第5話 契約その4 別邸へは立入り禁止

「私たち、このお屋敷がどうなることかと本当に心配していたんですよ」笑顔でミリムが言う。

「本当に。別邸の方に夢中な旦那様が急に結婚なさるとおっしゃっただけでも驚きなのに、来られる奥様が愛人を連れてくると聞いた時は…」

 今はもう笑い話でしかなくなっていたが、お互いに緊張感溢れる出会いだったと思う。今はフランツ、マーサ、ミリム、グレンと庭先でテーブルを囲んでいる。すっかりソールズベリーのような居心地の良さが完成されていた。


「本当に旦那様は何を考えていらっしゃるのやら…」一番被害を被っていそうなフランツが言う。

「私たちは奥様が来てくれて、とても嬉しいのですよ。でもねぇ…」マーサも言う。

「旦那様はひどい方だと思うわ」思い切ってミリムが言う。

 さすがにまずいと思ったのか、フランツとマーサが目でミリムを制す。


「大丈夫よ、私は気にしてないわ。でも、別邸の方はどう思っているのかしら?」

「どうでしょう…。あの方は、私たちとはお話はされないので」

「そうなの?別邸への立入りも、接触も禁止されているから、どんな方かわからないのよね」

「知らなくていいと思います!!」ミリムが言った。

 何故か当事者よりも思い詰めている。いやいや、全く気にしていないよ。


「今回のご旅行にしても、本当なら奥様と行くべきじゃありませんか!奥様をお屋敷に閉じ込めて、二人でご旅行なんて!!」

「私は一緒に行きたくないわ。いつ帰ってくるのでしたっけ」

「三週間後のご予定です」フランツが言った。

「もっと行っていてくれてもいいのに」本心からエレンがそう言うと、ミリムがきっっとエレンを見た。


「奥様はお優し過ぎます!!」

 そんなことはないのだけれど、と正直に思った。こちらも利用させてもらうのだから、あちらも好きにすればいい。グレンは話に興味がないのか、ずっと料理長新作のお菓子に夢中だった。この話題が続くのはエレンにとってもしんどくなりそうなので、話題を変えてみた。


「お部屋の模様替えをしてみたいのだけれど、どうかしら?」全員が賛成してくれて、どんな部屋にするかで話が盛り上がった。


***


「本当にいい奥様が来てくれましたね」フランツが言うと、他の従者達も頷く。

「奥様がお見えになってから、本邸が明るくなりましたわ」

「奥様はご実家で苦労されていたようです。ハンドマッサージをさせて頂いて気が付いたのですが、手にはまめが…。農具の扱いにも慣れているようでしたし…」

「そうですね。私たちで奥様が嫌な思いを少しでもしなくて済むように、お守りしなくては」

「旦那様と別邸の方が戻ってくるまでに、対策を立てましょう」

 エレンの知らないところで、従者達の熱のこもった会議が開かれていた。


「…奥様とグレンっていささか仲が良すぎると思いませんか?」

「…ええ。まさかとは思いますが、本当に…」

「でも、仲のいい姉弟と言われれば…」従者達の会議は夜遅くまで続いた。

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