第14話
オズワルドは飲み物を受け取り、何とか座りたいと思って適当な席を探していた。いたずら心など起こさずに、素直にフランツの言うことを聞いておけば良かったと後悔しているが、もう遅い。エレンにこれでもかと踏まれた足がズキズキと痛む。腫れそうだ。
「ハミルトン卿!」
急に呼び掛けてきた男は、第一騎士団隊長兼騎士団団長のウルヴァー卿だった。足を引きずってでも優先しなければならない相手だ。
「ウルヴァー卿、お久しぶりです」
「いつの間に北の狼と親交を持ったのだ?」
「?妻の実家です」
「何だと!?その手があったか!!」
オズワルドが意味がわからず曖昧な笑顔でいると、副隊長のレスター卿が補足してくれる。
「隊長はソールズベリーのエルハルト様が、お気に入りなのです」
変な意味ではない。ウルヴァー卿は強い人物が好きな、いわゆる脳筋タイプである。いつも自身と対等、もしくはそれ以上の猛者を求める変態タイプだ。私には理解できない。
「エルハルト様はそんなにお強いのですか?」
レスター卿に尋ねたつもりだったが、ウルヴァー卿が即座に答えた。かなりのお気に入りのようだ。
「強いもなにも!地方騎士の序列を知らないのか?」
「申し訳ございません」
「謝る必要などない!エルハルトは序列一位だ。しかも、登録した瞬間から、今までずっとな!!」
満面の笑顔で言われた。なるほど、ウルヴァー卿が執着するのもわかる。
「登録した時から、…ですか?」
そんなこと、ありうるのだろうか。
「そうだ、すごいだろう!この国随一のドラゴンスレイヤーだ!!」
「隊長の完全な片想いですけどね」レスター卿が冷めた顔で言うので、苦笑いしてしまった。大方、模擬戦を申し込んで断られ続けているのだろう。
「ぜひ!!紹介してくれ!!!」
肩を激しく叩かれた。これは紹介しないわけにはいかない。会場を見渡してみるが、彼らはまだ戻ってきていないようだ。
「今はご家族で話をされているので、戻りましたら声をかけさせて頂きます」
オズワルドはやっと席を確保して座ることができた。華やかなこの場所にリリーを連れてきてあげられたら、招待客全員に美しいリリーを自慢できたのにと思う。非常に残念だ。
「奥さんは?」
第七騎士団隊長が隣の椅子に腰掛けて話しかけてきた。彼は気さくな人物だが、第七騎士団隊長どまりの人物だと思う。戦闘能力や、統率力はあるが、出世に興味が無い。
「ご家族とお話中です」
「思い切り足を踏まれていたな。妻と笑わせてもらったよ」とにやりと笑う。
「ダンスが苦手なのです。無理に誘ったので、緊張もあったのでしょう」
「嫌がらせじゃないのか。貴殿は最低の男だものな」
彼はリリーとの出会いから、屋敷に連れて行った経緯まで全て知っている人物だ。そして、エレンとの結婚理由も。
「最低は認めますが、妻も了承の上です。嫌がらせをされる覚えはありませんね」
「最低なことはわかっていたんだな!妻にも言ってこよう」
隊長は陽気に立ち去っていった。彼は、奥さんと子どもたちをこよなく愛する愛妻家であり、良き父だ。出世に興味が無いのも、家族との時間が取れなくなるのが嫌だからという、何ともな人だ。
学び取るべきところはあるし、凄い人物だとも思うが、尊敬はしていない。オズワルドは、リリーのためにも誰にも文句を言えない立場にまで上り詰めたいと考えていたからだ。
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