第24話 旦那様にもちょっと本性をばらす
エレンは双方向通話できる魔法を放った。エルハルト兄様もグレンも使えない、高度な魔法だ。しばらくして、エルハルトと繋がった。
「リリーは大丈夫?」
「第一声それかよ。すっかり馴染んで、今、夕飯作ってくれてるわ」
「そう。良かったわ」
「本題だ。王宮はグレイシスで権力闘争に敗れた貴族達が占領したのに間違いないな。王家は全員安否不明で、生き残りは侵入者達の世話をさせられているようだ。騎士団は無効化されているんだが、何かよくわからん結界の中に騎士団ごとに閉じ込められていたってさ」
「結界…。第一騎士団も?」
「そうだ。カリーナかエレンなら何とかできそうだけど、他じゃ無理そうだって」
「あ、待って。カリーナから鳥が来たわ」
カリーナからは双方向通信の魔法が来た。
「ちょうどいいわね。皆で話せる」
「エレンに頼まれていた、奥様とお子さんは保護できたわよ~」
カリーナがおっとりと言う。
「ありがとう、カリーナ」
「あら、エリオットも頑張ったから、後で誉めてあげて?」
緊張感のない会話が続く。
「そうそう、さっき南から大きな商隊がそちらへ向かって出発したわ。王宮の紹介状を持って、荷物もフリーパスよ。大きすぎる荷物だわ。ドラゴンも入っちゃうくらいにね。一部先行してるから、そっちがエレンの所に行くんじゃないかってエリオットが」
「荷物はいくつあったの?」
「五つあったわよ~。あら、私達も準備できたみたいだし、後で会いましょう~。あ、グレン、可愛いエレンに傷一つでもつけたら、許さないんだから~」
カリーナからの魔法が切れた。
グレンが怯えた顔でエレンを見ている。カリーナは怒ったらとっても怖いのだ。北の狼に嫁に来たのに、一番怖い。北の狼最強の嫁だ。全員が身をもって知っている。
「グレン、頑張れよ…」
エルハルトの応援も、グレンの心には響かなかったようだ。
カリーナからの情報でハミルトン邸への襲撃は、早くとも明日になりそうだ。エルハルトと少し話をして、魔法を切った。
グレンが怯えた表情で部屋に戻ったので、クリシュナをはじめとした第四騎士団の面々は 、とても悪い報せが入ったのだと身構えた。
「大規模な襲撃があるとすれば、明日になりそうです。外の警備は他の騎士団に任せて、私達は早く寝てしまいましょう」
「北の狼って、本当に凄いんですね…」
騎士の一人が呟いた。その声にクリシュナ姫がにっこりと微笑んだ。
「頼って良かったでしょう?」
そこへ、会議を終えた騎士達が現れた。随分長かったが、情報もないのに何をそんなに話し合っていたのか。入室と同時にオズワルドがエレンの腕を掴んで部屋の外へ引っ張り出した。
グレンもちょうどいいと思ったのか、ワゴンを押して出てきた。そのまま皿を洗いに行くようで、料理好きの騎士も出てきた。また手伝ってくれるのだろう。
「フランツがまだ戻ってきていない。どこに行ったんだ」
オズワルドが声を潜めて聞いてきた。
「フランツは他の従者と一緒に、旦那様の領地へ避難しました。ここには戻りません」
「どういうこと?」
オズワルドは途端に険しい顔になった。甘ったるい笑顔より、この表情の方が好ましいとエレンは思った。
「ここは戦場になると判断しましたので、私とグレン以外は全員避難させました。あぁ、リリーの侍女だけは解雇しましたけれど」
「リリーは!?」
「リリーは私の指示で王都にあるお屋敷に」
「何故王都から避難させてくれなかったんだ!!」
オズワルドがエレンに掴みかかった。勘弁して欲しい。
「その方が安全と判断したからです。護衛の数に限りもありましたし、単身で遠方へ逃げるより安全です」
あれだけ金目の物を持って長旅するなど、盗賊に狙ってくれと言っているようなものだ。愛人と同じ立場では、ハミルトン領にも行けない。そういう立場にリリーを置いていたのはオズワルドだ。エレンは冷徹な表情でオズワルドの手を引き剥がした。
「事前に想定できなかった、ご自身の落ち度でしょう」
オズワルドがわなわなと震えだした。もし、エレンがリリーを邪魔物だと認識していたら、とありもしない妄想をしているように見える。失礼な。
「屋敷には兄のエルハルトがいます。情報もいち早く入りますし、もしもの時に逃げ遅れることもないでしょう。後で全て請求しますから」
オズワルドが顔を上げた。少しだけ表情に変化がある。何を思っているのかはわからないが。
「エルハルト様がいるのか」
エレンが頷いた。
「何故エレンは残ったんだ、フランツと一緒に領地へ行っておけば良かったものを!」
今度は少し強い程度でエレンの肩を揺さぶった。オズワルドの表情は、人の心配をしている表情だ。エレンはオズワルドが自分の心配をするとは思っていなかったので、心底驚いた。
「うーん、そうですね。話しておきます。クリシュナ姫と第四騎士団の方たちはご存知ですが、今回ソールズベリーと私、グレンにはアドルフ様より仕事の依頼が来ています。旦那様と結婚していなくても、私達は王都へ来ていたでしょうね」
「先代国王…」
「ええ。私達のお得意様です。それと、騎士団に敵方の間者が混ざっています。背中に気を付けて下さいね。旦那様は違いますよね?」
「当たり前だ!!」
オズワルドが怒鳴った。時間が足りなかった為、全騎士団員の情報は洗いきれなかったので、判明していない間者がまだいる可能性が高い。
「おい、どうしたんだ」
隊長が心配したように部屋から顔を出した。オズワルドが大きな声を出したので、部屋の中にまで聞こえたのだろう。エレンに気が付いて、にっこりと挨拶をしてくれた。
「私は第七騎士隊長、ロバートと申します」
「エレンです」オズワルドが怒りのままに紹介した。
「何をカッカしているんだ。落ち着け。これからだぞ」
優しい顔でオズワルドを見たが、オズワルドは目線を合わせない。間者の可能性が浮かんでいるのかもしれないと思い、エレンはオズワルドを屈ませて囁いた。
「彼はおそらく白です」
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