第13話 異世界ファンタジーなんだなあ

「いいや、王都の近くじゃあないよ」

「それじゃあ、あの人達は結構遠くまで移動するんですね。乗り合いの馬車でもあるとか?」

「ははは、ダンジョンがあるのは――、この王都の中さ」

「えっ、この王都の中にあるんですか!?」

「うんうん、いい反応するねぇ」


 おばちゃんは俺の反応を見て、満足するように満面の笑みを浮かべる。


 以前読んだラノベとかにありがちな設定だけど、まさか本当にそんな環境があるなんて思っても見なかった。


 ……本当にこういうことを聞くと、あの世界とは違う異世界ファンタジーなんだなあと納得させられてしまう。


 ダンジョンかあ。もし機会があればだけど、一回くらいはダンジョンってやつに潜ってみても良いかもしれないな。


 もちろん今は、ダンジョンに潜るよりも騎士団で鍛えてもらうことのほうが大事だから、しばらくはそんな機会はないだろうとは思う。


 とか言っていたら、異世界らしく騎士団の訓練メニューにダンジョン探索があったりしてな。


 ――おばちゃんと話し終えてから、軽くお礼を伝えて改めてランニングを始めることにした。


 せっかく貴重な情報をくれたので、おばちゃんの露天で何かを買おうと思ったりしたけど、ランニングに出るにあたって財布を持ってきていなかったことを思い出してそそくさとその場を離れたのはご愛嬌。


       ◇◇◇


 一通りの自主鍛錬を十分にこなせたので、少しだけ遅れた朝食を食べてから第三騎士団の敷地へと向かう。


「そういえば座学があるって言ってたのに筆記具とかいらないのかな? 特に何かを持ってくるようには言われなかったけど……。まあ、今考えても答えなんて出ないか」


 ノートや鉛筆があるわけじゃないから、きっとノートや鉛筆の価値とかも違ってくるだろうしね。


 そんなとりとめのない独り言をつぶやきながら敷地を目指して歩いて居ると、あっという間に目的地へと到着することができた。


「あっ、おはようございます!」

「君は誰――ああ、そうか。今日から騎士見習いとして一人入団するって聞いてたけど、君のことかい?」

「はい、それであっていると思います」

「そうか、しっかり頑張れよ」

「はい!」


 激励の言葉に嬉しくなってしまい、ついつい何度も頭を下げてしまった。


「あれ、時間より早めに来るなんて偉いわね」

「おはようございます」


 敷地に入ってすぐに声をかけてきたのは、昨日の面談の際に同席していた秘書さんだった。


 ……昨日は緊張してて気が付かなかってけど、こうやって陽の下で見ると結構若い人なんだな。って、ジロジロ見るのは失礼か。


「シン・ハール騎士団長付きの秘書、グレイスです」

「ライトです」


 ……昨日の男性は騎士団長だったのか。騎士団長ってもっと厳つい見た目の人だと思ってたよ。


「団長よりライト騎士見習いの案内をするように言われています」

「はい、なにぶん若輩者ですがよろしくご指導おねがいします」

「……」


 グレイスさんはなぜか驚いたような顔をしてこちらを見た。


「えっと、顔になにかついてますか?」

「いえ、思っていたよりも言葉遣いが落ち着いているのですね」

「ああ、村に居たときもたまに言われてました」


 身体につられて気持ちも若返った気がするけど、言葉遣いはそうそう変わるものじゃあない。どうせそのうち身体が追いつくだろうからあまり気にしないようにはしている。


 グレイスさんに案内されながら敷地内を歩き始めると、俺のことが珍しいと感じたのか多くの視線がこちらへと向けられた。


「まずは服を着替えてもらったほうが良いわね。私についてきなさい」

「はい」


 最初に案内されたのはそこそこの大きさの更衣室だった。掃除が行き届いていないのか少し汚れが目立って見える。というより臭い。


 中では数人の男性が着替えていたが、グレイスさんはそれを無視するように部屋の説明を始めた。


 グレイスさんが言うには、正式に団員になればもう綺麗な更衣室が使えるようになるみたいだった。その更衣室を綺麗にするのは従士や見習いの仕事だってさ。まあ、仕方がないね。


 見習いの制服に着替えると、改めてグレイスさんによる施設の案内が再開された。


 訓練場や集団練兵場、休憩室に医務室などなど。案内された施設はどれも村では見たこともないような立派なものばかりだった。


 さすがは王都の騎士団、それも伝統のある第三騎士団なだけはある。


 うん、今日からここで訓練するんだなあ。ちょっと楽しみになってきた。


 ――ひと通りの施設を案内してもらった後は、最後に団長室へと案内された。


「来たか、入れ」


 グレイスさんがドアをノックすると、中から昨日の男性の声が聞こえてきた。


「失礼します」

「失礼します」


 部屋に入ると、部屋の正面奥に設置されている上等な机の向こう側でこちらを向いて立っていた。


「シン団長、施設の案内を終えました」

「そうか、ではここから先は私も同行しよう」


 なんと、騎士団長自ら案内してくれるみたいだ。団長ともなると有事以外はもしかして暇だたりするのか?


 そんな俺の考えが伝わったのか、団長が低い声で小さく笑う。


「なに、今から行くのは特殊訓練場だ。今日は君の実力を見せてもらおうと思ってな」

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