探索!手掛かりを求めて!・3



「ニャッ、ガァァァッ!!」


 飛び掛かってくるリザードクルスを、ライオになったニャゴが迎え撃つ。

「ニャッ、ニャガッ、ニャッ……!」

 一体吹っ飛ばせばまた一体、それを吹っ飛ばせば更にもう一体。

 敵の攻撃は止むことなくニャゴを襲う。

(マズいぞ、この状況……!)

 洞窟の中、ぼくらはクラックと名乗るスパイダークルスの攻撃を受けていた。

 洞窟は、ライオクルスが暴れるのには問題ないくらいの広さがある。でも逃げられるような場所は無いし、出入り口も一つだけだ。

 出入口にはクラックがニタニタしながら陣取っていて、次から次へとバグクルスを送り込んでくる。

(ログアウトは……ダメだ、エラーになってる)

 いつの間に攻撃されたんだろう? ぼくのアバターは何故か軽いバグを起こしていて、脱出が出来る状況じゃない。


「ニャガァ……イライラする! 一気にかかってきやがれ!」

「オオオ、恐ろしい事をおっしゃいマスネ! 貴方を倒せるクルスは貴重ですノデェ、ワタシとしてはじわっじわっと削っていきたいのデスヨォ~?」


 おかしなイントネーションで話すクラックが、不気味で仕方ない。

 スパイダークルスって名乗ってたけど、その身体は……手足の数はさておき……人間のアバターにも見える。一体なんなんだ、こいつ?

 でも、今考えるべきなのはきっとそこじゃない。

 ここからどう抜け出すか、だ。

「……ニャゴ、あとどれくらいライオでいられる?」

「わっかんねぇ。さっき飯食ったから、もうちょい大丈夫だろうが……」

 多分、長くはないんだろう。

 それを察して言葉に詰まるぼくに、ニャゴは「心配すんな」と声をかける。


「オレはここにいる誰よりも強い。お前を守るくらいは出来る」

「……ニャゴ……」

「オヤ? オヤヤヤヤ? 守る? とおっしゃったァ?」


 かくんかくんと首を振りながら、クラックが不思議そうに声を上げた。

「ナゼ? そんな必要がドコにあるノデス? 見捨てれば逃げるチャンスがあるかもしれませんノニィ?」

「っ……」

 クラックの言葉で、気付いた。確かに、ニャゴだけなら無理矢理この包囲を突破して逃げることも、出来るんじゃないのか?

(……また、ニャゴのジャマになってるの……?)

 不安で胸が押しつぶされそうになる。ニャゴを助けたくて一緒に来たはずなのに、ニャゴに守られてるんじゃ……

「ハッ。そもそもオレだけじゃ、ここでテメェと戦えてねぇんだよな、これが」

 だけどニャゴは、クラックの言葉を笑い飛ばした。

「ムカつくけどな、オレだけじゃテメェらを叩き潰すのはメンドいんだ。……だからオレにはユウトが必要だし、だから守る」

「アラアラァ、ニンゲンを利用してるということデスネ! ヒャッハ! それなら分かりマスヨ! 一方的に道具にされるのは腹が立ちますカラネッ」

「あ゛あ゛……? 何言ってんだお前……?」

「オ分かりでナイ? ニンゲンはワタシたちサイバクルスを道具にしますカラァ、逆に道具にし返すノデスッ! 我々、気が合いマスネッ!」

「誰がテメェなんぞとっ……ニャガッ!」


 話しながらも、敵の攻撃は止まない。

 リザードクルスに、バットクルス、ドクガクルス……

 一体一体は小型か中型のクルスで、ライオの敵じゃない。だけど……

「また、起き上がって来た……」

 ニャゴの攻撃で壁に叩きつけられたクルスは、体中からデータを吹き出しながらも、しばらくすると起き上がって襲ってくる。

 まるでゾンビかなにかみたいで、意志を感じない。不気味だ。

 それに、倒せないから数もなかなか減らない。クラックも、やっぱりニャゴがネコクルスに戻るのを待ってるんだ……

「アー……言いにくいのデスガ、ライオクルスサン?

 そのニンゲンを守っても、もう意味ナイナイデスヨォ?」

 その証拠に、とクラックはたくさんある腕の一本をぼくに向ける。

 と、一体のドクガクルスが、標的をぼくに変えて迫って来た。

 マズい、やられる! 思わず目を閉じた瞬間……

「ユウト! っっ……」

 ニャゴの声と、押し殺した悲鳴が洞窟に響いた。

 目を開けると、ニャゴは肩からデータを噴き出している。……ぼくをかばって、ドクガクルスの攻撃を受けたんだ。

「ニャゴ、そんな、ぼく、」

「ホラホラァ! アー、マー、ここまでは使える道具だったのカモ、デスガァ……もうイイんじゃアリマセン? 使えない道具は捨てるベキ、らしいデスヨォ」

 乾いた拍手の音が反響する。腹を抱えて、笑っている。

 クラックの言葉に、ぼくは何も言い返せない。

「道具……道具ね……」

 ふらつきながらも、ニャゴは敵に向き直り……ザンッ!

 ドクガクルスを吹き飛ばすと、ニャゴはぼくを守るように、前に立つ。


「ソウデス! ニンゲンは道具にすべきデスヨォ、そうでないと我々……」

「知るかボケ! さっきからキンキンうるせぇんだ黙ってろッ!」

「ヒャッ!?」


 グルル……とニャゴは低く、うなる。

 クラックは悲鳴だか笑いだか分からない声を上げると、全ての腕を上げて口を閉じた。

「オレはテメェが嫌いだ。声も見た目も嫌いだが何より言ってる事が気に入らねぇ。も同じだ、だから仲間にはならねぇッ!」

「デ、デスガそれでは我々困るノデェ……」

「だからテメェらが困らねぇようにオレが直々にブッ倒してやるって言ってんだ! つまんねぇ言葉ウダウダ並べてんじゃねぇ耳ざわりだッ!」

 吠える。洞窟が小さく振動して、砂がぱらぱらとぼくらの上に落ちてくる。

「テメェらは嫌いだ。あの何とかっつーガキも嫌いだ。オレを好き勝手使おうとするヤツは全員嫌いだッ! オレはオレの好きに生きるって決めてんだよッッ!」

 溜まった不満を爆発させるように、大騒ぎしながらニャゴは周りの敵を蹴散らしていく。

 強い。やっぱりめっちゃ強い。……でも、敵は多いから状況は変わらない。

 ぼくは足手まといだ。ニャゴだけならこの勢いで抜け出せるかもしれないのに。


「テメェもなんだァその面は!?

 暗い顔してねぇでオレにもっと気持ちよく暴れさせろってんだよッ!」

「……。えっ、あっ、ぼく!?」


 ぼくは、ニャゴがぼくに叫んでいることに一瞬気付かなかった。

 でもそうだよね、怒るよね。ぼくがいなけれなさっきだって、ニャゴがダメージを受ける事は……

「そうだテメェに言ってんだ! テメェは助けんだろオレを! あとなんだ、ジョーだっけ!? トモダチ! だから……」

「ジョーじゃなくてショウ」

「だぁぁっ!! なんっでテメェはそういう事はきっちりツッコんで来んだ意味わかんねぇッ!!」

 落ち込んでたよなテメェは!?

 ニャゴはまたイライラしたように叫んで、怒りを敵にぶつける。

 もう滅茶苦茶な大暴れだ。敵が壁に叩きつけられるたびに、洞窟は揺れてたくさんの砂が落ちてくる。


「オレはッ! テメェと一緒に戦うって決めてんだよッ! ニンゲンがザコなのは端っから知ってんだ、だから代わりに頭動かせ! それがテメェの役割だろうがッ!」

「……そっ、か……そうだよね……?」


 悪口なのか応援なのか何がなんだか分からないまま、それでもぼくには、ニャゴの言いたいことが分かった。

 作戦はぼくが考える。これまでそうしてやってきたんだ。

 クラックの言う事なんて関係ない。ぼくたちは、パートナーなんだし……

(……落ち着け。余計なことは考えるな。今はこの状況をなんとかするんだ)

 抜け道は一つ。場所は洞窟。敵は大勢。時間はない。声が響いてうるさかった。砂がパラパラ落ちてきて……。関係ないなこれは。いや、待てよ……?


、って言ってたよね、ニャゴ?」

「おう」

「じゃあやろう、! ぼくを背中に乗せて!」

「ニャガッ!」


 ニャゴがぼくの服を噛んで、背中にぶん投げる。

 初めて乗ったニャゴの背中は、思っていたより熱くて、毛がふかふかで……


「オヤァ、逃げる体勢デスネ? デモ無理デスヨォ~?」

「無理かどうかはぼくたちで決めるから」

「アッ、ソーデスカ」

 ぼくが言い返すと、クラックはつまらなそうにため息を吐く。

 ニャゴに話しかけてる時と、なんか態度が違った。

 まぁいいか。今はそんなことより……


「ぶっぱなせ! 炎爪撃えんそうげき!」

「ニャッガァアッ!」


 紅に燃える炎の爪。ニャゴのスキルを、ぼくたちは……

 に、ぶち込んだ。


「ハイィ!?」


 ずぅぅん、と振動が全体に響きわたる。

 それからぴしぴしと、何かが壊れる音。


「ハッ……アア!? 全員退きナサイ!」


 察したクラックが、バグクルスたちを洞窟の入り口まで下がらせていく。

 だって、このまま洞窟にいたら、天井が崩れて潰されてしまうから。

「よし、今だニャゴ!」

「オオオ、しかしライオサン達は逃がしませんヨォ!?」

 後を追って出ていこうとするぼくたちだが、クラックが口から糸を吐き、洞窟の入り口に網を張る。

 それに、入口の周りは他のバグクルスで固めてある。無理に出ようとすればその時こそ……って事だろう。


「関係ねぇな! 破壊だ破壊!」


 だけどニャゴには全然意味が無い。

 ニャゴは、崩れ落ちてきた洞窟の岩を、前脚で思いっきり吹っ飛ばす。

「糸がァッ!?」

「岩はまだまだあんだよォ!」

 蜘蛛の巣は岩の重みに耐え切れず、壊れる。

 そのままニャゴはいくつかの岩を吹っ飛ばして、入口に固まっていたバグクルスたちを散らし……一点、空いた空間を見つけ出し……


「行くぞ、ユウト!」

「うんっ!」


 ずぁっ! 地面を強く蹴って、駆け出した。

 ニャゴの背中で感じる風は、ぼくが自分で走るよりずっと強くて、気持ちよくて……空に近い。


「ハッハハハハ! 大成功だ、このまま逃げるぞユウト!」


 全員ブッ飛ばしたかったがな!

 笑いながら叫ぶニャゴに、ぼくも思わず笑ってしまう。

 気掛かりなことは増えたし、頼みの綱の洞窟も壊してしまった。

 だけど今だけは、ニャゴと一緒に走れることが、うれしかったんだ。


「ガハハハハ……ハ……ニャッ……ニャゴ……」

「あああ!? 待って今もどらないで! もう少しだけこらえてぇっ!?」


【続く】

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