最終戦闘サイバディア
駆けろ、最終決戦!・1
「この先にヴォルフがいるニャゴな?」
「もらったデータでは、そうみたい」
ごつごつした岩山を昇っていく。
ぼくはウィンドウの地図に表示された、あるポイントへと向かっていた。
それは、新島博士のAIから送られたヴォルフの現在地情報だ。
「ユウト、これで良かったニャゴ?」
「なにが?」
「クラックの方行かなくて良かったのか、ってことニャゴ」
ニャゴに聞かれて、ぼくは思わず足を止めてしまった。
……手に入れた位置情報は、二つあった。片方はこの先にいるヴォルフ。もう片方は、クラック。
「ニャゴはヴォルフに用があるニャゴけど、ニンゲン操ってるのはクラックニャゴよ。ユウトはそっちのがムカつくんじゃねぇニャゴ?」
「……うん。でも、そっちはクロヤが行ってるし……」
新島博士のAIは、ぼくたちに色々な事を教えてくれた。
サイバディアの成り立ちや、ヴォルフが人間を憎んでいる理由。
アバターやサイバクルスに仕込まれたバグも、AIがくれた情報で早くもワクチンが完成したらしい。
だから、後は、元凶になっている二体を倒せばいい。
二体を倒しさえすれば、操られたアバターも、狂暴化したサイバクルスも、元に戻せるって……クロヤは言っていた。
――ボク一人では、ガーディアンの突破は難しかったのです。
――手伝えてもらえて助かりました。……けれど。
もう、ぼくがしなくちゃならない事はない、ともクロヤは言った。
放っておいても、クロヤたちが事件を解決して、ショウも取り戻してくれる。
だったらぼくは、ニャゴの手伝いに専念すればいい。
「ニャゴのデータは、ヴォルフが持ってるみたいだし。クロヤより先にヴォルフを倒さないと、元に戻れなくなるよ」
「ニャガ。それは困るニャゴけど……ユウト、またなんか気にしてる顔ニャゴ」
「……そう、かなぁ?」
首をかしげて、笑ってしまう。
自分でも、よく分かっていなかった。
いきなり色んな話を聞いたせい? ショウを助けるって決めたのに、肝心な部分で人任せになっちゃったせい? それとも……
「……。ヴォルフはさ、倒さなきゃいけないんだよね」
「そうニャゴね。ニャゴはアイツを許してねぇニャゴし、クロヤとか……ニンゲンたちにとっても、ほっといたら危ねぇヤツニャゴ」
その通りだ。ヴォルフは人間を憎んでいて、方法や機会があれば何度でも人間にキバをむくハズだ。なら、そうなる前に……
そうするのが正しいって、頭では分かってるんだけど。
「……じゃ、戦う前に話してみるニャゴ?」
進まなくなったぼくに、ニャゴはため息交じりに言った。
「ヴォルフに、戦いは止めろって言ってみるニャゴ。絶対に言う事なんか聞きゃしねぇに決まってるニャゴよ?」
「分かってるよ。……分かってるけど……」
鍬形村での様子を見れば、話し合いが通じる相手じゃないのは分かる。
ニャゴとぼくが仲良くしてるだけで怒ってたんだから。
それでも、ぼくの気持ちは全然納得してないみたいだった。
「ユウトのそーゆーとこ、キライじゃねぇニャゴけど、メンドいニャゴ」
「ええ……なにその言い方……」
「マジな話ニャゴよ。ユウトが優しいのはよく分かってるニャゴ」
だから、とニャゴは続ける。
「さっきの、本気で言ってたニャゴよ。まず話してみるニャゴ。んでダメならちゃんとあきらめて欲しいニャゴ。……戦ってるとこに割って入られても困るニャゴからな」
「……分かった。ありがとう、ニャゴ」
そうだ、一人で考え込んでも始まらない。
まずはやってみないと。それでダメなら、その時はその時だ……!
*
「黙れ。口を開くな。キサマの言葉など聞く気は無い」
ダメだった。
岩山を昇り、ヴォルフがひそんでいる洞窟に足を踏み入れ、敵意をあらわにするヴォルフに「戦いは止めよう」と言ったぼくは、ただの一秒で拒絶されてしまった。
「だーから言ったニャゴ」
やっていいって言ったのニャゴじゃん……!
確かにニャゴは無理だって言ってたけど!
けど、こんなのは分かってた事だ。カンタンに言って聞いてくれるとは思ってなかった。ぼくはあきらめず、まだヴォルフに呼びかけることにした。
「あのね、ヴォルフ。人間だって、みんながみんな――」
「口を開くなと言ったハズだ」
「サイバクルスが大好きな人間だってたくさんいて――」
「我らはこの恨みを忘れぬし、人間を信じるつもりもない」
「パッたんっていう鳥のクルスとかがね――」
「分からぬというなら教えてやろう」
ダンッ! ヴォルフが地面を蹴り、ぼくへと飛び掛かって来る。
白く鋭いキバがぼくの顔の前まで迫ってきて……どんっ。
今にも食われそうになったぼくを、ニャゴが体当たりで助ける。
「仕損じたか。何故そんなモノの味方を続ける?」
「テメェも全然覚えねぇニャゴよな。気に入ったからニャゴ」
「分からんな。そのニンゲンもキサマも、愚か過ぎて言葉が出ん」
「バカはテメェもニャゴ。いくら硬い言葉使ってても、言ってる事は『気に入らねぇ』だけニャゴ」
「……ああそうだ、気に入らん。腹が立って仕方がない。キサマも、そこのニンゲンも、
ヴォルフは唸り、憎悪の眼差しでぼくらを見つめる。
とても話せる雰囲気じゃなくて、ぼくは息を詰まらせる。
「ニンゲンとサイバクルスが共にあるなど、あってはならない。ニンゲンは我ら種族を滅ぼした悪鬼に他ならず、然る後全てのサイバクルスを滅ぼす厄災だ」
「聞いたニャゴよ。ウルフクルスのことなら。テメェがキレるのも当然のことニャゴな。それだけ見てたら、ニャゴもニンゲン許せねぇニャゴよ」
記録は存在した。ヴォルフの言っていることは事実で、KIDOはサイバクルスを生きているものだとは考えていない。
だったら、この先。サイバクルスが人間の勝手な都合に巻き込まれ続ける可能性は高い。ぼくに、ヴォルフの言ってることは否定できない。
「でもそれはテメェが見たニンゲンで、ニャゴの見たニンゲンじゃねぇニャゴ。まぁニャゴにも気に入らねぇニンゲンはいるニャゴが、ユウトとか、アリアとか、斬鉄とか、結構悪くねぇのにも会ったニャゴ」
「数の問題ではない!」
「ニャゴな。だからニャゴはテメェの話なんざ聞く気はねぇニャゴし、テメェもユウトの話を聞く気がねぇニャゴ」
ニャゴの言葉は、多分ぼくにも向けられているのだと感じた。
これ以上話す理由はもうないのだと。あきらめろ、と言われているのだと。
「っつーわけで、ここで決着をつけるニャゴ。良いニャゴね、ユウト?」
「……分かったよ、ニャゴ」
息を吸う。覚悟を決める。
……結局のところ、他に道が無いのなら……
「――
「ニャッ……ガァァァァァァァッ!」
薄暗い洞窟を、ニャゴの爆炎が明るく照らす。
爆炎から飛び出したニャゴを、ヴォルフは体当たりで迎え撃ち、相打ちとなって互いに吹っ飛ぶ。
「そろそろオレのデータ、返してもらうからな」
「フン……無様に繕われた仮初の身体で、この我に勝てるとでも」
「勝ーてーるーね! オレがテメェより弱いわけねぇだろ」
「腹立たしいな。その力、我らと共にあれば存分に振るえたものを」
ヴォルフはしゃべりながら、じり、じり、とニャゴとの距離を取る。
……あれ、なんか変だぞ? 前戦ったヴォルフなら、警戒して離れることはあるけど、こんな風には……
「――実に、残念だ。我としても、キサマはここで噛み潰したかったのだが」
「……ニャガ?」
不意に、気付く。洞窟の奥に、何かがいる事に。
『ヒャァァアアアハハハハーーーーッッ!!!』
うんざりするような甲高い声。でもそれは、その声の主ではない。
音が聞こえるのは、その影の傍らに現れた、青いウィンドウ。
『準備が整いマシタヨォォ、ヴォルフ様ァ!
緊急脱出をいじクリ回しマシマシタノデェ、そのニンゲンを使ってェ、街の破壊計画、最終段階を始めチャイマショォッ!!』
緊急脱出。街の破壊。クラックの声。
そして洞窟の奥にいるのは……間違いない、ショウだ!
「な、んで……どうして!? クラックはクロヤが……」
「どうやってニンゲンが我らの居場所を知ったかは知らんが、クラックの臆病さを甘く見たな。愚かなことだ」
「テメェ、逃げんのか!」
「不服だがそうだ。安心しろ、ニンゲンを追い出したら決着は付けてやる。今度こそ……そこの邪魔ものはナシでな」
「ざっけんな! 待てこら!」
ニャゴの叫びを無視して、ヴォルフはショウのアバターの近くまで下がる。
ショウのアバターは、うつろな目をしたままウィンドウを操作し……
「まっ……待って、ショウっ!」
ヴォルフと共に、光になって消える。
ああ、まただ。
ぼくはまた、ショウを目の前にして、何もできなかった。
「……っっ、ぼさっとしてんじゃねぇ、街までもどんぞ!」
「う、うん……! でもダメだ、またぼくのアバターがバグらされてる!」
いつの間に。いやそれより。
ここから街まで、自分の足で戻らないといけないってことだ。
(間に合うのか……!?)
このままじゃ、街の人たちが危ない!
【続く】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます