第8話 コロナウイルスとの戦争 そして未来の評価
コロナウイルスへの対策が長期化する中。
あまり指摘されていないことについて記しておきたい。
現在の対策が、世代間の争いを生み出す可能性についてだ。
ところで、先日発表された国家予算について覚えている方はいるだろうか。
コロナ対策の支出は増大の一途を辿り、一方で税収は極端に減少。
予算のうち、実に三分の二が借金。
言うまでも無く、これは異常事態である。
戦争に突入したのでもなければ許されない数字。
いや、我々は既にコロナウイルスとの戦争を決意した。
戦争を始めたのだと言って良いだろう。
さて。
日本が前回に行った戦争。つまり太平洋戦争について。私達は繰り返し教えられたはずだ。あれは勝ち目の無い、愚かな戦争だったと。
国力が十倍するアメリカに勝利する手段などないのに。
当時の人々は現実を直視せず、自らが勝てるという根拠のない幻想を抱き。
結果として国土を荒廃させ、後の世の人々に恐ろしい労苦を強いたのだと。
そして、一つ疑問を呈したい。
コロナウイルスとの戦いに勝ち目はあるのだろうか。
定義を明確にしよう。
現時点で、人類がコロナウイルスによって滅亡することはあり得そうにない。
人口70億のうち、1年間で1億人が罹患し、200万人ばかりが死亡。
遠い未来の視点から俯瞰すれば、かすり傷もいいところだろう。
我々の免疫系は確実に。そして問題なく作用しており。
進化の中で要求された性能水準。
すなわち、人類という種が継続できるレベルにまで病原体の被害を抑える。
その機能を見事に果たしている。
しかし我々はそれ以上の勝利を要求している。
果たしてそれは達成されるのだろうか。
達成されたとしても、失うものの大きさに見合うのだろうか。
人の医療技術は全て、自然界の模倣である。
様々な知識によりそれを純化・強化し、人が使用しやすい形に改良してはいるが。
基本的な仕組みは自然界にあったそれのコピーでしか無い。
そして数十億年の長きに渡り。
多細胞生物が構築した防御壁は、全てウイルスに突破されてきた。
コロナウイルスは次々に変異する。
仮にコロナウイルスへの対抗策があったとしても、我々の社会が同じような性質を持つウイルスに対し脆弱である事実は変わらない。
我々が望む勝利など、夢物語ではないのか。
そんな意見の表明は、きっと強烈な批判を浴びるだろう。
敗北主義者の発言だ。やってみなければ分からない。
ウイルスによって失われる命とその損失の大きさ。生じる人々の哀しみを思えばそんな発言など許されるべきではないと。
しかしそれは。
『アメリカとの戦争だってやってみなければ分からない』
そんな言葉と一体何が異なるのだろうか。
これから先の世界を想像してみよう。
地球温暖化が進み、自然災害は増加し。
それに対応するための労苦は若い人々が背負うことになる。
彼等が、私達よりも安楽に生きていける可能性は低いだろう。
そしてそれは、資源を好き放題に使った私達世代のツケなのだ。
ただでさえ重荷を背負うことが明らかな未来の人々に対し。
私達はどこまでのものを要求することが許されるのだろう。
老人を救うために彼等の時間を奪い。
今の時代を救うために、若者に多額の負債を押しつける。
そんな私達の行為は、未来の時代においてどんな評価を下されるのだろうか。
ひょっとしたら我々は今。
満州は日本の生命線だとか。
列強から落後することは国の破滅を意味するだとか。
それらに匹敵するほどの愚かな戯言を垂れ流しているのではないだろうか。
戦わずに負けを認めれば将来に禍根を残す。
全ての人々が協力するのが当然だと言い張って。
戦争という博打を始め。
負けたツケを次世代に払わせる道に向かっている。
そんな可能性はないだろうか。
ちなみに私は、国家が無限に債務を背負えるという類いの理論を信じない。
これまで存在した全ての経済理論は、最終的に「完全な間違い」か「どこかに不完全な部分がある」という評価を受けている。その事実を指し示すだけで十分だ。
コロナに罹った若者に後遺症が残ることがある?
それは事実であろうが、全ての疾病に後遺症はつきものだ。
インフルエンザの後遺症で、呼吸器に一生障害が残ることもある。
ワクチンを打った結果として後遺症が残ることも。
道を歩くだけでも、交通事故に遭って一生の傷を負う可能性があるだろう。
世界に必ずリスクはあり、重要なのはその確率。そして選択なのだ。
コロナウイルスのリスクよりも、私達が若者に押しつける負債の方が、彼等にとってより巨大なリスクである可能性。それを真剣に考えるべきではないのだろうか。
その視点を持たなければきっと。私たちはいつか復讐の対象となる。
人は死ぬ。必ず。
今の世代の人々はその数を減らす。
『人々の命を守るための行為だった』そんな思い出を抱く人は日々消えていき。
『様々な負担だけを残された』それだけを記憶した人々が歴史を語る日がいずれ来るのだ。
彼等はきっと、好き勝手に私達を断罪するだろう。
私達が過去の人々に対し、そうしてきたように。
軽蔑と怒りを込めて、この時代に生きた『愚かな人々』を語る日。
同意など不要だ。
反論したければ好きにすれば良い。
どうせ時はあっという間に過ぎゆき。
議論の余地など無い『事実』が我々の前に現れる。
この一文が正しかったかどうかは、その時に論じれば十分だと思う。
ただ酒を飲んだついでに、ふと浮かんだ未来の世界を想いつつ。
それを記し、残したいと思っただけだから。
過去と未来と現在と 有木 としもと @Arigirisu
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