第272話 とある武装商団のたくらみ

 

 ふーむ。

 戦に大敗した上、内乱がおこり、国がほぼバラバラになったと聞いたのだが……。


 本当に内乱が起こった後なのか?

 その割には街に悲壮感がないな。

 それどころか活気があふれているといっていいほどだ。


 一体どういうことだ?


 収める地域のほとんどを失ったのではないのか?

 敗戦と領土の縮小が同時に起きれば、経済がひっ迫し国民にしわ寄せが来るはず。

 だがここの住民たちに国に対する恨みや不満といった空気がほとんど感じられん。


 なぜここまで住民達に活力がある?


 元領地だった国々から再度攻められる可能性だって高いはずだ。

 周辺の魔獣からの襲撃だってありうる。

 なのにここの住民にはそういった不安も感じられない。


 くそ、完全に当てが外れた。

 この街の住人に俺達の商品の需要はほとんどなさそうだ

 これなら道中にあった独立したばかりの国々のほうが、よほど商売の相手になるぞ。


 だが、どんなに活気があろうと戦があったのは事実。

 敗戦したのも事実。

 ここには魔窟も魔塔もある。


 たとえ物が売れなくとも、仕入れはできるか。


「おい、商売の方は適当でいい。仕入れのほうに力を入れろ!」


「わかりました師団長」


 さて、使えるものがたくさん仕入れられるといいのだが。




「報告です!」


「どうした?」


「どうやらこの街には孤児や親が仕事などで家を留守にする子どもたちを、預かる施設があるようです」


「となると、街を回るだけじゃ物色するのもなかなか難しいということか」


「はい、ほかの子ども達もその施設の敷地の中で遊んでいるようですし」


 ふむ、孤児院は聞いたことがあるが。

 街中の子どもたちとなると、あまり聞いたことがないな。

 だが、一か所に集まっているというのならば仕入れはやりやすいか。


「わかった、外に出ている連中を引き上げさせろ」


「了解しました」


「それと全員に出撃と撤収の準備をさせておけ」


「了解です」


 多少街は壊れてしまうが、まあいいだろう。

 せっかく一か所にまとまっているんだ。

 そこを利用しない手はないさ。



「全員揃いました、師団長」


「よし、それじゃあ行くか。魔動機兵を呼び出せ」


「は! 魔動機兵を呼び出せ!」


 ……。

 …………。

 ?


「どうした? なぜ魔動機兵をださない?」


「は! 魔動機兵を呼び出せ!」


 ……。

 …………。


「おい、なぜ魔動機兵をださない!」


「申し訳ありません」


 一体何をやってるんだ。

 一度、団長に団員の再編成を依頼するべきか?


「師団長、報告です!」


「どうした?」


「機兵乗りが全員、魔動機兵を呼び出せないそうです」


「は? どういうことだ?」


「わかりません。ですが全ての機体が呼び出しに反応しないそうです」


 呼び出しに応じない?

 どういうことだ?

 こういう時に全てを理解できていないというのが困るんだよ。


 まあいい、しょせん対象は孤児院。

 魔動機兵抜きでもどうということはない。


「かまわん、魔動機兵抜きでいく!」


「了解しました」


 さっさと攫って撤退するだけだ。


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