第14話 特殊訓練場
「特殊――訓練場ですか?」
さすがは王都の第三騎士団だ。早速、聞き慣れない単語が飛び出してきた。
団長が胸を張って自慢げに言うくらいだし特殊って名が付いているくらいだから、普通の訓練場とは一線を画するような何かがあるんだろう。
現にグレイスさんは少し驚いたような表情を見せている。
「先程、グレイスさんに案内していただいた中には、その施設は無かったと記憶しています」
「当然だ。本来ならば、正式に騎士団員として認められた者しか利用することはできないからな。今回だけは特別だ」
「シン団長、よろしいのですか?」
「無論だ。団長である私が決めたのだ。よろしいもなにもないだろう」
団長は何も問題ないように言うけど、今の問いかけを聞く限りグレイスさん的には反対らしい。
確かに、正式な騎士団員でなければ利用できないということであれば、俺のような見習いでは当然だけど利用する資格はないからなあ。
でも、そういうことなら俺の出す答えは当然決まっている。
「ぜひ、お願いします。俺も自分の力を試してみたいです!」
「うむ、そうこなくてはな」
団長が満足げに小さく笑う。
せっかく、【特殊】と名の付く訓練場を利用させてくれるというのだから、俺としても断る理由があるわけもなし。心配しているグレイスさんには悪いけど……。
「では、早速向かうとしよう。グレイスくん、案内を頼む」
「……はい、かしこまりました。それではこちらへどうぞ」
そうは言いつつも、団長から頼まれたグレイスさんはさっきまでの表情を隠して回れ右をして歩き始めた。
◇◇◇
先導されて向かった先は、さっき案内された訓練場だった。……あれ?
そうやって少しの間、口をぽかんと開けてぼうっとしていたのだけど、団長はそれを目ざとく見つけるとまた嬉しそうに笑みを浮かべた。
……なんかこんなやり取りばかりなのが少しだけ悔しい。
「心配するな。特殊訓練場はここの地下にある」
「地下、ですか?」
「ああ、地下だ。まあ、田舎者が驚くのも無理はない。地下に大きな訓練場があるなど見たことはおろか想像したこともないだろう」
うん、そうだね。
この世界に転生してからこれまで、そういったものに縁がなかったからなあ。
前世には地下街とかいっぱいあったし、地下くらいなら古代ローマあたりにはもうあったと思うけど、今日案内してもらった間も確かに想像はしていなかった。
「地下にあるから【特殊】なのでしょうか?」
「いや、特殊なのは訓練場の施設そのものだよ。まあ実際に見てみるのが一番早い」
「たしかにそうですね。なんだかもっと楽しみになってきました」
そうして施設内の階段を三階分ほど降りた先は通路となっていて、その通路を更に進んだ先に特殊訓練場の入り口があった。
「……すごく大きい扉、ですね。巨人でも住んでいたんでしょうか?」
自然とつぶやきが漏れてしまう。
でも、それも仕方がないと思う。この階に降りたときから感じてはいたけど、通路から扉からとすべてが大きいんだ。
これまで王都で見たどの建築物とも異なる作りといえば良いのか、一番に思いついたのが巨人の存在だった。
「うむ、良い発想だ。確かに一説ではそのように言われてもいる。だがまあ、そこはどうでも良い。大事なのは、ここが第三騎士団専用の特殊訓練場だということだ!」
……あ、いいんだ。いや、良くないでしょ!?
「ここはかの英雄ニストレムが神の啓示を受け、この王都の地下で発見した施設となります。これは第三騎士団のみに代々秘匿されて今日まで伝わっています」
「つまり王家も知りえない場所ということだよ」
ああ、さっきグレイスさんが心配していたのはそういうことか。
「一つ、いいですか?」
「なんだ?」
「……こんな重要な施設を俺に見せてしまってよかったんですか?」
王家にも秘匿しているようなとんでもない施設を目の前で自慢されても困る。
もし俺が王家に告発したらどうするつもりなんだろうか? というより、これまで団員の誰かが告発することはなかったのか?
その疑問に反応したのはグレイスさんだった。
「この施設は第三騎士団において正式に団員となったもののみが立ち入ることを許されています。それは何故だと思いますか?」
「すみません、わかりません」
「……入団の際に誓約書を作成するからですよ」
「でも、誓約書を書いたからって皆が約束を守るとは限りませんよね?」
「誓約書に定めた内容は神に誓ったということです。誰にも破ることはできませんよ」
なにそれ怖い。
ファンタジーな世界だから、確かにそれくらいのものはあってもおかしくはないけど、実際に話しに聞くと格別だなあ。
って、でも俺は誓約書なんて書いてないよね?
「もちろん、あなたもこの場所を見た以上は誓約書を書いていただくことになります」
「えっと、それを断ったりしたら?」
努めて笑顔で問いかける。
しかし、それを見たグレイスさんもまた素敵な笑顔で口を開いた。
「長い時間を掛けてゆっくりとOHANASHIさせていただくことになりますよ」
「デスヨネー」
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