好きなものゲーム

宮条 優樹

好きなものゲーム




「やっと座れたー」

「やっぱ、どこも混んでるんだな」

「日曜日だもんね」

「カフェ、席空いててよかった。荷物、こっちに置こうか?」

「ううん、大丈夫」

「注文、飲み物だけでよかった? 

追加でなんか注文しようか。ケーキとか」

「いいよ、大丈夫」

「そう? ……なんか、ごめんね」

「なんで?」

「いや、久しぶりにデートできたのに、あんまゆっくりできなかっから」

「別にいいよ。ちゃんと買い物はできたし」

「うん、でも、映画館も席いっぱいで見られなかったし」

「しょうがないよ、それは。チケット予約しておけばよかったね」

「うん……」

「けど、映画はまたいつでも見に行けるし」

「うん、ごめん」

「いいって。

今更こんなことくらいじゃ怒んないよ。

あたしたち、もうつきあいはじめて七年だよ? もっとひどいデートもあったじゃない」

「うん、ごめん……」

「だから、いいって。

もう帰りの時間まで、ここでひまつぶししていこうか。歩くの疲れちゃったし」

「そうだね……ごめん」

「だからいいってば。そういうのいいから、よくわかんないし。

なんか楽しい話しようよ」

「うん、えーと、なんの話がいい?」

「別に、なんでも」

「えーと……じゃあ、ゲームでもしようか?」

「ゲーム?」

「ひまつぶしになるから」

「ふうん……どんなゲーム?」

「お互いに、相手の好きなものを言っていくっていうの。

僕は、僕が知ってる君の好きなものを言う。君は僕の好きなものを言う。

交互に言って、はずれるか、言うことがなくなった方の負け。

相手よりたくさん言えたほうが勝ち」

「山手線ゲームみたいな感じ? 

うん、ひまつぶしによさそうだね」

「じゃあ、僕から言うよ。

まず、甘い物」

「うん、甘いものは好き。

けど、漠然としてるかなー。もうちょっと具体的には?」

「洋菓子か和菓子なら、断然洋菓子。

ここのメニューにあるやつだと……これ、チョコとナッツのタルト」

「当たり。じゃあ、次はあたしの番。

えーとね、まず動物は好きでしょ」

「具体的には?」

「やり返してきたなー。

犬派、猫派でいえば犬派でしょ。大きいのよりは、小型犬のほうが好きじゃない? ずばり、犬種でいうなら柴犬」

「ついでに言うなら、色は黒より茶色の子が好きかな。

じゃあ、僕の番。お酒はワインが好き。赤よりは白」

「当たり。

あなたはビールが好きだよね。あたしは飲めないんだけど」

「うん。

あとは、チーズも好きだよね。パスタとか、粉チーズをたっぷりかける」

「あなたは辛いのが好きだよね。パスタならタバスコいっぱいかける」

「最近のお気に入りは、駅前のスーパーで売ってるチーズコロッケ。

お弁当によく入れてる」

「あなたは食べるよりも、料理するほうが好きでしょ」

「そうだね。だから、君の好きなものはいろいろわかるな。

ポテトグラタンも好きだよね」

「ねえ、あたしの好きなもの、さっきから食べ物ばっかりだよ? 

すごい食いしん坊みたいじゃない」

「そうかな? じゃあ、次は食べ物以外のにするよ。

先に君の番だよ」

「えーっと、じゃあ、車。

あたしはくわしくないから、これ以上はつっこまないで」

「わかった。

それじゃあ、音楽は? ロックが好き。

お気に入りのバンドは、地元出身のBLUE BLOOD。

推しのメンバーはベースのミサキ。一番好きなアルバムは『KILL LOVE』」

「すごーい」

「つき合い始めの頃、毎日聞かされたから。ライブにもつき合ったし」

「聞かされたって何よー。いいけど。

あなたがカラオケでよく歌うやつなんだっけ。映画の主題歌のやつ」

「『明日の君に』?」

「そう、それ。あたし、あれ好きだなー」

「僕も好き。

君が歌うのだと、『七月の夜の夢』も好きだな」

「そう? あたしもあれ、好きな曲なんだー」

「他にも、まだまだあるよ。

小説読むのも好き。特に海外の、ミステリー小説はしょっちゅう読んでる」

「うん」

「色は青。服とかアクセサリーとか、寒色系のが好きで、自分で選ぶとよく同じような色でそろってる。

季節は夏。寒いのより暑いほうが好き。

海が好き。海の生き物も好き。イルカとか、ウミガメとか。

映画は、邦画が好き。シナリオがしっかりした、ストーリーの分厚い作品が好き。

部屋でぼーっと、なんにもしないでいられる時間も好き」

「すごいね。よくそんなにポンポン出てくるね」

「君は? 君の番だよ」

「えー、そんなにすぐに思いつかないかなぁ」

「一番わかりやすいのまだ言ってないよ、僕の好きなもの」

「え、そうだった? なになに?」

「君のことが好きってこと」

「…………」

「君のこと、僕が作った料理を何でも食べてくれるとこ、おいしそうな顔してくれるとこ、自分の意見がはっきりしているとこ、楽しいことをしているとき、本当に楽しそうに笑うとこ、うそをつかないとこ、誰にでも親切なとこ」

「……それじゃ、あたしの好きなもの、じゃなくて、あたしの好きなとこ、だよ?」

「そうだよ。

君のそういうとこ全部、僕は好きなんだよ。

君の好きなもの全部知りたくなるくらい、僕は君が好きなんだよ」

「珍しいね、そんなこと言うなんて」

「僕は、君みたいに、思っていることはっきり言えないことがあるから。

そういう、優柔不断なのは、よくないなとはずっと思ってたんだ。

君にそれで、嫌な思いもさせたかな、て」

「……正直ね、最近、よくわからないなって思うことあった、あなたのこと」

「ごめんね。

そんな僕のこと、君は好き?」

「…………」

「君は僕が好き。これは当たってる?」

「……うん、当たってる」

「僕も好き」

「うん……」

「君のこと、僕以上に知ってるやつはいないと思ってる。

僕のことを知ってくれてるのも、君以外にいないと思ってる。

お互い相手のことを知っている者同士、これからも一緒にいられたらいいと……一緒にいてほしいと思ってる」

「うん」

「こんなとこでこんな話してごめん」

「ごめん、は今はいいから。

大事な先を、ちゃんと話して」

「……僕と、これからもずっと一緒にいてほしい。

結婚、してください」

「……はい!」






               end.

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好きなものゲーム 宮条 優樹 @ym-2015

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