幕間

02

「無事に脱出出来たようですね」


 貴堂クロヤは、一連の戦いを観ていた。

 正確には、綱木ユウトの位置をマップ上で確認し、一部の音声ログを拾って状況を確認していた。


 当然、その気になれば助けに行くことも出来たし、最悪の場合は打って出る心づもりもあっただろう。

 だが、綱木ユウトの大胆な作戦によりその必要はなくなった。

「思いの外使えますね、綱木君は。……それより、問題は……」

 貴堂クロヤは考える。

 スパイダークルスの能力について、だ。

 綱木ユウトたちとの戦いで、スパイダークルスについて分かった事は少ない。

 しゃべること。その鳴き声がうるさいこと。糸を吐く事。


「……本当にそれだけだと、思います?」


 小さく首をかしげて、貴堂クロヤは目の前の黒騎士に問いかけた。

 黒騎士は今、ガラスのカプセルの中でじっと立ち尽くしていた。

 その瞳は貴堂クロヤを捉えているが、反応はない。

 貴堂クロヤも、本当に返事を求めていたわけではなかった。

 ただ口に出して考えたかっただけだ。

 やがて彼は、自分の中で勝手に思考を続けていく。


「綱木君のアバターがバグに侵されたのも気になりますね。攻撃を受けたかどうか、モニターでは分かりませんでしたし……」

 なにより、バグクルスの多さだと、貴堂クロヤは続ける。

「あれが全て自然発生したと考えるのは、少し無理がありますよね。バグクルスが自然発生するのなら、報告件数が少なすぎる」


 デバッガーである貴堂クロヤの元には、サイバディア内で起きたバグの情報が全て入って来る。

 自然発生しているなら、もっとプレイヤーや他のデバッガーから情報が送られてくるはずなのだ。しかし、現状それはあまりに少ない。

「バグを産み出す手法がある、と捉える必要があるかもしれませんね。それと、野生のサイバクルスを統率する方法。……いや……?」

 そこで貴堂クロヤは言葉を切った。

 厄介やっかいな想像が頭をよぎったからだ。だがもしそうなら、綱木ユウトの言っていたこととのつじつまも合う。


「……確認しなければなりませんか」


 ふぅ、と貴堂クロヤはため息を吐く。

 しかしその顔は、どこか晴れやかだった。


「父上がここまで致命的ちめいてきなミスをしてくださるなんて、有難いことですね。

 ……さて、パーツの調整は終わりました。

 これから実戦テストに移りますよ、ナイト」


【続く】

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