探索!手掛かりを求めて!・2
「ブルヴァアアア!!」
「ニャッ……グッ……!」
バイソンクルスの突撃を、ニャゴが両の前足で受ける。
だけど、抑えきれない。ずざざ、と音を立て、ニャゴは見る間に大木まで押しやられようとしている。
「ニャゴ、力だけで勝負しちゃダメだ!」
「っっ、じゃあどうするんだ、ユウト!」
バイソンクルスの突進は強力だ。
正面からぶつかってちゃ、いくらライオ状態でも耐えきれない。
ニャゴがバイソンより強い所があるとしたら……
「木を利用して、上に跳べる?」
「やってみる!」
押し込まれるニャゴ。ぼくが合図すると、後ろ足で木を
「ブルァッ!?」
急に標的が消えたから、バイソンクルスは勢い余って大木に激突した。
ずしん、と音が響いて、まだ青い葉っぱが何枚も降ってくる。
ちいさなイモムシのクルスが、ぺしゃっと地面に落ちてあわてて逃げていった。
「ぶるっ……」
もちろん、木にぶつかったくらいでやられるバイソンでもない。
へしゃげた木から頭を抜いて、ニャゴを探し辺りを見回す。
でも、ニャゴはどこにもいない。
まだニャゴを見つけられないバイソンは、次の標的をぼくに換える。
「ブルッフ……」
がっがっと
来る、と思った瞬間、その大きな角が目の前に迫って――
「――オレに背中をみせたら、食ってやるっつったよな?」
だけど、バイソンの身体はぼくの顔すれすれで地面に倒れた。
ニャゴの強烈な前脚が、バイソンの背中に直撃したからだ。
ずしゃあん、と音を立てて崩れ落ちるバイソン。
危なかった……ぼくは冷や汗をかきながら、そっとバイソンから離れる。
「良い作戦だっ……た~……ニャゴよ、ユウト」
しゅぅぅん、と音を立て、ニャゴがライオから元の姿に戻る。
「ありがと、ニャゴ。……でももうちょっと早くても良かったんだよ……?」
「そこはニャゴなりのタイミングニャゴ、な。……あ~、っかし……」
腹減ったニャゴなぁ。
食べたばっかりとは思えないニャゴの発言に、ぼくは苦笑いするしかない。
仕方のない事とは言え、この調子じゃいくらご飯があっても足りない。
「じゃあニャゴは食べてて。ぼくは、さっきの人たち探してくるから」
「ニャガ」
*
「すごい、ホントに倒したんだ……」
「パッタタタ! パタタ!」
女の子が意外そうに言うと、かたわらの小鳥のクルスが嬉しそうに騒ぐ。
……まぁ、小鳥って言っても全長四十センチくらいはあるんだけど。
女の子のユーザー名は『アリア』。
パートナーのサイバクルスは、パロットクルスの『パッたん』。
森で動画を撮影していたら、バイソンクルスに出くわしたらしい。
「動画? アリアさん、動画投稿してるんですか?」
「そうそう。アリアチャンネル、良かったら後でチェックしてみてね!」
「チャンネルってなんニャゴ?」
「っっふぁっ!? しゃべったぁぁっ!?」
びくぅっ、と身体をふるわせるアリアさん。
「あ゛? しゃべっちゃ悪ぃニャゴか?」
「いや、ビックリするんだよ普通……」
しまったぁ、とぼくは内心頭を抱える。
ニャゴに人前ではしゃべらないように言った方が良かったかな?
驚かれるし、変に拡散されたらめんどうなことになるのでは……?
「あの、アリアさん、出来たらこのことは、その……」
「え~、ナイショなの? もったいない……良いネタになるのに……」
「ニャゴは見せモンにはならんニャゴ」
ニャゴは言い切って、アリアさんと距離を取る。
そんなニャゴを見て、アリアさんは「しょうがないか」とため息をついた。
「恩人がヒミツにしたいって言ってるんだから、私もナイショにしておくね」
「ありがとうございます。それで……」
バイソンクルスに襲われた時、周りで何か変わったものは見なかったか。
もしくは、襲われた理由に心当たりはないか。たずねると、アリアさんはうぅんと考え込んでから、「関係あるか分からないけど」と答える。
「森で迷ってたら、洞窟みたいなところを見かけたんだよね。
そこに入ろうと思ったんだけど、パッたんが怖がっちゃって……」
「パタタぁ……」
アリアさんの言葉に洞窟の事を思い出したのか、パッたんはぶるっと身体をふるわせる。ちょっと気の弱いサイバクルスらしい。
「で、引き返そうとしたんだけど、すぐ近くにバイソンクルスがいてね? 何もしてないのに攻撃してきて、なんかアバターが変になっちゃって……」
治るかなぁ? と聞いてくるアリアさんに、きっと街に戻れば治りますよ、とぼくは答える。ぼくの時はそうだったし……
それよりも、聞き逃せないのはアリアさんの言葉だ。
「洞窟って……あの、もしかして、こんな場所ですか?」
「あっ、そうそうこの場所! 知ってるの?」
「知ってる、っていうか……」
ぼくが見せたのは、ショウから送られた洞窟の写真。
やっぱり、この近くにあるんだ。
「……詳しい場所、教えてもらえませんか?」
きっとそこに、何かの手掛かりがあるはずだ。
*
「で、来てみたけど……」
アリアさんの動画のログを頼りに、ぼくとニャゴは洞窟の場所を探し当てた。
写真を確認する。間違いなく、同じ場所。
「何もないね……」
見渡す限り、ゴツゴツした岩ばっかりの洞窟で……
少なくとも、人が棲んでいたような気配はない。
「いや、そうでもないニャゴよ」
だけど、ニャゴの目や鼻には色々引っ掛かったらしい。
「この黒い毛、覚えがあるニャゴ」
「毛? って、サイバクルスの?」
「ニャガ。これ、ニャゴにケンカ吹っ掛けてきたヤツの毛ニャゴ」
「ってことは、しゃべるクルス?」
ぼくが聞くと、ニャゴは頷いた。
(……やっぱり、繋がった)
しゃべるサイバクルスと、消えたショウ。
「じゃあショウは……この洞窟で、ニャゴと戦ったサイバクルスに襲われた?」
「可能性はあるニャゴ。……アイツなら、やりかねないニャゴな」
ニャゴの言葉に、ぼくの皮膚がざわっと鳥肌を立てる。
友だちが、襲われたかもしれない。
ニャゴにあの恐ろしいバグクルスをけしかけたようなやつに。
「ニャゴ、そのサイバクルスって、一体どんな――」
「――
ぼくの言葉をかき消すように、甲高いキンキンする声が洞窟に響いた。
はっとなってぼくらは洞窟の入り口を振り返る。
「アア全く! 我々の勧誘をケッてニンゲンなどど一緒にいるナンテッ!
「……あ゛? なんニャゴテメェはいきなりうるせぇニャゴな」
「態度がワルイッ! イイお話を用意してアリマスのに!?」
時々カタコトの混じる、不自然な言葉遣い。
洞窟の入り口には、一人の怪しい人間が立っていた。
(……いや、人間……か……?)
仮面をかぶった様な顔は六つの複眼を持っていて、よく見れば腕は四本、足も四本。まるで人間を蜘蛛の形にしたみたいな、いびつな姿。
「何なの、キミ。プレイヤー? それとも……」
「アッ……? ヒャハハハ! ニンゲンに見えますッ!? ワタシニンゲンに見えますゥッ!? 擬態が上手くなりましたァッ!? でも違いマスゥ!!」
手を叩く。腹を抱える。口を押える。足をバタつかせる。ステップを踏む。八本の手足をバラバラに動かしながら、それはガラスを擦るみたいな嫌な声で大笑いした。
「自己紹介しまショウ、ライオクルスサンッ!
ワタシ、ヴォルフ様の部下をやっております……スパイダークルス!
個体名をクラックと申しマスッ!!」
(っ、こいつ、しゃべるサイバクルス……!?)
ニャゴを襲った……ショウを襲ったかもしれないやつ!?
なんで今ここに。混乱するぼくを一切無視して、そいつはニャゴに話しかける。
「サテ、イイお話ですヨ、ライオクルスサンッ!
貴方のデータを返します。代わりに我々を手伝ってくだサイ!」
「それ断ったニャゴ。記憶の出来ねぇバカニャゴ?」
「ノンノンノン、覚えておりますヨ。ですからァ、
にたぁ、と人間に似た体が不気味に笑う。
瞬間、ニャゴはぶわっと毛を逆立たせた。
……少し遅れて、ぼくにも状況がハッキリわかる。
スパイダークルスの後ろに、何体ものサイバクルスの姿が見えた。
きっとその全てが、強力なバグクルス。
「死んでエサになるか、ワタシのお人形になるカ……
今ここで、選んでくだサイ?」
【続く】
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