神殿
深層の真相・1
キュィィィィ……と甲高い音が響いた、と思った次の瞬間。
キィンっ。光の筋が一直線に飛んできて、壁を、破壊する。
「ニャガァッ!? なんか撃ってきたニャゴ!」
「ビームだ! あいつらビーム撃ってくるんだけど!?」
「防衛プログラムですからね。サイバクルスとちがって武装してますよ」
鍬形村の戦いが終わった後。
ぼくとニャゴは、クロヤに連れられて地下の不思議な空間に来ていた。
大昔の神殿みたいなその場所には、タイヤやプロペラで動く機械の兵器がたくさん並んでいて、ぼくらを見つけるたびビームやレーザーソードで攻撃してくる。
「聞いてないんだけどね! こんな危ない場所だなんてさぁ!?」
「ユウト君たちなら平気だと思ったのですよ。ナイトもほら、この通り」
ぼくら目掛けて放たれるビームを、ナイトは大剣ではじき返した。
そして一足に防衛プログラムに近づいて、一太刀で両断してしまう。
「それとも、ネコクルスには難しかったですか?」
「ニャッガァァァ! こいつ言いやがったニャゴ! おいユウト肉出せ肉!」
「ニャゴもすぐ乗せられないでよ!」
「ユウト君にも乗ってもらいますよ、ライオクルスに。……いちいち相手はしていられないので、一気に駆け抜けてください!」
クロヤはナイトクルスの背につかまって、ぼくらに言い放つと、一足先に神殿の奥へ走っていってしまう。
「ああ、もう……なんだってこんな……」
「むがむがっ……んっ……ぷは。しょうがねぇニャゴ。必要だってんならニャゴたちはやるしかねぇニャゴからな……」
お肉を平らげたニャゴは、ライオクルスへと姿を変える。
その暖かな背中に乗って、ぼくたちはクロヤを追いかけた。
……ぼくたちがこんな目に遭っているのには、理由がある。
*
数時間前のことだ。
「……現時点では、操られたアバターを取り戻す事は難しいですね」
「そんな! KIDOのプログラムなんでしょ!? どうして……」
「バグが精神に影響を及ぼしていますから。
無理にこちらから操作すればどうなるか分かりません」
ぼくはクロヤに、ショウのアバターを取り戻せないかと聞いた。
その答えが、これだ。
「精神に……って、どういうことニャゴ?」
「依存状態と言えば良いのでしょうか。アバターを操られたユーザーは、サイバディアからログアウト出来なくなっている」
ぼんやりと、眠ったようにサイバディアに居続けてしまうのだとクロヤは語った。もし強制的に切断したとしても、気付けばまたログインしている。機器を遠ざけても、意識がハッキリする事はない。
「ショウも……そうなってるってこと?」
「おそらくは」
そうか、それでショウは誰とも連絡が取れなくなってたんだ。
あの時、無理にでもショウを引き留められていたら。
ぼくの目の前にいたんだ。ずっと探してた友だちが。なのに……!
「……ユウト。もしあん時止められてなかったら、喰われてたかもニャゴよ?」
「それでも! ……だってぼくは、そのために……」
何にも出来なかった自分がイヤでイヤで仕方ない。
友だちを奪ったヴォルフたちを許せない。
暗い感情が、ぼくの胸をずっと渦巻いていて……
「ユウト君。友だちを助ける手段が、一つだけあります」
そんなぼくに、貴堂クロヤは薄笑いを浮かべて語り掛けた。
張り付いたいつもの笑みとは……少し雰囲気が違う。
「ナイトがクラックの腕を確保してくれましたからね。結果として、ワクチンプログラムの用意は可能だと分かりました」
「ホントっ……!?」
「えぇ。ですがまだ情報が足りません。根本的な問題の解決も必要ですし……」
そこで、とクロヤはぼくに提案する。
これからある場所に向かうから、協力してくれないか、と。
「ある場所、って?」
「サイバディアの、サーバーエリアです。そこには、サイバディアの様々な情報が蓄積されている。ボクたちの望む情報も、きっと眠っていることでしょう……」
*
……というわけだった。
でも、これ絶対おかしいよね?
「なんで! デバッガーのクロヤがサーバーに入るだけで攻撃されてるわけ!」
「残念ながら、このエリアは既に封鎖されたエリアなのですよ。ボクは勿論、他のKIDOの人間も立ち入ることは出来ない……」
「意味わかんない!」
「っ、来るぞユウト!」
ぶんっ。ニャゴが大きく身体を振る。ぼくは落ちないように必死につかまりながら、目の前に並んでるそいつらをみた。
また、機械兵器だ。ぼくたちを見て今にも攻撃しようとしている。
「ニャッガッ!」
だけど、ニャゴが壁を蹴ってすばやくそいつらに接近。ツメでカンタンに倒してしまう。
ビームは怖いけど、一度近づければこっちのものだ。バグクルスの方がよっぽど強い。
「楽勝だなユウト! ハッハッハ!」
「油断しないでください。奥にはもっと厄介なのもいますから」
「あ、そうなの? ……でもさ、クロヤの言ってることも、これも、さっきから全部おかしいよね?」
「……? オレにはよくわからん。どういうことだ?」
「あのね、ニャゴ……」
まず一つは、サーバーエリアがサイバディアの内部にある、ってことに違和感があった。そういうのって、現実世界で処理できるようにするものじゃないの?
運営側の人間が誰も入れない、っていうのもおかしな話だ。普通は専用の権限とかを使って侵入出来るようにとか、するものだと思う。
三つめは、そもそもどうしてこんな機械兵器がいるのか、ってこと。
サイバクルスとは全然違う見た目だし、没データって感じはしない。本当にこのエリアを守るためだけに作られたみたいに見える。
「これじゃ、まるで遺跡に入ったドロボウだよ」
「なるほど、それは面白いたとえですね」
「面白いか……?」
「面白くない……」
「……そうですか。ボクは気に入りましたが……さて」
どこから説明しましょうかね、とクロヤは考え込む。
思えば、クロヤは最初会った時から怪しいヤツだった。
もしかして、デバッガーっていうのもウソだったりして……
「……ああ、ボク自身への疑いは無用ですよ。必要なら社員証でもお見せいたしますし、身分については何ら隠す所はありませんから」
そんなぼくの疑問を感じ取ったのか、クロヤは先に答える。
それからややあって、クロヤは何かを決心した様子で口を開く。
「ええ、この際お伝えしてしまっても問題はないでしょう。
実の所、この『サイバディア』という空間は、元々ゲーム用に作られた空間ではないのですよ」
「……えっ、そうなの!?」
「まぁ……そうだろうな」
驚くぼくとは対照的に、ニャゴは落ち着いた様子だ。
まるでそれを知っていたかのように。
「この世界は、元はただのシミュレーターだったのです。
いつか、地球という星が人間の住めない環境になった時のため……
新たな人類の移住先として、天才科学者新島アラヤが生み出した、電子の星」
それが、このサイバディアなのだ。
クロヤの言葉に、ぼくは言葉が出ない。
「地球が、って……」
「安心してください、それは遠い未来のお話ですよ。
ああ、それより注意してください。この扉の先には……新島博士お手製の、凶悪なガーディアンが待機していますから」
ふふ、と微笑んで、クロヤはすぐに扉を開く。
扉の向こうには、巨大なコロセウムのような空間が広がっていて……
……その、中心には……
『侵入者を検知 破壊します』
……レーザー刃の斧を手にした、巨人の石像が立っていた。
【続く】
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