深層の真相・2

「ニャゴ! 炎爪撃えんそうげき!」

「ニャッ! ガァァァッッ!!」


 爆炎がコロシアム上に吹き荒れる。

 石の巨人に向けて大技を放ったニャゴは、肩で息をしながら着地した。

「やったか?」

「いいえ、これは……」

 貴堂クロヤは冷静に煙の向こうを見極める。

 ……と、炎を切りさいて、巨大なレーザー斧がニャゴめがけて振り下ろされた。

「ナイト」

 ガィン! その斧は、クロヤの一言で動いた黒騎士が大剣で防ぐ。

 だけど……ぐぐ、と押し込まれ、黒騎士は少しずつ膝を折る。

 見た目通り、すごい力を持ってるみたいだ。

 それに……


「あんまり効いてないね……」


 煙が晴れ、巨人の姿がまた見えるようになってきた。

 でもその身体に大きな傷は無い。ほんの少し、ニャゴが爪を当てた所からデータを漏れ出させてはいるけど……


「流石は新島博士、と言ったところでしょうかね。オリジナルはやはり強い」

「オリジナル? っていうか、ガーディアンってなんなのさ」

「サイバディアを守るためのセキュリティですよ。新島博士は、あれを使ってサイバディアがKIDOの自由にならないようにした」

「……? サイバディアはKIDOのものじゃないの?」


 元々はシミュレーターだ、って言ってたけど……

 クロヤの言っていることが、ぼくの中でイマイチつながらない。


「無論その通りです。

 新島博士はシミュレーターとしてこの世界を作り、父……いえ、KIDOの社長である貴堂ゴウライは、それを利用して金儲けを企みました」

「ごめん今さらっと何か言った?」

 父? 父って言わなかった? KIDOの社長が?

 でもぼくの疑問を完全に無視して、クロヤは更に続ける。

「貴堂ゴウライの思想と新島博士の思想は相いれなかった。なので新島博士はサイバディアにいくつかのプロテクトをかけ、姿を消しました」


 このガーディアンも、そのプロテクトの一環です。

 クロヤはそう言いながら、青いウィンドウをチェックする。


「……やはりダメージは通っていませんね。強固なプログラムによって阻まれている。やみくもに攻撃しても、ガーディアンを倒すには至らないでしょう」

「だったらどうしろってんだ!」

 だんっ! ガーディアンの側面から、ニャゴがツメの一撃をあびせる。

 ほんの少しガーディアンの姿勢が揺らいだところで、ナイトクルスは斧を弾いて脱出。……でもやっぱり、ニャゴの攻撃じゃダメージは無い。

「……。まずは表面の傷を増やしてください。その上で、ナイトが叩きます」

「ナイトの攻撃なら通るの?」

「いいえ。ただ一度内部まで剣を突き立てられれば、その情報から対抗プログラムを組めます。……それも、長くは通用しないでしょうが……」

 つまり、一度ナイトの剣を通せれば、その後しばらくはダメージを入れられる状態になる、らしい。

「信用していいのか、ユウト」

「まぁ……ウソつく理由ないでしょ、今は」

 ここまで来た以上、クロヤの作戦に乗るしかないんだ。

 とは、いえ。

「手伝う分、後でもっと色々聞かせてもらうからね」

 クロヤから聞きたい話は山ほどあった。

 ……もしかしたら、その中に、ヴォルフが言っていた『滅ぼす』理由も分かるのかもしれないし。

「ええ、もちろん。全ての情報はこの奥にありますので」

 ぼくの言葉に、クロヤはうなづく。

 全て。出来ればショウの居場所とかも分かればいいんだけど……


「じゃあ行くぞ、ユウト!」

「うんっ! ええと、まずは……ナイトの近くに走って!」


 ニャゴとナイトクルスを合流させる。

 すると、巨人は二体を狙ってまた斧を下してきた。

「で、巨人の股下!」

「ニャガ!」

 ガィン! 振り下ろされた斧は、またナイトクルスが受け止める。

「……」

 ナイトは何も言わない。ちょっと悪いことしたかなぁ、と思うけど、クロヤは「なるほど」と小さく言うだけだし、多分大丈夫。

 巨人の斧をナイトが防いでいる間に、ニャゴは巨人の股下を潜り抜ける。

 それから、ぐぃんっ! ツメを立て、方向転換するニャゴ。


「そこだニャゴ! 巨人の背中に炎爪撃っ!」

「ニャッ、ガ!」


 ぼぅん! 爆発と共に、巨人は大きくよろめいた。

 ニャゴはそのまま巨人の身体を駆け登り、頭を蹴って大きく横に跳ぶ。

 ナイトクルスは斧を弾き、ぐっと腰を落とす。

 巨人はたった今自分を攻撃したニャゴに狙いを変えて、向きを変えた。


「ナイト、やりなさい」


 ダンッ! ナイトクルスの甲冑が重くコロシアムの地面を蹴る。

 黒騎士は一筋の黒い線のようになって、思い切り巨人の傷跡に剣を突き立てた。

「……データの転送を確認しました。離れて良いですよ、ナイト」

「……」

 ザンッ! ナイトは剣を大きく振りながら引き抜く。

 だが、剣を突き立てたにも関わらず、巨人の身体から漏れるデータ光は少ない。

「やはり、内部の自己修復能力が高いですね。戦闘用のAIは単純な設計ですが、倒されなければ問題がない……ということでしょう」

「ゴタクはいい! 攻撃、効くのか!? オレはもう腹が減ってしょうがねぇんだがっ!?」

 そうだ、ニャゴの時間制限! 神殿をここまで走って来た上に、大技二発だ。もういつネコに戻ってもおかしくない。


「問題ありませんよ。いくつか試作品がありますし、データを落とし込むだけで……ほら」


 たんっ。クロヤがウィンドウをタップすると、彼の目の前に一振りの剣が現れた。石の巨人が持っているのと似た、レーザー刃の大剣だ。

 ナイトクルスは、石の巨人に視線を向けたまま、クロヤの元へと戻ってその剣を握り締める。代わりに、元の剣は光になってクロヤのウィンドウに吸い込まれていった。


『……データ流出を感知。危険レベル変動。プログラムの書き換えを行います……』

「巨人、なんか言い出したよ!?」

「ああ、やはり自己アップデートの機能も付いているようですね。……全く、新島博士の技術レベルには恐れ入りますね」

「大丈夫なの!? その剣、効かなくなるんじゃ……」

「ですから、長くは通用しないと言ったのです。ですが問題はありません。その前に決着を付ければいいのですから」


 クロヤはそう言って、スキルウィンドウを開く。

 ……そういえば、黒騎士のスキルなんて、今まで見たことなかったな……


「――ナイト、」


 黒騎士が、手にした剣を下に構え、腰を落とす。

 巨人とは、まだ距離があった。ここから斬っても届かないだろう。

 けれど黒騎士は沈黙を守ったまま、クロヤの言葉をただ待つ。


虚構裁断ジャッジメント


 ザンッ!


 クロヤの言葉が終らぬ内に、黒騎士は構えた剣を振り上げた。

 瞬間、黒い線が騎士の腕から巨人の身体に延び……

 ……気付けば、既に巨人の身体は真っ二つになっていた。


(なにが起こったんだ、今の……?)


 戸惑うぼくに、クロヤは穏やかに微笑みながら「先へ進みましょう」という。

 見れば、コロシアムの奥にあった扉が、にぶい音を立てて開き始めている。


「ニャガ……アレを倒すのはメンドくさそうニャゴな……」

「うん。……いや、なんで倒す前提なの……?」


 いつの間にかネコに戻っていたニャゴが、ぼくの肩に乗って来る。

 戦わないで済む相手とは、出来れば戦いたくないんんだけど。

 だって、クロヤ達と戦うってことは、ニャゴが消されるかどうかの瀬戸際に立つってことで……


(……ゲーム、だと思ってたんだけどなぁ)


 気楽に、ただ実力を確かめ合う戦いなら、いくらでも楽しめるのに。

 そもそもこの世界がゲーム用に作られたわけじゃない、と聞いて、ぼくは更に心が重たくなっていた。


「……とにかく、行こっか」


 進む以外に、道はないのだから。


【続く】

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