第12話 クリシュナ姫主催のパーティ
エレンは外では完璧に優しい夫を演じるオズワルドに感心した。エスコートは丁寧で完璧だし、話しかけてくる人達との雑談は、エレンが相づちを打つだけで済むように、自然な流れでもっていく。話の終わらせ方もスマートだ。
しかし、有力貴族だからか話しかけてくる人が多すぎる。結婚後、妻が一度も社交場にでていないことも影響しているようで、次から次へと話しかけられてなかなか進めない。
やっと挨拶が落ち着いた頃、主催のクリシュナ様が現れてパーティが始まった。曲の演奏が始まり、クリシュナ様と爽やかなイケメンが会場の中央、二人だけで踊り始めた。あれはおそらく王弟殿下のご子息、アレクシス様だと思う。
国王に王子はいないので、普通にいけば次期国王だが、器が足りないと噂されている。権力争いの中枢人物だ。厳かに躍りは終了した。
立場的には次の曲で端で踊るところだが、旦那様は踊らないだろう。恥をかく必要はない。周囲に視線を走らせてお父様を探す。
「行きましょうか、エレン」
「えぇ」
旦那様は背が高いので私より先にお父様を見つけたようだ。促されるままに進んで…。え!?何で?踊る人の中に入って立ち止まった。
「どういうつもりですか」
顔は笑顔でたわいもないことを話している雰囲気を保ったまま、冷ややかに言った。
「踊ってみたいと思ってね」
満面の笑顔でオズワルドが最後通告を告げた。演奏が始まる。
「知りませんからね!」
隅だからまだ助かったと考えるべきかと考えながら、エレンは半ば投げやりに踊り始めた。
これで存分にエレンが自分を見てくれるとオズワルドは思っていた。
エレンは自身の予想通り、リズム感が壊滅的なので、踏み出すタイミングも何もかもあったものではなかった。ぎゅうぎゅうと涼しい顔で、何度もオズワルドの足を踏みつける。自業自得なので知ったことではないが、足が腫れて大変なことになるだろう。
容赦なく、遠慮なく踏んでみた。曲が終わる頃にはオズワルドの息は上がり、笑顔の仮面が剥がれかかっていた。スッキリしたなと思いながら、ダンスの輪から離れた。
「エレン」
離れるとすぐに、お父様が声をかけてくれた。エリオット兄様にお義姉様のカリーナ、エルハルト兄様までいた。エルハルト兄様は先程のダンスが気に入ったようで、笑いを噛み殺している。
「ハミルトン卿、娘を少しお借りしてもいいかね?」
お父様がそう言うと、旦那様は少し足を引きずりながら立ち去った。
「エレン、わざとだろう」エリオット兄様がオズワルドの背中に同情しながら言った。
「だって、躍りはダメだと言ったのに、強引に踊らせたんだもの。あれくらいしてやらなくちゃ」
「彼はともかく、エレンの評判が落ちるじゃないか」
あのダンスを見れば、エレンをダンスに誘う度胸のある男はいないだろう。ちょうどいいと思ったこともあって思い切り踏んだのだが、エリオット兄様の切ない顔に私は弱い。困った。
「俺が後で踊ってやるよ」笑いながらエルハルト兄様が言った。
エルハルト兄様はパーティが嫌いで、仕方なく参加したときもダンスは踊らない。きちんと踊れるのだが、面倒だという理由で。エルハルト兄様はソールズベリーの次男なので、結婚相手としては不良物件だ。
けれど、鍛え上げられた長身に、爽やかでワイルドなイケメンとして、令嬢達が一度は踊ってみたい相手なのである。
「少し家族で落ち着いて話をしたいんだが」
お父様が近くで飲み物を配っていた人に声をかけると、小さな部屋へ案内された。こんな部屋を利用できる制度は知らなかった。飲み物は既に全員の手にあるのにも関わらず、お父様が部屋で追加の飲み物を頼んだ。
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