第21話 動き出す
あれから数日、リリーは考えていた。思っていたのとは違う、エレンとの出会いは敢えて考えることを止めていた事柄を考えなければいけない状態に追い込んだ。
今、二人は愛し合っているとはいえ、結婚もできず、妻を迎えている状態。自分はただ、囲われている愛人に過ぎない。
以前オズワルドがリリーを社交界デビューさせようとして、小さなお茶会に呼んでもらったことがある。居酒屋でも会っていた隊長の奥様。
とても優しい方だったが、とてもじゃないが自分には無理だと思ってしまった。上流階級に馴染む為の下地が自分には何一つなかった。
社交界に出ることを拒んでも、オズワルドは変わらず優しかった。自分が上手にやれていれば、あの優しい隊長の奥様にお願いすれば、違う現在になっていたかもしれない。しかし、後悔してももう遅い。
今の状態は、オズワルドに頼りきったもの。オズワルドに何かあれば、何もなくても愛が冷めれば、自分は屋敷から放り出される。
お金はもらえるかもしれないが、何も持っていない自分のままで…。
***
グレンが帰ってきて、エレンの日常が戻った。南にあるグレイシス国が動き出しそうな情報をお兄様が掴んだので、グレンは一足早く戻ってきた。真偽は突き止められなかったが、グレイシスにいないはずのドラゴンがいると思われる噂がたっている地域があった。
用心するべきだとして、それに対応できる人間をできる限りソールズベリーから呼び出し、王都周辺を中心に集結しつつある。集まってきた情報で、既に対策は練られている。後はいかに早く準備を完了させるかの時間勝負となった。
いくら最近領地の経済状況が落ち着きつつあったとはいえ、ソールズベリー領がついに破産するのではないかとエレンは心配になった。旅費に宿代が経費として嵩むはずだし、給金も支払わなければならない。
今回の件は、前国王アドルフ様のポケットマネーに支援されているからお父様は大丈夫だと言っていたけれど、いくら前国王と言っても、ここまでの規模は予測していなかっただろうし、ポケットマネーにも限度がある。
これからどうすればいいのか、お金の心配がつきまとって仕方がない。何かが起これば、どうとでもお金を引っ張れるだろうが、何も起きなかった時が怖い。エレンは複雑な気持ちで日々を過ごした。
アレクシス王子も関係していて、騎士団に間者が混じっている以上、表だって騎士団が使えない。情報も共有されていないようで、騎士団所属のオズワルドにも、他の騎士団にも特に動きはなかったが、王宮内でアレクシス王子派とクリシュナ姫派の権力闘争が激化しているらしく、最近オズワルドがピリピリしているという情報をリリーから仕入れた。
リリーとはあれから気軽にやり取りをしている。国王はまだ引退するような年でもないし、健康だ。何をそんなに。と旦那様は愚痴っていたそうだが、考え方が甘すぎる。
そしてある日、ハミルトン邸に早馬がやってきて、予測していた事態が動き出した。使者は王宮内に突然複数の侵入者が現れ、騎士団が応戦、王族の安否不明、唯一助け出したクリシュナ姫を連れて第四騎士団と第七騎士団がハミルトン邸へ来るというものだった。
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