第15話 エルハルト兄様の嫌がらせ

 エレン達はひっそりと会場に戻ってきたが、目ざとく見つけたオズワルドに連れられて、ウルヴァー卿とレスター卿に紹介されることになった。ご家族全員でと言われたので、仕方無く協力することにした。しかし、エレン以外は全員面識があったようで、結局エレンだけがきちんと自己紹介することになった。


「妻のエレンです」

 きっちりとした貴族の挨拶を返す。ウルヴァー卿は興味津々といった様子で、キラキラと目を輝かせている。

「これは、いや、美しいな!」

 面と向かってそんなことを言われたことが無かったエレンは、不覚にも動揺した。

「気にしないで下さい。何でも思ったことを口にしてしまう質ですので」

 レスター卿のフォローが、フォローになっていないので、余計に動揺した。エルハルト兄様が、間違いなく肩を震わせて笑いを噛み殺している。


「あ、ありがとう、ございます…」

 何とか返事をして会話を続けた。話の矛先がエルハルト兄様に向きそうになった途端、エルハルト兄様が恭しくエレンに手を差し出した。


「愛しい我が妹よ、名誉挽回にそろそろ踊りに行きませんか?」

 居たたまれなかったので、迷わずその手を取った。

「喜んで」


 残念そうなウルヴァー卿と冷めた顔のレスター卿を置き去りにして、二人でホールへ踏み出した。その姿だけで、ざわめきが起こる。エルハルトが踊るところを見たことがある人は、極僅かしかいないので、相手の女性が誰なのか噂している。


「まるで見世物ね」エレンが呟く。

「うんざりだろ」エルハルトが微笑みながら返した。

「さて、妹がちゃんと踊れるところを見てもらおうか」

「お兄様次第ね」


 曲に合わせてエルハルトがリードする…だけでは、リズム感が壊滅的なエレンは踊れない。エルハルトは主に腕や指の力の入れ具合や目線で、ステップのタイミングを指示していた。それに合わせて、指示された通りのタイミングでステップを踏みだすのだ。

 曲など聞いていない。全神経をエルハルトに集中している。それが、素敵な二人に見えるようで、周囲からはため息がもれた。


 オズワルドは驚きのあまりグラスを落としそうになった。エレンが複雑なステップを華麗に踏んでいる。言われたように、嫌がらせをされたのだろうか。わからない。


 踊り終えるとエルハルトにはもちろん、エレンにまで次のパートナーを名乗り出るものが現れた。それほど二人は周囲の目を惹きつけた。最初の踊りのことも忘れているようで、失敗したなと思った。二人は丁重に断りながらも歩き続けて、クリシュナの元へと向かった。

 話しかけられたクリシュナが二人に応じたので、邪魔するわけにもいかず、人々が聞き耳を立てていると、クリシュナが二人を連れて歩き始めた。ついて行くわけにもいかず、遠巻きに見守るしかできなくなった。

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