第20話 修羅場・・・?

 エレンはすぐにリラックスした様子で姿勢を崩した。

「楽にしてちょうだい。ミリムは口が堅いから、何を言っても大丈夫だから」

「そんな言葉に、安心するわけないでしょう?」


「そうね。でも、私は言うわよ。まず、とっても感謝しているわ。ありがとう」

「「はっ!?」」

 リリーとミリムがハモった。


「ミリム、邪魔をするなら追い出すわよ」

 ミリムが慌ててこくこくと頷いた。

「何言ってるの?馬鹿なの?」リリーが聞く。


「本心よ。旦那様から何も聞いていないの?」

 リリーは傷ついた表情になった。

「オズワルドはあなたのことは何も話さないわ。お飾りだから気にするな、心配することは何もないとしか」


「私は旦那様のお金が目当てで結婚したの。貴方がいてくれたおかげで、かなり有利な条件でね。そもそも、今日で会ったのはえーと、五回目かな? だから、話せることもないんじゃないかな」

「五回!?」

「そうよ。お互い興味もないし」

 平然と話すエレンに、リリーはとても驚いていた。


 その時、フクロウが現れて、窓をコツコツ叩いた。

「ちょっと失礼するわね」

 エレンが窓を開けて、フクロウを室内にいれてメッセージを聞くと、それを見ていたリリーが懐かしい顔をした。

「どうしたの?」

「昔を思い出したのよ。よくお父様とソールズベリーへ行っていたから」

「そうなの?私、ソールズベリーから来たのよ」

「そうなの!?」


 リリーの父親は商人で、好んでソールズベリーの護衛を雇って行商を行っていたそうで、頻繁に出入りし、ソールズベリーと取引もしていた。懇意にしていた護衛はエレンも知っている人物で、そこから二人の話は盛り上がった。

 リリーは早くに母親を亡くし、父親は幼いリリーを連れて行商を続けた。腰を痛めていたことと、リリーが年頃の娘に成長をしたことを機に、引退して王都で居酒屋を開店、その父親も三年前に他界したこと。リリーは懐かしむように身の上話をした。


「リリー、あなたとは必要以上に関わらないつもりだったけれど、、ソールズベリーが苦しいときに助けてくれたあなたのお父様のことを考えると、それはできなくなったわ」

 エレンの言葉でリリーが硬い表情に戻った。

「これから、どうするつもり?」

 エレンの問いに、リリーは押し黙ってしまった。部屋が沈黙に包まれた。


 ミリムが空になった紅茶を入れ直そうと、お湯を取りに下がって、直ぐに戻ってきた。

「奥様、大変です!騎士団の方がお帰りになるようです。正面玄関は、もう騎士の方達でいっぱいです…!」

「そう。少し話をしすぎたわね。リリー、送っていくわ」

「裏口でお待ち下さい。すぐに誰か呼んで参ります」

 出て行こうとしたミリムを、エレンが制止した。


「必要ないわ」

 エレンは笑顔で窓を開けて、リリーの手を取った。窓の前まで連れて行くと、エレンが窓から飛び降りた。

「「!!!!」」

 咄嗟にリリーはエレンの手を強く握った。

「大丈夫よ、土の魔法と風の魔法を合わせて使うと、こういうこともできるの。このまま別邸へひとっ飛び。さぁ、リリーも」

 リリーは驚愕しながらも窓から出て、エレンに体を預けた。ミリムは、あっけにとられたまま二人を見送ることになった。


「リリーとの接触は禁止されているから、今日のことは全部内緒ね」

 リリーはエレンにしがみついて、落ち着いた顔のエレンを見ることで、何とか落ち着こうと試みるが、驚きと恐怖で声も出ない。

「夜は野犬がいるから、一人で出歩いては駄目よ」

「さっき言った、今後のこと、考えておいてね」

 リリーは地面に下りるとようやく頷いた。


「あ、それとこれは私への連絡用に」

 エレンが可愛らしい小鳥を出すと、リリーは微笑んでお礼を言い、若干おぼつかない足取りで別邸へ戻っていった。

 エレンは無事にオズワルドに見つかることなく部屋へ戻った。部屋に戻ると、興奮したミリムが私も!!ぜひ!!!と言い出して厄介だったのは言うまでもない。

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