第10話 奥様、そこそこに本性をばらす

 慌ただしくて時間が取れないと話すかどうかを先延ばしにしていたが、ハンドマッサージをしながらミリムが泣き出したことで、急遽信頼する三人、フランツ、マーサ、ミリムを呼び出した。エレンのいつもとは違う雰囲気に、三人は少し緊張した面持ちでいる。


「…言わないでおくつもりだったけれど、貴方達三人を信頼して、話しておきたいことがあるの」

 最初にエレンが話したのは、契約結婚に応じた理由。ソールズベリーを自立した領地にするのが目的だということだった。その為に毎日外出していることを言った。ミリム以外には、動揺も見られなかった。そこで、やはり二人が気付いていたということと、ミリムが知らされていなかったことを知る。次からが今回の本題である。


「ソールズベリーでは、女性でも剣と魔法の訓練をします。現在のソールズベリーの主な収入源は護衛で、私も領地にいた頃は仕事をしていました」

「………」沈黙が続く。

「お、奥様もですか?」

「そうよ。結構人気で稼いでいたのよ」

「………」

「商人の護衛で、色々な場所に行ったりしたわ。隣国にも出入りしていたし。それに、今も訓練は欠かしていないの」

「はぁ……」

「つまり、私の手にあるマメは剣を握ってできたもの。どれだけ丁寧にマッサージをしてもらっても、いい薬を塗ってもらっても消えないわ」


 そこから質問攻めにあった。

「そんなに小柄なのに?」

「小柄と非力は魔法で補えるから」

「いつ訓練を?」

「皆が部屋に来なくなる夜に」

「どうやって?」

「グレンと屋敷を抜け出して」

「信じられない…」

 三人は顔を見合わせるばかりで、なかなか信じられないようだった。


「事実よ。フランツには申し訳ないけど、ちょっと失礼。私が全身エステを頑なに断る理由を見せるわ」

 エレンはおもむろにワンピースタイプの夜着をたくしあげてお腹を見せた。バッキバキの腹筋がそこにあった…。


 マーサが無言でフランツの視界を手で遮った。フランツは女性のお腹を見たことか、腹筋がバキバキだったことに驚いているのか固まったまま。ミリムはわなわなしているようだ。服を下ろして、更に言う。

「ちなみに背筋もバキバキです!」

「奥様…!めちゃくちゃ格好いいです!!!!」ミリムが涙目で興奮したように言った。

「格好良すぎます!触ってもいいですか!?」

 返事も聞かずにミリムがお腹を触ってきた。


「はぁぁぁぁ…。グレンもですか?」

「はい」

 そう言ってグレンも上着をめくろうとしたが、ミリムが手で制し、冷たく言い放った。

「見せなくていいです」ミリムにこんな一面があったとは。今もエレンのあちこちを触っている。

「素敵ですぅ」ミリムは頬を染めながら、違う世界へ旅立ったようだ。


「あの、奥様、我々にそれを明かした真意というのは…」フランツが俯いたまま尋ねた。

「一番は、ミリムが泣くようなことは何もないって伝えることね。後は、こそこそ訓練や外出しなくていいようになればいいかなって。これから旦那様に誤魔化してもらわないといけなくなる時も出てくると思うから」


「かしこまりました」

「旦那様に話す気はないから」

「これからは、全身エステしましょうね!」

 驚いている二人と対照的に、嬉々としてミリムが言った。実際に、この後から全身エステが始まりましたとも、ええ。

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