後ろの席の気になるあの子

暗黒騎士ハイダークネス

第1話 ペン回し



 1人の男子が休み時間を使って、ペンを回す。ひたすらスイリッシュを目指して、回す。

 何が彼をそこまで突き動かすのか?

 どこまでも必死に、周りの目など気にせずに、彼はひたすらにペンを回す。

 どこまでも、愚直な姿勢に私は若干のカッコよさを見ていたのかもしれない。

 諦めずに、それをやり続ける努力という素晴らしい輝きを見ていたのかもしれない。

 だけど、いいえ、だからこそ!私の純粋な気持ちを言わせてほしい!

 



 その日もいつも通り彼はペンを回す。

 いつもどおりに失敗ばかり。

 決してカッコイイなんて言えたもんじゃない。 

 彼はクラスの中でやっている男子の中で見れば、下手なほうだろう。

 だけど、かっこ悪くても、彼はペンを回し続ける。


「ぬぬぬ!!」


 いつもどおりに失敗して、彼は唸りながらペンを回す。

 だからか、私が声をかけても、何一つ反応しない。

 自分で言うのもなんだけど、クラスの中でかわいい方だと思うのに・・・無視される。

 それがどうしようもなく、屈辱的な気分になる。


「ねぇ、ねぇってだ?聞いてるの?」

「ね!ぇ!!」


 ペンを回し続ける彼の目を頭ごと、こっちに無理やり向けさせる。


「ふぉぉぉ!?」


 突然、目の前に美少女が現れたから、彼は奇声でも上げ始めるのか・・・

 若干悲鳴にも聞こえてしまって、私が精神的にショックを受けたんですけど・・・


「なによ、そんなびっくりしちゃって」

「あ~ごめん、突然だったから仕方ねぇじゃん!びっくりしたんだよ!」


 そう気持ちを落ち着けたのか、普通に話し始めてきた。


「それで、何か僕にご用でしょうか・・・えっと~プリント?それともノート?まさか・・・教科書狩りに来た、間違えた、借りに来たの?」


「私とあなた同じクラス、この意味おわかり?」


「あ、はい、最後のはないですね?ですよね?教科書のカツアゲしないですよね?・・・それで、ノート?プリント?今日提出の課題あったっけ?」


「しないわよ!そっちでもないわよ!あんたにわたしが話があるの!」


「ん???何の用?」


 表情一つ変えずに生きるこいつ。

 私美少女、こいつ平凡顔。

 ・・・私の表情筋が引きつっているような気がするけど、我慢よ、我慢。


「それ、うるさい」


 ペンを指さしながら、そう私は告げる。


「ん?あぁ、ごめん、まだ練習中なんだ」


 またやり始める彼。そして、また指先からペンが落ち、コツンと机に落ちる音がした。


「あーやだやだ、男って、先週中島君が鳳先生にうるさいって怒られたばっかじゃん」


 嫌味交じりにそういう私、無視する彼。

 コツン、また落ちるペン

 イラつく私。

 そして、ついに落ちたペンを取り上げる私。


「だから、これの落ちる音!うるさいのよ!!」


「あっ・・・」


 怒られたという表情よりも、先にペンをとられて『え?』という表情をしている彼。


「はぁ~なんで?これそんなにも頑張るのよ、意味わかんない」


 そう溜息を吐きながら、私がそう告げると彼はこう返してきた。


「・・・だって、できてたら、かっこよくね?」


 そのわたしに笑いかけてくる彼。

 無邪気に笑いかけてくる彼にどきっとするけど、さっき私から怒られたということをちゃんと理解できているのか、心配になる。


「まぁ・・・ん~できないよりはできたほうがいいのか、な?」


「だろ!!」


 そう私が若干の肯定の言葉を返すと、そう身を乗り出して、きらきらとした目でこっちを見つめてくる・・・いや、少し下、私じゃなくて、私の手に握られているペンを見つめている。


「いや、だからって、授業中ときどき聞こえてくる、後ろで毎回ペンが落ちる音がするこっちの身にもなってほしいのよ!うるさいのよ!」


「あ・・・うん、ごめん」


「分かったなら、練習家とかにしてよね、それで完璧にできるようになったら、見せてよ」


「おう?おう!」


 そう彼は私に笑いかけて約束する。




 最近なにかしらをやって、怪我をして、入院してしまった中島君のお見舞いの為に、道徳の時間を、担任の先生が校長先生に掛け合って、クラスみんなで折り紙で千羽鶴を作っている時間となったんだけど・・・。


「あのさ・・・上手くなってきたのは分かるよ?分かるんだけどさ・・・これも一応授業なみたいなもんだしさ、鶴くらい折ろうよ・・・」


 上手くなったペン回しをしてくる彼・・・でも、技とかそういうのはまだできいないらしくて、そういうのはうるさいと言われると思っているのか、私の前では練習しない。

 そんな中で私は折り鶴を作る。

 男子の半分は飽きたのか、折り紙を紙飛行機にしようとして、先生に怒られてた。

 そのせいで、若干先生を見る目が厳しくなって、彼もしょんぼりしながら、折り鶴を作り始めた。

 折り紙は・・・中島君の為に先生が用意したものだし、ノートをハサミでちょっと切って、その紙で『また今度見せてね』と渡す。

 それを受け取った彼の顔は、頬を緩ませて、さっきのしょんぼりとした顔が嘘みたいに元気に折り鶴を折り始めていた。




 そして、彼も少し技を見せくれるようになった頃に、久しぶりに学校に登校してきた中島君。

 痛々しく足に包帯を巻いて、なぜかペン回しをする中島君。

 そういえば・・・中島君が一番最初にペン回しを広めたんだっけ???


「見てみろ!!」


「「「「すごい、すごい」」」」


 彼ができないような技を中島君は披露する。

 それを見ていた彼も、他の男子も、女子も拍手する。

 私は・・・ちょっとそのどや顔・・・嫌いだな~と遠くの方で見ていた。

 彼なら、どやっとしてても、こっちが見つめてると、すぐに顔を真っ赤にして素直に照れるのに・・・何考えてるんだろ、わたし!


「そして、俺はついに究極の技を会得した!!」


 その声に、はっとするクラスのみんな。


「その名もダンベル回し」


 彼の鞄からはダンベルを取り出すと、ペン回しの要領でダンベルでやるという。


「「「「おぉ!!」」」」


 沸き立つ男子達。


 さっきまで拍手していた女子でさえ、冷めた目で見る女子・・・この時点で女子は疑い始めていたのだ。

 あいつ、まさか、あれの練習のせいで入院していたんじゃないかと・・・

 そして、クラス男女がある意味中島に注目し始めた時に、ダンベル回しを成功させる中島。


 その成功に、さらに沸き立つ男子。

 それとは対照的に冷めていく女子。

 そして、先生に見つかり、中島は怒られたのであった。


「はぁ~アホみたい、もうペン回してないじゃない、曲芸?」


 そんな独り言を誰に言うでもなく、呟いていたら、彼が席に戻ってきた。

 そして、彼はつくなり、こう周りには聞こえない、けれど、私にはぎりぎり聞こえる声量で・・・ぼそっとこう呟いた。


「次、俺もダンベルでやってみようかな・・・」


「ははは・・・え?冗談よね?」


 って、いきなりなんで一人称が俺になってるの?似合わないよ・・・僕の方がいいよ!!

 そう叫びたかったが、もう授業が始まってしまったのであった。




 最初はただのペン回しを失敗しまくって、うるさい子だと思っていた。

 だけど、その子は凄く素直で、一生懸命な努力家で、・・・ちょっと周りに感化されやすい笑顔が素敵な彼。

 そんな人気者に感化される少年に私が振り回される日々がこうして始まったのだ。

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