其処に必要なもの
牙桜
なくしてはいけないもの
やぁ、こんにちは
まずは自己紹介と洒落込もうか。
と言っても私はこれといった名前がなくてね。
そうだね、娯楽の伝道師とでも名乗ろうか。
なぜ僕がここにいる?ここはどこ?
君は小説に興味があるのだろう?だからここに私が呼んだのさ。
さて、それじゃああまり時間もあるわけではないから、早速だが質問をさせてもらおうか。
率直に聞こう。君は小説を書くためには何が必要だと思うか。
紙やペンなどだろう、か。確かにそうだろう。
しかしよく考えてみてほしい。書く物と書ける物、果たしてそれだけで小説が出来るだろうか?
答えは否、出来ない。あとひとつだけ足りないものがある。
君はそれが何かわかるかい?
机?否だ。椅子?否。部屋?それも否だろう。
もう思いつかないのかい?
答えは簡単だ。君が、書き手が必要なのさ。
ちょっと話を変えようか。
今、この小説界隈だけに限らず様々な数のクリエイティブな文化が衰退しつつある。
その理由は単純明快、出尽くしたからさ。
君のいるところの周りを見てみてくれ。
アニメでも小説でも最近流行りの異世界物とやらが多いだろう?
それに、そうでなくとも既に何億という人が物語を書き、絵を描き、ゲームを作り、アニメを出した。
一体この世界にいる何人の人が全く新しい物を、新しいジャンルを作ることができるだろうか。
既に一掴みも、あるいはもういないのでは。そう思うと、これからの行く末が一体どんなものになるのだろうか。
私はこの世界に飽きてきた。
いや、この言い方だと誤解を生みそうだな。
流行りの異世界物もSFゲームもロボットアニメも。読めば遊べば観れば面白い。
ただ、それは今までにもあった面白さを、また違った作品で感じているだけに過ぎない。
親友が死んで泣き、ヒロインの純粋さに萌え、家族の日常で安心する。そんなものがいくつもあり、そしてそれを感じて楽しんだ。
しかし、果たしてそこに驚きの設定が、システムが、ギミックがあっただろうか。
私はそこに『NO』と答える。
そしてそれは私にも言える。私が必死で考えた面白そうな、悲しむような、可愛いと思うようなものは既に世に出ている。さすがとしか言えない。そして悔しいとも思う。
さて、話が逸れたな。
小説を作るには、紙とペン、そして君の意欲があればいいだけだ。
その意欲が、新しいジャンルを開拓するのに必要なんだ。
私には新しい扉を作るような意欲がもうない。
日夜悩み紙に向かったが、既存のものしか思い浮かばず筆を落としてしまった。
自分の中で考えていた物が、目の前の本に書いてあった。思いついた設定が既に使われていた。思い出してみればよくあるものだった。
その悔しさをバネにすることが。もう私には出来なくなった……
だが!
今この世界で泳いでいる、あるいはこれから飛び込む君なら!!!
君なら、私が成し得なかったことも出来るのでは。
そう思って君をここへ
さぁ君はここから飛び立てるか?
この世界の壁を天井を床を!君の体で壊すんだ!
そして新しい扉を開いてみんなを、私を楽しませてくれ!
其処に必要なもの 牙桜 @gaou
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