わたしの人生の最初で最後の3分間 ~カクヨム三周年企画「KAC6」参加作品~

澤松那函(なはこ)

わたしの人生の最初で最後の3分間

 光が一筋も届かない闇の中。

 わたしは、今日という日を待ち続ける事を生まれたその日から運命付けられていた。


 今日は、きっとわたしの番だ。

 他の子たちは、もうみんなあいつに連れて行かれてしまった。

 みんなの服が破れる音がここまで聞こえてきて、あの男の愉悦の声と水音が耳こびり付いている。

 この日のために、あの男はわたしを買った。


 お父さん。わたしは、あんな男のモノになるために生まれたの?

 お母さん。どうしてわたしは、こういう生き方しか出来ないの?


 足音が近付いてくる。

 ああ、あいつだ。あいつがきた。

 あいつの欲望を満たすためだけに、わたしの身体は使われる。

 

 扉が開き、光がわたしの目を痛め付けた。

 数ヶ月ぶりに見る光。

 そしてわたしが最後に見る光。


 男は、慣れた手つきでわたしの服を剥ぎ取った。

 鼻歌混じりに、ご機嫌に、露わになったわたしの秘所を見つめている。

 よだれを垂らし、舌を舐めずり、いやらしい笑みを張り付けていた。


「やめて!」


 わたしの懇願を男はせせら笑った。


「おねがい……おねがいだから」


 わたしの声は、きっと男には届いていない。

 何を言ってもわたしの運命は変わらない。

 わたしは、この男の欲を満たすためだけに生まれたのだから――。


「だったら私は屈しない! もうあんたなんかに助けてなんて言わない!!」


 精一杯の強がりを口にしたわたしを、男は酷くうっとうしそうに睨んだ。

 男は、何も言わずまるで機械的な作業であるかのように――。


「ぐぅ!!」


 わたしの中に、おびただしい熱が侵入してくる。

 びしゃびしゃと艶めかしい水音がわたしの鼓膜を支配した。


「あぁ!!」


 からだの中を灼熱が暴れ回り、犯していく。

 だけど、やめてなんて言わない。

 助けてなんて言わない。

 この男に、懇願する事だけはしないと決めたのだから。


「まだ足りないか?」


 男は、うんざりとした顔をして私を見下している。


「もう少し……か」


 さらに熱いものが、わたしの中に流れ込んでくる。


「うぅ……あぁ!!」


「まだか? 随分と入るな。こいつ」


 男に遠慮はない。

 わたしの中がもうすぐいっぱいになってしまいそうだというのに、尚も男は注ぎ続ける。


「や、やめ――」


 ――絶対言わない。


 自分に誓ったんだ。

 わたしは屈しない!

 絶対こんな男に屈するものか!!


 そんなわたしの覚悟を嘲笑うように。わたしの中で熱が暴れ続けている。

 お腹の中が熱くて頭がおかしなっちゃう。

 こんな感覚があと三分も続くなんて、わたし耐えられないよ!!


「ダメ!! もうダメェ!! アッツいのダメェェェ!!」


「美咲さん。カップめん作ってるだけなんで、変なナレーションつけんのやめてくんない?」


 その男、ケンジくんは、やかんを片手にくちびるを尖らせている。

 折角盛り上げてやろうと思ったのに興の分からない彼氏様だこと。


「えー別にいいじゃん。盛り上がるかと思って」


「盛り上がらないよ。食欲失せてきたし」


「カップめんの気持ちを噛み締めながら食べるがよい!! あ、そうだ」


「なに?」


「一口ちょうだい」


「はいよ」


 そう言いながらケンジくんは、出来上がったしょうゆ味のカップめんと割り箸を手渡そうとしてくる。

 違うだろ?

 ここはあーんだろ?

 言わんと分からんのか?

 うぶな奴め。


「ケンジくん。あーん」


 やばい自分からやると、ちょいと恥ずかしい。


「あーんって。美咲さんさ……」


 まぁ向こうも同じみたいで顔を真っ赤にして箸でつまんだ面を私の口元に運んでくれる。


「はい。あーん」


「あー今わたしは、この女の欲望を満たすためだけにー」


「それやめろ」


「ユーモアのない男だな」


「悪かった」


「そういう所も好きだけど」


「うるさいな」


「赤くなっちゃって可愛いやつめ」


 なんてやり取りをしながら私は、無垢なるカップめんの初めてをちょうだいしたのだった。

 カップめんは、やっぱりしょうゆだね。

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