第11話 個室から移ってきた患者さん

2019年11月24日

個室から移ってきた患者さん

結構若いのに時々ボケる。

比喩的な意味合いではなく、まじめに若年性の痴呆症発生中。

痴呆症発生後に他の病気が発病して入院したらしい。

痴呆症については自分でも自覚があるらしく、

「これからどうしよう……これからどうしたらいいんだ……」

と、ぼやく。

小一時間ほどぼやいた後、ぼやいたことを忘れて、また最初からぼやき出す。

まったく同じ言葉で、同じ事を、ほぼ同じ順序でぼやき出す。

何度も、何度も……。

まぁ、それはいい。

仕方が無い。

非常に困る事がある。

時々、自分が今何故此処に居るのかを忘れてしまう。

あわてて、ナースセンターへ駆け込み、看護婦さんに状況を説明され、

狐につままれたような顔をして帰って来る。

そして、必ず、身の回りのものを確認し出し、

いつも持って歩いているバックとお金が盗まれたと言って大騒ぎを始める。

じつは、お金を置いておくと、自分が入院していることを忘れて、タクシーで帰ってしまった前科があるらしく、お家の人が持って帰っている。

「お金知りませんか?ここにあったサイフ、落ちてませんでしたか?誰かこの部屋の人……拾ってませんか?持ってってマセンカ?私のなんです!返してください!」

と、ベッドごとに聞いて回る。

もちろん、俺のところにも来る。

いえない。

どんなにしつこくされても、睨まれても、

ほんとの事なんてせつな過ぎていえないよ。

翌日には、本人そんなことがあったこと自体忘れたらしく、

また、ベッドの上の陽だまりの中でぼやきを繰り返す。

何度も、何度も、何度も、何度も……。

その横で、私は何度目かの西尾維新を読み返し……


人生ってなんだろうと青臭い戯言を言ってみたりする。

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