第6話 契約その5 週に一度のおこづかい制
翌日から部屋の模様替えについての本格的な相談が始まった。義母の趣味は嫌いではなかったけれど、高級品で埋め尽くされた部屋は重厚すぎて落ち着かなかった。
それを明るくて年齢相応のものに替えようと話をしていると、大量のカタログがエレンの前に並んだ。
「私、お金がないからこんな高級品は買えないわよ」
「屋敷の模様替えの費用は、全てハミルトンが出すべきものです」フランツが言う。
「じゃあ、部屋の模様替えはやめておこうかしら。お金がかかるでしょ」
「お客様がお見えになったときに、部屋の内装が先代の女主人のままなのは、恥ずべきことですわ」マーサが言う。
「そうですよ。奥様がされないのなら、私たちがしてしまいますよ。フリルだらけのお部屋とかに…」ミリムはわかってにやにやしながら言っている。
フリフリの部屋は趣味では無いが、エレンの趣味だけにしてしまうと、簡素で質素になることは間違いなかったので、マーサやミリムの意見をふんだんに取り入れた。
さりげなくソールズベリーで作っている草木染めの生地などの話も出すと、エレンの部屋用に注文してくれるそうだ。
注文の品が揃い次第、少しずつ部屋の模様替えが始まった。重い家具はグレンの魔法で軽くして、誰でも自由自在に動かせたこともあり、旦那様の部屋と書斎などを除いて、エレンの年齢に相応しい、明るくて落ち着く空間へと生まれ変わった。
「素敵ですわ、奥様!!」マーサとミリムが熱のこもった声で言う。
「グレンが魔法を使えるとは思わなかったわ」
「ソールズベリーでは、ほとんどの平民が使えますよ。簡単なものですし」
「私にも才能があったらいいのに」ミリムが落ち込んだ。
魔法はほとんど貴族しか使えない。それは、魔法を使える方が出世に有利だったからだ。長い時間をかけて、魔法は貴族の専売特許になっている。ソールズベリーに魔法使いが多いのは、戦乱の時代に多くの平民魔法使いが各地から出世を目指して集まった影響だ。
ソールズベリーは実力主義で、平民も貴族も扱いは平等だった。和平条約を結んだ後、王都へ行き騎士団の一員となった者も多いが、ソールズベリーが気に入ってそのまま住み着いた人も多い。
「部屋も素敵になったし、昼食後はグレンと買い物に行くわ」
「かしこまりました。馬車の大きさはいかが致しましょう」フランツが当然のように尋ねた。
「いらないわ。二人で歩いて行くし」
「「奥様をそんな危険に晒すわけにはまいりません!!」」従者がハモった。
結局は自由にしていいと旦那様が言っているのだから、で強引にエレンが押し通した。フランツがお金を渡そうとしてきたが、それも断った。最近フランツやマーサが甘すぎる気がする。
「毎週旦那様から支給されているお小遣いがあるから、大丈夫よ。フランツのおかげで、グレンに給金も頂いているし」
昼食の準備の最中に、エレンとグレンは出かける準備をしに部屋へ戻った。そのタイミングを見計らって、従業員総出の緊急会議が招集された。
何事もなかったように食事を終え、いつも通りの雰囲気で二人を見送った後、従者達はすぐに準備にとりかかった。フランツがすぐに服を着替えて二人の後を追うのだ。準備の間の足止めは、庭師のジャンがかってでた。
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