僕は魔女に自白剤を飲まされた
黒幕横丁
僕は魔女に自白剤を飲まされた
「伊予君、君は私のことが大好きだよね?」
優しい彼女の問いかけに僕は口をぎゅっとつむんで必死に首を横に振る。
すると、彼女は残念そうに、
「そう……。まだ効き目は出ていないようね」
と呟いた。
ここで、僕、伊予雅也の現状を説明しよう! っていうか、説明させてくれ!
理科準備室で! なぜか椅子に体をロープで固定されて! 校内で魔女と恐れられているクラスメイトの陸奥佐紀さんの尋問を受けています!
事の発端は、陸奥さんが明日の授業で使う器具でどうしても取れないものがあるから予め取って欲しいのと頼まれたことだった。
クラスで地味目な僕に白羽の矢がたったのは正直うれしかった。なぜなら、陸奥さんは僕の意中の相手だから。
彼女には、校内で怪しい液体を開発しては人体実験をしているという噂があり、魔女と呼ばれていたけど、正直僕には彼女の人体実験の餌食になるだなんて全く思っていなかったし、今回のお願いだってただのパシリだと思ってホイホイ付いて行ったんだ。
その結果がこれである。
陸奥さんは僕を椅子に固定するなりクリアブルーの液体を僕に口に強引に流し込んだ。
味はというとなんだかミント系のすっとするような味で、僕はすんなりと飲み込んでしまった。
「さて、今回伊予君に飲ませたのは自白剤です」
「……自白剤?」
「そう。私の質問になんでもペラペラ答えたくなるお薬」
「!!!???」
ニコニコと飲ませた薬について説明する彼女に僕は驚愕する。
なんという薬を飲ませたんだ。僕はカタカタと震えだす。
というか彼女のターゲットにはならないと高を括っていたのになんでこういうことになっているんだ、とぐるぐると思考をめぐらせていた。
「さて、伊予君。今、何を考えているのかしら? 答えて頂戴?」
「どうしてこうなっているんだっておもっ……ハッ」
彼女の質問に僕はまるで間髪入れずに答えてしまいそうになって、口をきゅっと閉じる。
この自白剤、強力すぎやしないか? そんなペラペラと話したくなるものなのか。
「まぁ出来は上々ってところね。さて、本題に入りましょうか?」
え、本題なんてあるのか!? 僕は目を丸くして彼女を見る。
「伊予君、君は私のことが大好きだよね?」
陸奥さんがまさかの質問を繰り出してきたのだ。いや、好きだけど、大好きだけど、そんな自白剤で答えたら負けのような気がして、僕は必死に首を横に振ったのだった。
「おかしいわねぇ。投薬時間的にそろそろ完璧に自白してもいいと思うんだけど」
腕時計を見ながら彼女はそう呟く。まるでモルモットの観察をしているような彼女の鋭い目が怖かった。
「ど……うして……」
僕は勢い余って“好き”と言わないように慎重に言葉をつむぐ。
「どうして、自白剤を使って僕の君に対する気持ちを聞こうとしたの?」
「えっ?」
僕の問いに彼女は急に固まって、顔を紅潮させた。
「だって、私が伊予君のことが好き……だから、伊予君も私のこと好きだったらいいなぁって……もう、何言わせるの」
彼女は照れ隠しで僕の肩をバシンと強めに叩く。
ん? 陸奥さんも僕のことが……好き?
そのとんでもない事実に僕は脳内で一回反芻させてから、急に頬が熱くなってきた。
「僕も実は、陸奥さんのことが前から気になってて……」
「えっ、本当!? 嬉しい!」
陸奥さんは嬉しそうに僕に抱きついた。
両思いだったのかと分かったのが嬉しい反面、次に脳裏に過ぎったのは、
「え、もし、僕が陸奥さんのことを嫌いとか言ったらどうなってたの?」
「そのときはこれを飲ませようと思って」
陸奥さんはピンク色の液体を取り出す。
「……嫌な予感しかしませんが、それは?」
「私のことしか見られなくなる惚れ薬」
優しく笑う彼女に僕は引きつった笑みしか出なかった。
こうしてめでたく彼女と付き合うことには成功したけど、絶対に敵には回したくないと思った瞬間だった。
僕は魔女に自白剤を飲まされた 黒幕横丁 @kuromaku125
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