第13話 北の狼勢揃い

 誰もいなくなると、お父様はすぐにオズワルドとの結婚生活を心配しだした。

「ちゃんと知らせは送っているでしょう?大丈夫だって言ってるじゃない」

「月に一度なんて、少なすぎる。グレンに頼んで週一で送ってもらっているが、グレンはほら、風魔法の細かい調整が苦手だろう?ほとんど聞き取れないんだ」


 ソールズベリーでは、紙がもったいないのでほとんどを風魔法のやり取りですます。少しの魔力で可能だが、長文を風に乗せて運ぶのは繊細な魔力操作が必要になる。

 届くのは手紙よりずっと早いので、平民でも魔法使いが多いソールズベリーでは、最も普及率の高い連絡手段となっている。


「グレンに変な仕事を増やさないで。心配しなくても、使用人とはとっても仲良くなったわ。何不自由なく、自由にさせてもらってる」

 いつまで続くのかわからない強制近況報告をしていると、先ほどとは違う従者が部屋へ来た。


「お待たせいたしました。こちらへ」

 彼は飲み物をテーブルへ置くと、壁にかかった美しいタペストリーをめくりあげて壁に手を押し当てると、通路が現れた。巧妙な土魔法が使われている。

 お父様達は初めからわかっていたようで、案内について行く。狭い通路では私のボリュームのあるスカートは歩きにくかった。

 さりげなく、エルハルト兄様が助けてくれる。通路の中は暗く、迷路のようになっている。更に、道順を覚えられないように惑わす魔法がかかっている気配を感じた。


 かなり歩いたところで、開けた廊下に出た。暗闇に目が慣れ始めていたので、とてもまぶしく感じたが、エレンにも目的地がわかってきた。

 王宮奥の更に奥まった部屋には、先代国王アドルフ様が病床に伏していて、もう、あまり長くはないだろうと噂されている。そこへ案内されたソールズベリーの面々は、何の迷いもなく全員が騎士の礼を取った。


「楽にしていい。公式の面会ではないのだから」

 ベッドに腰掛けたアドルフ様は顔色が悪く、たくましかった体もやせ細っている。

「このような場所で申し訳ない」

「お体にさわります、横になられてはいかがですか?」

 お父様の提案に、ゆっくりと威厳を持って首を横に振る。


「私の愚息たちが迷惑をかけて申し訳ない。最近は宰相に逆らうこともできず、年々ソールズベリーへの予算が減ってきていると聞く。領民は大丈夫なのか」

「ご心配頂き、ありがとうございます。現在は安定しております」


「そうか。ならば本題に入ろう。そちらも情報は掴んでいるだろうが、弟のアレックスは、自分の能力、立場をよく理解した人間だった。私が孫アレクシスに王の器がないと判断したときも、理解していた。だが、そのアレクシスにそそのかされているようだ。そして、アレクシス自身も宰相にそそのかされている。嘆かわしいことだ。こちらで掴んでいる情報は、バリーから聞いてくれ」

 バリーと呼ばれた従者が神妙な面持ちで私達を別室へと案内した。




 

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