第10話 廊下を歩いてたら

2019年11月16日

廊下を歩いてたら。

俺とは違う部屋に入院したばかりのおばあさんが立って泣いている。

何事かと尋ねてみたら、先ほど旦那さんがお見舞いに来て、

同室のよしみでとみんなに柿を配ったのだそうだ。

しかし、その中の或る患者さんAが食事制限を受けている患者さんだった。

Aさんは旦那さんに事情を話し、手元にあると食べたくなるから……と断わった。

すると、ほかの同室者の人たちもAさんに遠慮してだれも柿を受け取ろうとしない。

旦那さんの気がおさまらない。

「だーいじょうぶだから!少し喰ったほうが良くなるから、アンタが食べないとみんな遠慮しちゃうんだから、食べなさいよせっかく買ってきたんだから、みんなもホントは食べたいのにアンタ一人のせいで食べられないんだから!わがままだよ、アンタ!」

とさんざんAさんを責めたらしい。

で、Aさんが切れた。

「私は病気を直したくてここにいます。外を歩くことも出来ない身体なので入院しています。好きなことをして、好きなものを食べるあなたとは違うんです」

旦那はそれでも、みんなに柿を勧めて回り、帰り際には『わがままな連中だ』と捨てゼリフを吐いて帰ったらしい。

ああ、それで、後でみんなに何か言われるかして泣いているんですね?

まあ、皆さんの気持ちも解らんでもないですが、

終わったことをいつまでも責めるのはちょっと大人気ないですね。

と慰めたら、違うらしい。

いわく、

「せっかく、旦那がみんなのために高い柿を買ってきてくれたのに、わがまま言って誰も貰ってくれなかった。旦那の気持ちを思うとかわいそうで、かわいそうで」


駄目な夫婦なのかな?

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