第17話 どうして誰もついてきてくれないんですか?

 浮上した地下遺跡部分よりも、地上に建築されていた部分が奇跡的に小さかったようで、建物は壊れることなく上に押し上げられた形になっているように見えた。


 反対側が見えないので確実ではないけど……。


 驚いて見上げていると上の建物から一人の男性が顔をのぞかせた。


「お、おい! そこのお前!」

「え、俺ですか?」

「ああ、何処の誰かは知らんが何が起きたのか知っているか!?」

「すみません。俺にもわかりません」


 タイミング的にはどう考えても俺の【超会心】が何かをしたっぽいのは、ほぼ確定だろうなあ。そう思いつつも認めてしまったらいけないような気がした。


 すると、今のやり取りに気がついてくれたのか、ちょうどいいタイミングで団長とグレイスさんも外へ出てきてくれた。


「あ、団長。上に誰かいるみたいです!」

「グレイスくん、今日の予定はどうなっていた?」

「今日は確か第六隊から第九隊の四隊がここで訓練中だったはずです」

「団長、助けてください!」


 そう言われてみれば、別に考えるまでもなく第三騎士団の人たちが訓練しているに決まっている。


 でもこの慌てようはなんだろうか?


 元々地上にあった訓練場には地下の特殊訓練場へと降りる階段があったはずだ。別に誰かの力を借りるまでもなく、そのまま降りて外に出てくればいい。


 それを団長とグレイスさんも察したのか、上にいる団員の慌てようが納得いかないみたいだった。


「階段で降りてこれないか?」

「階段もその入口も壊れてしまいました! 先程の揺れで訓練場の所々が崩れてしまっています。ここもいつまで持つか……」

「なんだと!? グレイスくん!」

「はい、すぐに長いはしごを探してきます!」


 上にいる団員が慌てているのはそのせいか……。それを聞いた団長がグレイスさんに声を掛けると、支持を聞くまでもなくグレイスさんは備品倉庫の方へと駆け出した。


 そのよどみないやり取りにちょっと感動してしまう。


 でも、これくらいの高さならどうとでもならないか?


「すみません、それならそこから飛び降りれば良いんじゃないですか?」

「バカを言うな! こんな高さから降りたら死んでしまうだろ!」

「えぇ……」


 確かに、地下の特殊訓練場は天井も高かったから元々地上にあった部分は高くなってしまっている。


 ……でも、実際に中で見た限りでは、たかだか体育館よりも少し高いくらいだ。


 異世界基準の身体能力であれば、それほど苦労することなく降りてくることくらいできると思うんだけどなあ。


 それにグレイスさんに案内された限りでは、この第三騎士団では日々厳しい訓練が行われているはずだ。


 結構な揺れだったから皆気が動転してしまっているのかもしれない。そう思い、近場の柱や壁を見る。所々で足場になりそうな出っ張りもあるし――よし!


「皆さん、慌てずに冷静になってください。こうやって上り下りすれば簡単ですから」


 そう言って柱に向かって飛び上がり、目算をつけた出っ張りを足場にしてひょんひょんと飛んで二階(元一階)まで到達する。


「はあ?」

「ほら、落ち着けば簡単ですよ」


 あいかわらず慌てたままの団員の後ろには、何人もの団員が同じように冷静さを失っていた。


 落ち着いてくれるようになるべく落ち着いた口調で話し、後ろをついてくるように合図をしてからもう一度同じ足場を利用して地上へと戻ってくる。


 さきほどの揺れは結構強かった。


 短い人生を思い返してみれば、この異世界に来てからは大地震どころか小さな地震も経験したことがない。そう考えれば、この異世界の人たちが冷静さを失ってしまっても決しておかしくはない。


 でも、こうやって眼の前で実演すれば、さすがに冷静さを取り戻してくれることだろう。そう思って口元に笑みを浮かべて後ろを振り向いた。


「って、あれ?」


 そこには誰もいなかった。


 俺の後ろをついて降りてきた人は一人もいなかった。それどころか、上を見れば誰一人として降りようとすらしていなかった。


「ど、どうして誰もついてきてくれないんですか?」

「いや、ついてって……なあ?」


 上にいた団員は呆然とした様子で、その横から顔を出していた別の団員と顔を合わせる。


 後ろを向くと団長はその様子を見て怒りを我慢している様子だった。


「えっと……、誰も降りてきてくれないみたいです。団長どうすれば皆落ち着いてくれるでしょうか?」

「そ……」

「そ?」

「そんなこと真似できるわけ無いだろう! 落ち着くもクソもあるか! なんなんだ、その化け物じみた身体能力は!?」


 団長が声を荒げた相手は上にいる団員ではなく俺だった。なんで!?


 あれくらいなら異世界基準の身体能力ならなんとでもなるだろ?


 少なくとも村では身体ができあがっていない子供達はともかく、大人たちなら家の屋根とかにひょいっと飛び乗っていたぞ。


 運動がそれほど得意じゃないミロクだってできていたのに……。


「と、とにかく! グレイスくんが戻ってくるまでは不用意に動かずに待て!」

「はい!」


 俺の戸惑いを他所に団長と団員たちの意思疎通は完了したらしい……。なんだろう、解せぬ……。


 仕方がないので、グレイスさんが数人の男性を連れて木製のはしごや縄梯子を持ってくるまでは、そのまま待っているしかなかった。



 それからようやく救助活動が始まったと思ったらすぐに新たな局面を迎えることになった。


「第三騎士団ども! この騒ぎは一体何事だ!?」


 遠巻きに張り上げられた声に振り向くと、そこには身なりが統一された武装集団が強張った様子で立っていた。


 ……もしかしなくても、他の騎士団だよね?


 なんだか次から次へとどんどん大事になってきてないか!?

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