第4話 契約その3 役目がないときは自由にしていていい

 ミリムは新しい主が目を覚ますまで、控えの間で用事を済ませながら待っていた。四年前にオズワルドの両親が隠居して、気候の良い南へ住まいを移してから、この屋敷には女主人が不在となっていた。

 三年前から別邸にオズワルドが女性を住まわせているが、元からいた従者とは別に新しい女性を雇い入れ、本邸とは別空間となっている。別邸に出入りを許されているのはフランツとマーサくらいだった。


 ミリムは新しい主人にわくわくしていた。前伯爵夫人は趣味もいいし、気さくで素敵な方だったが、年齢的に選べるものが落ち着いたものとなり、ミリムの着飾りたい欲求を満たし切れていなかった。今度の若い主人は、どのように着飾ろうかと考えていると、人が動く気配がした。


「奥様、お目覚めでしょうか」


 ミリムが寝室に声をかけると、返事が返ってきたので扉を開ける。既に部屋で髪を梳かしていたエレンは、あろうことか自分で支度をすませていた。

 エレンの上から下までミリムが眺める。自分たちよりも安っぽい生地を使用した、町娘のような格好だった。フランツ、マーサを交えた緊急会議の招集が決定した瞬間である。


 華美な服装は動きにくいからと町娘のような格好を譲る気が無いエレンと、毎日女主人を着飾れると思っていたミリムが、味方を引き連れてそれに激しく抵抗。どうしてそうなったのかお互いに最早わからないが、妥協して侍女と同じワンピースを着ることになっていた。

 ミリムは妥協案の着地点に未だに納得していない。何故奥様が侍女と同じ格好を…!と未だにぶつぶつ言っている。エレンも初めは不満を言っていたが、動きやすくて汚れが目立たず、生地も上質でちくちくしないので、今ではとても気に入っている。シンプル万歳!


 屋敷の主要人物が集まっていたので、エレンは手始めに豪華な食事を止めさせて、強引に従者と一緒に食事を取ることにした。

 グレンが従者と同じ扱いなら、食事はあの大きなテーブルに一人でとらなければならなくなるし、私が一人で食事をとると、片付けや準備などの効率が悪いと考えたからだ。

 メニューも全員一緒にした。最初はやりがいが…とごねていた料理長も、その分皆の食事を豪華にして、と言うと納得したようだ。これからは、別邸の旦那様と本命の方に腕をふるって欲しい。


 一緒に食事をして、気さくに話をした。エレンとグレンは一番接することが多いフランツ、マーサ、ミリムとほどなく馴染んだ。

 旦那様が別邸にこもることで増え、今回の結婚もろもろでたまっていたフランツの仕事を、エレンとグレンが手伝って片付けた。

 フランツは驚いていたが、ソールズベリーでは誰でも仕事ができて当たり前だ。旦那様は本命の方ができてから、屋敷のことだけでなく、領地の管理もほとんど父親とフランツに任せきりにしているという、領主としては由々しき事態が判明する。


 暇だからと掃除や皿洗いなどを従者に混じってエレンも始めた。最初は困っていた従者達も、手際のいい様子を見て受け入れてくれるようになった。但し、皿洗いだけは手が荒れると許してくれなかった。水を使う掃除もだ。元々手は荒れていたので、毎日ミリムがハンドマッサージをしてくれるようになった。

 ただでさえ優秀な従者に更に二人優秀な人材を追加された形となり、各々に余裕ができ、休憩と言う名のお茶会が度々開かれるようになった。奥様であるエレンを働かせ続けることへの遠慮もあるのかもしれない。使用人と仲良くなることに成功した。



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