第11話 君は誰だ?
パーティ当日、朝早くからマーサとミリムが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。ミリムのメイクが施されると、なるほど、別人だった。ぼんやりした雰囲気が消えて、キリッとした美人風になった。
「思った通りです!」ミリムが喜んでいる。
「グレーーーン!!!」見せようと思ってグレンを呼びつけた。
「どやぁ」
両手を腰に当てて、メイク後をお披露目した。グレンは少しだけ目を見開いたが、大して反応してくれず、正直かなり不満だった。フランツが来て、かなり驚いてくれたので良しとしよう。
フランツに手を引かれて旦那様の元へ階段を降りていく。旦那様は興味がなくてこちらを見ていないし、私も足下がドレスで見えないので、階段を降りることに集中する。
「お待たせいたしました」
エレンが声をかけると、オズワルドが顔を上げてエレンを見た。目が合う。
「君は誰だ?」
そうきましたか。顔を覚えていないのも無理はない。結婚してから、顔を合わせたのは契約を交わした日とドレスを作りに王都を訪れた時、結婚式の日の三度だけだ。
「エレンでございます」エレンは静かに言った。顔ぐらい、覚えようねと思いながら。
オズワルドは、契約結婚の相手をちゃんと覚えていた。ちょっとぼんやりした感じの、深く物事を考えなさそうな顔。顔の造作は悪くはないが、頭が悪そうに見えるのは致命傷だなと思っていた。ところが、今、目の前に現れたのは結婚式とは別人だった。
お世辞にも綺麗と言えなかった髪はつややかで手入れが行き届いているし、何より顔がキリッとしていて、美人だと思った。噂通り大人しいし、無駄な散財もしていない。その上顔も整っているなら表の妻として、自分はいい買い物をした気になった。
特にキリッとした意志の強そうな目は、吸い込まれそうなほど美しい。出会った頃のリリーを思い起こさせる。別邸に閉じ込めることになってしまってから、リリーのこういう表情を見ることがあまりなくなっていた。
「旦那様、奥様は普段ボリュームのあるドレスを着慣れておられませんので、階段の上り下りには慎重にエスコートをお願い致します。マナーに関しては問題ございませんが、ダンスはお勧めいたしません」フランツが淡々と説明しながら、エレンを馬車に乗せる。
「わかった」返事をして、後に続いた。
エレンは過ぎていく景色をずっと窓から見ている。オズワルドはちらちらとエレンを見てしまっていた。エレンはちょっと鬱陶しいと思いながら、無視することにしていた。
「ダンスは踊れないのか」オズワルドが話しかけた。
こちらを向いて、もう一度あの目を自分に向けたい衝動に駆られたのだ。
「一応踊れますが、踊らない方が賢明かと思います。旦那様が他の方と踊られるときは、私は両親の元へ参ります」エレンは窓に目を向けたままそう答えた。
どんな話題を持ち出せば顔をこちらに向かせることができるのだろうかとぼんやり考えているうちに、王宮へ到着した。
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