第16話
帰りの馬車でエレンは相変わらず話をする気は無いようで、ずっと車窓を見ていた。暗くて何も見えないだろうにと思っていたが、そこから視線が動くことは無かった。オズワルドは気になっていたことを聞いた。
「エレンはダンスが踊れるんですね」ちょっと嫌みな笑顔が張り付いた。
「踊れませんわ。あれはエルハルト兄様とだからこそ成り立つものですから」
「どういう意味かな?」
「いつステップを踏むのか、全て教えて頂きながら踊っているのです」
「どういうこと?」
「そのままですわ」
エレンはそれ以上話す気が無いようで、口を閉ざしてしまった。そして、会話の間も、馬車を降りてからもこちらを見ることはなかった。
本邸でいつもの様にフランツと話をする。
「エレンは、とても優雅に踊っていたよ」
フランツが愕然とした表情をする。フランツも知らなかったようだ。嫌がらせをされたわけではなさそうだ。
「そう、でございますか…」
「後で別邸に氷を届けてくれ」
オズワルドは別邸へ帰っていった。
エレンは堅苦しいドレスを脱いで、湯浴みをし、ミリムに淹れてもらった紅茶で一息ついているところだった。フランツが会いたいという。こんな時間に珍しい。
「このような時間に申し訳ございません」
「どうかしたの?」
「あの…、旦那様と踊られたとお伺いしまして…」
「ああ、あれ絶対に嫌がらせよね。遠慮無く足を踏みまくったわ!!」
「優雅に踊られたとおっしゃっていましたが…」
「嫌みじゃ無いの、それ。たぶん今頃、足が腫れてると思うわよ」
フランツは思い当たることがあったのか、納得顔で退室していった。ミリムも下がらせて、エレンが紅茶を追加で入れると、当たり前のようにその紅茶を受け取り、グレンが寛いだ様子で味わっている。
「それで、どうだったの?」グレンが尋ねた。
「まずいことになっているわね。王宮内の詳細な情報がもらえたわ。今、皆で会議中だと思う」
「これから忙しくなりそうだね」
「そうね。まず、先代国王が、次期国王に推しているのがクリシュナ姫だというのは、噂ではなく事実だったわ。最初は国王様も、王弟殿下も納得されていたのだけれど、アレクシス王子が誰かに唆されてその気になっちゃってる様ね。これは不確定情報だけれど、宰相が関係している可能性が高いって」
「だとすると、宰相の裏にグレイシス国があるのかな」
「そこがわからないそうよ。宰相とグレイシス国が別々に動いている可能性も捨てきれないのだって」
「南の虎、だったっけ?何やってるんだろ。グレイシスの担当は南じゃないか」
「あそこはソールズベリーよりずっと早く平和になったし、気候が温暖だから、今は普通の領地になっているみたい。当てにはできないし、しない方がいいって」
「北の狼だけで対応って…」
「問題はまだあるわ。騎士団に間者がいる。しかも、複数」
「どれくらいの人数?」
「それを私たちが調べることになったのよ。第一騎士団から順にね」
ちょうど、カリーナからフクロウの形をした風魔法が届いた。
「役割分担が決まったようね」
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