなりました。名は――」

「名乗らなくていい。見習いに興味はない」

「……はい」

「ライトくん、君は今日のところは帰っていい。施設の案内途中に騒ぎに巻き込んでしまって悪かったな」


 えっ?


 どうやら団長は、俺が今回のことに関わっている件に関しては黙っておくつもりみたいだ。理由はわからないけど、救出にもかかわらせるつもりは無いようなので黙って引いておくしか無いだろう。


「わかりました。それではここで失礼いたします」

「明日も遅刻しないようにな」

「……はい」


 伝えるべきことは伝えたとばかりに、団長はザナルギース団長を引き連れて自室のある事務所の方に戻っていった。


 少し悔しい気もするけど、今の俺ではこれ以上関わるとボロが出てしまいそうだ。仕方がないので、今日のところは帰ることにしよう。


       ◇◇◇


 さて、第三騎士団の敷地から離れたのは良いけど、これから一体どうしたものだろうか。


 今日は、朝からの施設案内と特殊訓練場を浮上させたであろう立会いしかしていない。当然だけどまだランチタイムとしては早すぎる。


「んー、なにかやることでもあれば――ってそうか。せっかく時間が空いたのであの店を探すのも良いかもしれないな」


 そうやって誰に聞かせるでもなく、独り言をぽつりと漏らす。


 あの店というのはもちろん、港町であったスフレのお父さんが経営している店のことだ。


 王都を訪れた初日には発見することはできなかったけど、せっかくタダ飯を食わせてくれるっていうんだからぜひとも探しておきたい。


 ――思い立ったが吉日。スフレが言っていた精霊達の木漏れ日亭を探し始めた。


 探し始めてから一時間弱くらいで道行くおばあちゃんから店の場所を聞き出すことができた。


 

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歩く天災、異世界を救う ~手違いで神が死んでしまった!?~ ワイエイチ @waih_wr

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