01 タルトとマリア
木々に覆われたにぎやかな町並みに、一つ佇むその酒場。
シックな色合いの外装に惹かれてやってくるのは人でないモノたち。
そんな彼らを相手する店主、タルトもまた人ではなかった。
さて、今日この日の天候は、全く雲ひとつもない晴天である。
散歩をするにはもってこいの気候だなあとこの町に住まうモノたちは思うことだろう。
無論、闇に住まうモノたちに太陽なんてものは毒にしかならないので、夜中になってもこの天気が続くことを祈るばかりであるのだが。
日の光が差し込む店を、まぶしそうに目を細めて店主は見ていた。
その手にはモップが握られている。
いくら客足がなかろうと、店内の清掃はせねばいけないものだった。
言葉を交わす相手もいないので店主は黙々と清掃を続ける。
どれくらいそうしていたろうか、扉が開きドアベルがからんころんと音を立てたことにより店主は手を止める。
「お帰りなさい、マリア。」
扉を開いたのは小さな小さな女の子。
大きな空と同じ色の瞳に太陽のような色の髪。
マリアと呼ばれたその少女はタルトにほんの少し目を細めた。
「ただいま、お兄ちゃん」
お兄ちゃん、と呼ばれると片眉を跳ね上げるも、何も言わずにタルトはマリアに近づくと店の裏を指差した。
マリアがそちらに目を向ける。
何が言いたいのか理解しているだろうが、と言うようにタルトは目を閉じながら自分の腰に手を当てた。
「お腹が空いたでしょう、手を洗っていらっしゃい。」
ぱっとマリアの瞳が輝いた……気がした。
ぱたぱたと軽やかに足を進めてマリアは店の裏へと回っていく。
それを見送り、店主は一旦掃除の手を止めて、用具を片付けようとモップを持ち上げた。
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