駆けろ、最終決戦!・2


「で、どうなってんのクロヤ!」


 ライオニャゴの背に乗って、ぼくたちは山を駆け下りた。

 時間いっぱい走っても、街まではまだ距離がある。

 ぼくはクロヤと通話して、今の状況を問いただした。


「クラックはクロヤが倒すんだったよね?」

『えぇ。新島博士のデータに沿って発見し、破壊しました』

「でもクラックいたよ!? ヴォルフを脱出機能で街まで連れてった!」

『確認しています。まずこちらの状態ですが……』


 ウィンドウに、クロヤ側の景色が映し出される。

 落ち葉の上にだらりと倒れているのは……どうみても、あのクラックだ。


「どういうことだ? クラックは二体いたのか?」

『こちらで分析しましたが……この身体は、放置されたアカウントのパーツデータを寄せ集めて作られたものでした』

「ってことは、それはクラック本体じゃなくて、クラックのアバター?」

「よく分かんねぇな……」


 むぅ、とニャゴがうなる。

 でも、改めて考えてみると納得がいった。クラックの見た目は、クモのサイバクルスにしては明らかに人間っぽ過ぎたから。


『ですがこのアバターを破壊した際、本体の信号を確認できました。追跡は可能ですし、街に飛んで今度こそ消去します』

「……うん。でも、街は大丈夫なの?」

『現在はKIDOのデバッガーたちが戦っていますが……』


 クロヤはため息交じりに答える。

 多分、戦況が良くないんだ。


『数に苦戦しているようですね。彼らも、持てる戦力を全てつぎ込んで来ているようですから』

「数……数かぁ。分かった。とにかくぼくたちもすぐ合流するから」


 そう言って、ぼくは通話を切った。

 村での戦いの時みたいだ。相手は数をしっかり揃えてきてる。

 なら、こっちもどうにか数を揃えないといけないのか。


「……そうだ、斬鉄さんなら……!」


 考えて、ぼくは斬鉄さんに連絡をしてみることにした。

 通話はなかなかつながらず、十秒くらいたってようやく、がやがやと騒がしい音声が届き始める。


『ユウトか! どうした!』

「あの、斬鉄さん。協力してほしい事があって。今街が……」

『ああその事か。だったらもうやってる。よし、そこだガタ之進!』

『キィィィッッ!!』


 画面には、ガタ之進が何体ものサイバクルスと戦っている映像が映し出されていた。戦いの舞台となっているのは、あの街だ。


「なんだ、もう戦ってたのか」

『当然だろネコ太郎! じゃなかったニャゴ! ……実はな、村のヤツが生配信の情報を教えてくれて、急いできたとこだ』

「生配信?」

『ほら、あれ!』


 そう言って斬鉄さんは、街頭のモニターを映し出す。


『――アリアチャンネルから、何度でもご連絡です!』

『パッタタ~!』

『今! 街で暴れているのは、バグの出たコワイ子たちです! みんな、早めにログアウトして避難してください!』

『パタ! パタタ!』


 モニター画面には、アリアさんとパッたんが映っていた。

 アリアさんたちはプレイヤーたちに避難するよう伝えつつ、街の様子を配信している。


『でもでも! 街を守りたいよって人は、パートナーとよく相談してから……ホントに、出来ればで良いから、食い止めてくれたらってわぁぁっ!?』

『パッタッ!』

『ひゃああ……ありがとうパッたん!』


 画面の向こうで、敵に襲われたアリアさんをパッたんがどうにか守る。


『アレ観てよ、こうしちゃいらんねぇっつって戻って来たんだ』

「ガタ之進のハサミは平気なのか?」

『おうよ! しっかり治して研いである。おかげで前より強くなったってもんだ』

『キィィィ!』

『で、お前らは今どうしてんだ?』

「それが……」


 ぼくは斬鉄さんに、今までの経緯を説明する。

 ヴォルフの過去の事。そんなヴォルフと決着を付けようとしていたこと。

 だけどクラックの罠にかかり、今急いで街に戻っている所だ、ということ。


『はー。そりゃまたムカつく話だぜ。……っても、なぁ』


 ぼりぼりと、斬鉄さんは頭をかく。

『ヴォルフとクラックの野郎を見つけたら、オレたちは容赦しねぇ。ユウト、ニャゴ。テメェらで決着付けてぇんなら……ま、急ぎな!』

 とりあえず、街はしばらく大丈夫だ。

 斬鉄さんはそう宣言してから、通話を切る。

「こりゃヤバいな。とっとと着かないと終わっちまうかもだ」

「……うん」

 うなづく。

 斬鉄さんもアリアさんも、ガタ之進もパッたんも、みんな一生懸命に戦ってくれてる。それがすごく頼もしく感じる一方で……


「……大っきな戦いになっちゃったね」


 その事自体が、すごく、辛かった。

 ヴォルフやクラックは悪い事をした。それは許せない。

 でもこんな風に争ったら、結局人間たちはサイバクルスを怖いものだって思ってしまうんじゃないか、って心配になる。


「こんなことになっちゃって、大丈夫なのかな……」

「だから、それ止めにいくんだろ」


 はぁ、とニャゴはため息を吐いた。

 また思い詰めてしまうぼくに、うんざりしたみたいに。

「ニンゲンとサイバクルスが仲良くできなくなる、ってんならよ。ユウト。オレとお前はなんだ? パートナーだろ?」

 ガタ之進もパッたんもそういう気持ちだろ、とニャゴは続ける。

「カン違いしてんじゃねぇぞ。ヴォルフの敵がテメェらニンゲンだけでも、それを止めたいのはだ」

「……そっ、か。村の時も、そうだったもんね」


 鍬形村は、人間と虫クルス両方が大事に思って守ろうとしていた場所だ。

 街だってそうなんだ。人間と一緒にいることを、楽しい事だって思ってくれてるサイバクルスもいる。


「で? ユウト。念のために聞くぜ。テメェは今何がしたい?」

「決まってるでしょ。まずショウを助けたい。次にニャゴのデータ。

 ……それから。ぼくとニャゴとで、ヴォルフに勝って、証明したい」


 人間とサイバクルスは一緒にいられる、って。


「多分それは、クロヤにやらせたら意味がないんだと思う。

 クロヤは、サイバクルスを自分の道具みたいに思ってるから」

「ハッ。ヴォルフを倒す。しかもクロヤより先に、か。この状況で!」


 そう。クロヤはもうとっくに街に向かってる。

 ぼくらはひたすら走り続けていないといけないから、圧倒的に不利だ。


「だが、気に入った! ユウト、振り落とされんじゃねぇぞ!」

「のわっ、急にジャンプしないでよ!」

「この方が早いんだよぉッ!」


 ひゅぅぅ、と崖を飛び降りていくニャゴ。

 浮遊感と風を全身に浴びながら、ぼくたちはただ真っ直ぐに、街へと向かっていった。


【続く】

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