第17話 ありえない!!
クリシュナ主催のパーティから、エレンとグレンは忙しくなった。騎士団の誰が間者となっているかを探るために、ハミルトン邸をほとんど空けることになった。
騎士団は第一騎士団から第十騎士団まであり、第一騎士団から第三騎士団までが精鋭とされ、第一は国王、第二は王太子、第三は王子の近衛騎士団として活動する。残念ながら第二騎士団はアレクシス王子を、第三は王弟を警護している。
クリシュナは通常であれば王位を継ぐことは無いので、第四騎士団が任務にあたっているのだが、先代国王とバリー、クリシュナに選抜された精鋭とのこと。第一から第四までは身元はしっかりしているし、忠誠心や財務状況なども確認されている。その資料を元に再調査する。
ハミルトン邸近くに住まいがある人物はエレンが担当し、他はグレン達が分担することになった。その為、一週間ほどグレンは屋敷に帰って来ることができていない。
「グレンがいないと寂しいですか?」
朝食の時に、急にフランツが尋ねてきた。
「まさか!」とエレンは笑い飛ばした。フランツは不審そうな顔をしている。信じてないな。姉離れ、弟離れはとっくに完了している。
今日も身辺調査にあたる。護身用の剣も隠し持っているし、散々グレンと散策した町は既に顔見知りばかりだ。一人で行動していても、危ないことなどなかった。ハミルトンの従者達にも信頼されているはずなのだが、今日もフランツがこそこそついてきている。
振り返って来た道を小走りに戻ると、慌ててフランツが物陰に隠れた。丸見えです。北の狼相手では、お粗末すぎる。なので、あっさり捕獲しました。
「奥様…」フランツがショボくれている。
「毎日ついてくるんだから、もういっそ一緒に行動しようかなと思って」
強引にフランツの腕を取る。
「外では、庭師に勉強させてもらってる下働きで、エレンってことになってるから」
「存じ上げております」
「でしょうね!口調はむしろそっちが偉そうに!呼び捨てで!!」
「かしこまりました…」
「はい、ダメ!!」
「すみません…」
思っていた以上にフランツは役に立った。こちらが質問しなくても、勝手に皆が他家のゴシップやら何やらを垂れ流すのである。
そして最後に、ハミルトンはどうなの?結婚したっていうのに奥様は見ないし、ハミルトン卿は別の女性と買い物に来るけれど、どうなってるの?など。ハミルトンの従者は口が固く、情報が漏れないので、何かを聞き出そうとされていたのだ。
「フランツ様は奥様方にとても人気があるのですね」
昼食を取りながら聞いてみる。
「…そんなことはないですよ。皆、私が口を滑らすのを待っているのではないかと。油断できません」
結局、フランツにはやや砕けた口調が限界だったようだ。誰に対してもこんな感じで親切。人気だと思う。
「お昼からはあちらの道を通って戻りたいのですが」
「ええ。わかりました」
来た道とは違う、裏通りを歩いていく。
「ところで、エレンは何をしているのですか?」
小声で耳打ちしてきた。同じ様に耳打ちするために、フランツに屈んでもらう。
「今は内緒!」
満面の笑顔で答える私に、フランツは渋い顔をした。
その時、緊急連絡用に屋敷へ置いてきた魔法が発動して、自分に向かってくる気配がした。
「あ、フランツ様、あちらに」
などと言いつつ死角にフランツを連れ込んだ。
「どうしたのです?」
「カラスが来るわ」
言って程なく、一羽のカラスが現れて、エレンの肩に留まって話し出した。
「奥様、フランツ、大変です!旦那様が第一騎士団の方を本日自宅にお招きになるそうです!至急お戻り下さい!」
マーサの声がカラスから聞こえて、フランツと私は顔を見合わせた。
「急いで戻りましょう」
「ええ、ありえないわ!!」
走って戻ることにした。フランツは私の心配をしていたが、本気で鍛えている私の方が体力があると思う。屋敷の周辺まで戻ってきたが、閑静な住宅街で走るのは目立つので、歩き出した。
「ねぇ、フランツ気付いてる?」
フランツは呼吸を落ち着かせるのに必死だ。
「これからは体を鍛えよう、と、思います。エレンは息が乱れていません」
「そうじゃなくて。テンパったマーサが、フランツって言ってた。一応内緒でついてきてたのにね?」
今日、一番悪い笑顔で言った。
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