幕間
05
「欲だ。欲に歯止めをかけてはいけない」
「欲しいモノがあれば、いかにしてそれを得るかを考えよ」
「お前にはそれが出来るハズだ。貴堂の名を継ぐ、お前には」
貴堂クロヤにとって、貴堂ゴウライはあまりいい父ではなかった。
常に仕事にばかり気を向け、クロヤに対して愛情を注ぐタイプではなかったからだ。
まれにクロヤへ掛ける言葉も、父が子に掛ける言葉というよりは、企業の長が後継者へ向けて掛ける言葉でしかなかった。
それ自体を、クロヤは不満に思ってはいない。
母や周囲の人間がクロヤの事をよく気にしてくれたし、KIDOという大企業を背負う責任がどれほどのものか、理解できないわけでもなかったから。
その分、幼いクロヤの興味は学問に向いていた。
そして、彼の興味をいち早く感じ取り、受け止めたのは……家族ではなく、KIDOの研究員であった新島アラヤだった。
新島アラヤはクロヤに研究室への出入りを許可し、時間さえあれば研究の内容について丁寧に説明してみせた。
クロヤにとって、その時間は彼の知的好奇心を一番に満たせる時間であり、他の何にも代えがたい幸せであった。
……貴堂ゴウライと新島アラヤの思想が、相容れなくなるまでは。
*
(……このままでは、貴方の研究はKIDOと共に崩れ去ってしまう)
神殿の奥。
AIによって再現された博士の言葉を聞きながら、貴堂クロヤは改めて自分の目的を確認する。
(いかにしてそれを得るか。……エラーを正し、KIDOを手に入れてしまえば良い)
父の事は尊敬している。恨みも無い。
だが父の教えに従えばこそ、クロヤにとって父を蹴落とすことは必然である。
『……。ヴォルフとクラックの位置情報は送信した。だがすぐにでも移動を開始するだろう。すべき事があるなら、急ぐべきだ』
新島博士のAIは、ややあって全ての情報を話し終える。
クロヤは送られた全ての記録を確認して、ユウトと共に神殿を後にする。
やるべきことはもう決まっている。
ヴォルフとクラックを、一刻も早く
それが、新島博士の研究成果を守る一番確実な手段なのだから。
【続く】
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